人と竜の絆
召喚された俺の前で、カノンが笑顔で手を上げた。
いつもは召喚したらすぐに抱きかかえられるというのに。
しかし、さっきまでのやり取りでカノンが何をしたいのかは理解できた。
俺も自分の手を上げ、カノンの手と合わせた。
ハイタッチ。
「これからもよろしくね」
カノンが少しだけ照れ臭そうに言う。
『あぁ、こちらこそよろしくな!』
俺もそう答えるが、少し恥ずかしい気分だな。
生徒たちは、いきなり召喚された俺に驚いた様子はない。
寧ろ、この数秒のやり取りで何かを感じ取ってくれたらしく、カノンに向けられる視線には尊敬の念がこもっているようにすら感じた。
「素晴らしいですね……」
そんな事を呟いたのはロバートだ。
彼は彼で、封印者については生徒よりも詳しい。
だからこそ、この絆の大切さも知っているのだろう。
封印者の封印には色々と種類があるらしいが、その全てに共通していることがある。
封印されている俺たちの協力なしに、力は使えないという事だ。
だからこそ、俺たちを道具として扱おうと考える者は封印者にはなれない。
逆に言えば、形こそ違っても俺とカノンの間にあるような信頼関係は封印者ならば誰もが持っている事だろう。
「相棒……」
教室の後ろの方からマルガレーテの声が聞こえた。
彼女は彼女で、自分とアオの関係について考えているのかも知れない。
彼女のようなテイマーは、俺たちと近い関係を築いているのだろうから。
マルガレーテは小さな声で呟いたつもりだったのかも知れない。
いや、確かに小さな声ではあったのだろう。
しかし、教室にいる全員が静かに俺たちの様子に目を向けていたため、彼女の声はしっかりと聞こえてしまった。
「マルガレーテさん、私から見て、あなた達の関係もまた、カノンさん達に近いものだと感じますよ?」
ロバートがそう言ってほほ笑む。
すると教室の中から、それに賛同する声が聞こえてきた。
「そうそう、アオちゃんとのコンビやばいもん」
「あれは敵にしたくないよな」
「ていうかあんな連携仲良くなきゃできないだろ」
「赤ん坊の竜なら勝てると思ってもマルガレーテが居るだけで勝てなくなるもんな」
確かに、あの隙を埋めあうコンビネーションは面倒だった。
というか、あれだけの連携は確かに普通のテイマーには不可能と言っても過言ではないのだろう。
そんな周りの声に、マルガレーテは少し恥ずかしそうに、しかし嬉しそうな顔をするのだった。
その後もカノンに対する質問は何回か続いた。
俺との出会いとか、そもそもどうやって俺を封印したのかとか、生徒たちの好奇心はカノンに向けられていた。
しかし、封印した方法についてはカノン自身知らないので説明できなかった。
その代わり、俺との出会いの経緯については魔力測定の辺りからを簡単に説明していた。
親に捨てられ、魔物に追いかけられている最中に遭遇したのだと。
そして、その魔物から助けてくれたと言った話をした辺りでは、少し涙ぐんでいる女子生徒もいたりした。
「カノンさん、そんな壮大な過去があったんですね……」
隣で話を聞いていたロバートも思わずと言った様子で呟く。
「えっと……私は魔弱に生まれたことを恨めしく思っていたこともあります。捨てられた時にはすべてがどうでもよくなったりもしました。でも、ハクと出会えたんだから、その全部が無駄じゃなかったんだなって……思います」
そう言って締めくくったカノン。
教室内は、先ほどとは違った静寂さに包まれていた。
誰もが何も言い出せない中、一人の生徒の手が上がった。
「先生、質問していいですか?魔弱だと……そんな簡単に捨てられたりするのが普通なんですか?」
少しためらいながらもそう質問したのは、話の終盤に涙ぐんでいた女子生徒だ。
その質問に、ロバートは首を横に振ってこたえた。
「そのようなことは断じてありません!と言いたいところなのですが……」
そう言って始まったロバートの説明は、カノンに配慮しているのか遠回しな言い方が多かった。
しかし、少し前にアイリスから聞いた話と同じものだった。
その補足として、確かに疎まれたりすることはあっても、魔弱だと判明した瞬間に斬り捨てたりすることは殆どないと言ったものだった。
確かに魔弱はこの世界においてハンデを背負っている状態なのは間違いないが、それでも不自由ながら生活出来ないことはないらしい。
魔弱でも出来る仕事もたくさんある。
将来の選択肢が減るだけだ。
ただし、それは平民の場合であって、貴族となると話が変わってくるらしい。
しかし、これ以上はロバートは口をつぐんでしまった。
この中にいる、貴族である生徒の為だと言って。
そして、出来ることなら、ここに居る生徒たちは魔弱であっても気にしない、そんな感性を持ってほしいと締めくくった。
…………綺麗に終わらせてはいるのだが、どうにも話が脱線している気がするのは俺の気のせいだろうか?




