魔装の実力
「くそ!かすりもしない!」
最初に突っ込んできた男子生徒がぼやく。
あの後、生徒たち全員で一斉にかかってきたり、時間差で迫ってきたりしたのだが、カノンには通用せずにあっさりと躱されてしまっているのだ。
そして、そろそろ後半戦と言った時間だ。
『カノン、そろそろだぞ?』
「うん。分かった。じゃあ本気でいいね」
カノンがそう呟くのと同時に、半ば自棄にでもなっているのか二人の生徒が突っ込んできた。
1人は例の男子生徒。
そしてもう一人はショートヘアの女子生徒だ。
「行け!」
「了解!」
男子生徒のその言葉に、女子生徒が答えるのと同時、女子生徒の速度が一気に上がった。
その変化にカノンもわずかに驚いた表情を浮かべる。
そして、そのまま女子生徒の手がカノンに触れる瞬間……。
カノンの姿が消えた。
「!?」
目の前でカノンが消えるという事態に陥った女子生徒はその場で急停止し、カノンを探す。
そして、自分たちの後ろに居るカノンを見つけ、大きく目を見開いた。
「……綺麗」
誰かがそんな事を呟いた。
カノンの全身は魔力の衣に包まれ、衣は風に靡いている。
俺の魔力の影響で純白の衣は揺らめくごとに光を反射し、カノンの姿を神秘的に彩っている。
殆どの生徒はその神秘的な姿に感嘆の表情を浮かべ、それ以外の生徒も魔装という身体強化のさらに上の能力を見せつけられ、半分諦めた顔をしている。
「その姿、すごく綺麗ね」
カノンの目の前の女子生徒がカノンに向かって声を掛ける。
「ありがとうございます。そう言われたのは初めてです」
褒められて悪い気はしないようで、カノンもにこやかに返事をする。
しかしその視線は、目の前の少女に突如出現したウサギのような耳に向いている。
この女子生徒が加速した瞬間に耳が生えてきたのだ。
尻尾は見えないが、ウサギって尻尾は短いし服に隠れていても可笑しくはないな。
気になるのは、俺たちのような封印者ではないようだし、どんなからくりになっているのかという事か。
「さっきのは少し危なかったですよ?これじゃなければ負けてたかも知れません」
魔装の衣の裾をつまみながらカノンが言う。
カノンの言った事は間違いではない。
普段の戦闘ならまだしも、触れられたら負けのこの戦いにおいて、さっきは魔装なしでは避けられなかったかもしれないのだ。
それだけの速度というわけではなく、いつかのカノンやセレンのように速度の緩急をコントロールした結果だ。
「嬉しい。でも、この姿なら負けない」
そういった瞬間、少女の姿がブレる。
それと同時にカノンもその場から消えてしまった。
高速思考を使って二人の姿を捉える。
少女が地面を蹴った勢いでカノンに肉薄するのと同時に、カノンは大ジャンプでそれを躱す。
しかし少女も、カノンが跳んだと見るや否や再び地面を蹴ってカノンに迫る。
ウサギだから跳躍力に特化しているのかと思いきや、脚力全般がさっきとは比べものにならないくらいになってしまっている。
「そこ!」
「遅いですよ」
少女の手がカノンに振れる直前、カノンが宙を蹴ってその手を躱し地面に降りる。
って……何した?
こんな動き俺も知らんぞ?
「嘘…」
今だ空中にいる少女は、身動きの取れないはずの空中で自分の手を躱したカノンを信じられないと言った様子で凝視する。
うん。
気持ちは分かるぞ。
寧ろ俺も同じ気持ちだ。
竜装での飛行中ならまだしも、何もない場所を蹴って移動するなんて可笑しい。
アイリスも似たようなことをしていた気はするんだが……。
いや、考えないようにしよう。
カノンは地面に降り立つと他の生徒に視線を向ける。
しかし、誰一人として向かって来ようとはせず、カノンと少女に視線を向けているだけだ。
そんな生徒たちを警戒しつつも、カノンはいまだ空中にいる少女に視線を向ける。
一番の脅威は彼女だと判断したようだ。
まぁ、残りの奴らの警戒もしてはいるようだし、俺は俺で警戒しておけばいいか……。
俺が教えていいのかはこの際置いておくが……。




