見学
実技の授業が終わったカノンは、そのまま指定された教室に向かっていた。
アイリスから、次の時間は実技の授業が無いのでよかったら座学を見学してきてはと言われたのだ。
そして、丁度いいタイミングでマルガレーテの居るクラスでの授業が、特殊クラスに関わるものらしいので、それを見学するためにそのクラスに向かっているのだ。
そして、指定された教室に辿り着いたカノンは、入り口のドアを開けようとしてそのまま固まった。
『?どうした?』
カノンが止まった意味が分からず声を掛ける。
「……入っていいのかな?」
いいのかも何も……。
入らないと見学できんだろ……。
『別にいいんじゃないのか?そもそもここの教室って言われてるんだし』
この教室を指定したのはさっきの授業をしていた教師だ。
話は通しておいてくれるらしいので、カノンはそのまま教室に行けばいいと言われたのだ。
だからこの中に入っても何の問題もない。
「それはそうなんだけど……」
しかし煮え切らない態度のカノン。
気持ちは分からんでもない。
こういった所には入りにくいというもの理解できる。
だから扉の前で立ち止まっているカノンの行動は分かるのだが……。
流石にここでは周りに迷惑になりかねない。
『開けるぞ』
「え?ちょ……」
何か言おうとするカノンを無視し、マンイーターの蔓を使って扉を開ける。
その瞬間、扉の向こうから青い何かが飛び出してきた。
「キュー!!」
「わっと……アオちゃん?」
飛び出してきた物体…アオを受け止めたカノンは、不思議そうに首を傾げる。
「キュキュ!」
アオはカノンに抱き留められてうれしそうだ。
「アオちゃん?どうかしたの……カノンさん?」
教室の中から飛び出したアオを追いかけてきたマルガレーテがカノンと目が合った。
「あ、マルガレーテさん」
知り合いに会えてほっとした様子のカノンが安堵したように息を吐く。
「もしかして次の授業を見学するのですか?」
カノンが居る理由に心当たりのあったマルガレーテがそう口に出すと、カノンは頷いた。
「はい、その予定です」
『まぁ、教室の中に入りにくくてここで立ち止まってたわけだが……』
「ハク!」
補足したらカノンに怒られてしまった。
「気にしなくても大丈夫ですよ。ここに居るのは先日カノンさんと私の模擬戦を見た生徒ばかりですし、全員が特殊クラスです。むしろ皆さんカノンさんと話したいと思っているはずですよ?」
そう言って教室の中に視線を移すマルガレーテ。
教室の中を覗いてみると、確かに見覚えのある顔がいくつかある。
因みにその殆どがカノン達の方を見ていたのだが、マルガレーテがそちらを向いた瞬間には顔を背けていた。
因みに複数の視線がこちらに向けられていたことにはカノンも気が付いており、それに気が付いたことで余計に教室内に入りにくそうにしている。
「彼らの事は気にしなくても大丈夫ですよ。行きましょう」
そう言ってカノンの手を引いて教室の中に入っていくマルガレーテ。
カノンは自分の意思とは関係なく、マルガレーテに引っ張られるようにして教室の中に入っていったのだった。
「キュ~!」
『あーもう!近いっての!』
そんなこんなで教室内の一番後ろの席に座ったカノンとマルガレーテ。
ここでは席は基本的に自由に座るらしく、マルガレーテが迷わず一番後ろに向かったのでカノンもそれについて行って隣に座らされた。
そして、机の上でカノンに何かを訴えるアオの意図を察したカノンによって、俺は召喚されたわけだ。
「すみません白竜さん」
俺にべったり引っ付いてくるアオを見つつ謝るマルガレーテ。
『いや、別にいいんだけどさ……』
「キュキュ!」
いいとは言ったがだからって更にすり寄ってくんな!
まぁ、文句を言うだけで抵抗しない俺も俺だが……。
「よかったじゃない。友達出来て」
カノンがそんな事を言ってくる。
これ、別に嫌味とかじゃなく本心で言ってるっぽい。
まぁ、同族……ではないかもしれんが、竜同士仲良くって事なら文句はない。
俺としても仲良くはしておきたい。
しかし、しかしだ!
さっきからすり寄ってくるのは度を越しているのではないだろうか?
『なぁ?アオ?』
「キュ?」
名前を呼ぶと不思議そうにこちらを見てくるアオ。
『いや……やっぱいい……』
こんな目を向けられると文句が言えない……。




