鬼ごっこ?
生徒たちへの説明も終わり、カノンと生徒たちが向かい合うように並ぶ。
生徒の人数は約10人。
普通に考えれば無理げーに思えなくもないが、身体強化のレベルが違う。
それなりの勝負にはなるだろう。
「では、始め!」
「おりゃー!」
教師の合図とともに一人の男子生徒が真正面から突っ込んできた。
他の生徒たちはまだ動かない。
いや、身体強化を発動するのに少し時間がかかっているようだ。
恐らくは数秒程度だろうが、それでも実戦では遅い。
身体強化の発動までの時間は、個人差もあるがほとんどの冒険者は一秒も必要ない。
ではなぜ、生徒たちがこれほどまでに時間がかかっているのかというと、単純に慣れていないからだ。
いくらスキルがあっても、反復練習をしないと発動に手間取ることもある。
身体強化は慣れないうちは意識して発動しないと自分の思った通りの強化が出来ないし、持続もしない。
因みにカノンが最初から問題なく使えていた理由なのだが、魔力操作によるところが大きい。
このスキルは、魔力を使用するスキル全てに影響を与えるので、身体強化も例外ではなく使いやすくなっているのだ。
例外として、身体強化が生まれつき得意な者もいたりする。
セレンはいい例だろう。
彼女は身体強化のレベルをある程度は自在に変えられる。
それも、冒険者になってすぐから。
ここの生徒たちも才能自体はあるのだろうが、あくまで魔術師タイプなのだろう。
身体強化を使うことに問題はないが、その発動までには少しのタイムラグが出てしまっている。
そして、最初に向かってきた男子生徒はそのタイムラグなしで身体強化が出来るのだろう。
それを活かして、一人で飛び出してきたようだ。
まぁ、だからと言って……。
「一人だけですか?」
「なっ!?」
カノンに迫れるかどうかは別だが。
カノンは男子生徒と同じく身体強化を発動し、横に避ける。
それだけで男子生徒はカノンの横を素通りしていってしまった。
この鬼ごっこは、カノンに触れた時点で生徒たちの勝ちになる。
だから、一直線に肉薄しそのまま体当たりを敢行したのだろう。
短期決戦目当ての策は悪くない。
しかし、カノンには通じない。
この程度の速度ならカノンなら充分見切れる。
「おい!いけ!」
カノンの後ろで急制動を掛けながら男子生徒が叫ぶ。
それと同時に全員がカノンに向かって走ってきた。
身体強化が終わったらしい。
しかし、全員が一丸となって特攻してくるのは迫力があるのだが、動きが直線的過ぎてあまり脅威を感じない。
まぁ、カノンが掻い潜れる隙間も潰しているようでさっきみたいな回避は出来ないが……。
しかし、カノンの機動力を舐めてもらっては困るな。
「竜装」
カノンがそう呟いた瞬間、カノンの姿が変わる。
全身に浮かび上がる竜の鱗に、縦に開いた瞳孔。
カノンと目が合った何人かの生徒が足を止める。
そして、いまだにまっすぐ向かってくる生徒をカノンは大きくジャンプして飛び越えた。
「な!?何でそんな動き……」
1人の生徒がそんなことを呟く。
しかし、この程度の動きが出来る冒険者はいくらでもいる。
寧ろ、この程度で驚かれては魔装を使ったらどうなってしまうのか心配になってくる。
「くそ!」
不意にカノンの後ろから声が聞こえた。
カノンが振り向くと、最初に突っ込んできた男子生徒が再び突っ込んでくるところだった。
「……」
「っ!……」
カノンと目が合った瞬間に一瞬怯んだものの、スピードを落とす落とすことなくまっすぐに向かってくる。
冒険者とか相手だと殆ど反応されないので忘れていたが、竜装発動時のカノンの眼は竜のようになってしまっている。
子供相手では恐怖を与えることもあり得るのか……。
まぁ、普通の威嚇みたいなスキル依存ではないし、こればかりはしょうがない。
慣れてくれ。
俺からはそれしか言えんな。




