助手の仕事
その後、少しして目を覚ましたリーゼはセシルの店に向かった。
防具と刀の受け取りに行ったのだ。
というわけで、今日の午前はカノンだけでアイリスのサポートをすることになった。
そして、さっそく実技の授業に入った訳なのだが……。
「せんせー、こいつはなんなの?」
アイリスの隣に立っているカノンに対して、様々な視線が投げかけられている。
今疑問の声を上げたのは少しやんちゃそうな男子生徒だ。
このクラスはマルガレーテ達の一つ上の学年になり、ここに居る生徒は全員、カノンと会うのは初めてだ。
今の疑問の声も、馬鹿にしているというよりも自分より年下の少女が何故かAランク冒険者の隣に立っている事への純粋な疑問に思える。
「こいつとは何ですか!カノンさんはCランクの冒険者であり、この授業ではアイリスさんの助手ですよ!」
アイリスを挟んで反対に立っている女性教師が強めの口調で注意する。
そして、Cランクという言葉に何人かの生徒がざわめいた。
「まぁまぁ、信じられないかも知れないけど、カノンちゃんの凄さはこの授業が終わったころには身に染みて分かるわよ。というわけで、今日の内容は……」
そんな生徒たちをなだめるようにアイリスが言いつつ、そのまま教師へバトンを渡す。
「あ、はい。昨日打ち合わせをしたんですが、今日は少しハードですよ?」
教師の言葉に生徒たちの顔に影が差す。
「今日の授業は…………鬼ごっこです!」
声高々にそう宣言する教師。
「「「「「「「「は?」」」」」」」」
どんな地獄の授業になるのかと怯えていた生徒たちが、一斉に首を傾げた。
なんだかシュールな光景である。
「えっと……鬼ごっこ……ですか?」
カノンも戸惑ったように視線をアイリスに向ける。
そして、しまったと言わんばかりに視線を逸らすアイリス……。
『アイリス?打ち合わせは兎も角、内容くらいは事前に教えてくれ……』
アイリスからは来なくていいと言われていた打ち合わせだが、やっぱり俺だけでも参加した方がいいだろうか?
「アイリスさん?」
「あ、あはは……ごめんなさい…」
カノンに名前を呼ばれ、素直に謝るアイリス。
「あれ?カノンさんは内容を知らされていないのですか?」
教師の方もこれは意外だったようで、カノン達のやり取りを聞いて気まずそうにしていた。
結局、カノンが何も聞いていなかったので教師が生徒たちに説明をしている間にアイリスがカノンに説明してくれた。
それによると、一回戦はカノンが逃げ回って、二回戦でアイリスが逃げ回るという事らしい。
そして、制限時間10分の間にカノンを捕まえられなければカノンの勝ちで、捕まれば生徒たちの勝ちというシンプルなルールのようだ。
因みに、カノンを捕まえられなかった場合はカノン、もしくは俺が二回戦での妨害役をする。
つまり、カノンを捕まえられないと難易度が跳ね上がるというわけだ。
そして、アイリスを捕まえられないと特別メニューがあるらしい。
どんな内容なのかは聞いていないが、恐らくろくなものではないだろう。
で、条件なのだが、生徒、カノン共に身体強化、もしくはその派生スキルのみしか使用できない。
身体強化の派生スキルでカノンに該当するのは、魔装、若干怪しいが竜装も大丈夫だそうだ。
寧ろ、後半戦に入ったくらいで竜装、もしくは魔装を切り替えると面白いかもとはアイリスの言葉だが……。
まじめな話、竜装は実質封印者専用スキルのようなものであり、その能力を実感できる貴重な機会なのは間違いないので、出来るなら使ってほしいそうだ。
魔装に関しても、身体強化の純粋は派生先ではない(というか身体強化に純粋な派生は存在しない)が魔装スキル自体もかなり珍しいスキルであるため、生徒のためにも使ってほしいとのことだ。
あぁ、因みに竜装で空を飛ぶのは禁止された。
当然と言えば当然だが……。
そんなわけで、アイリスの説明を聞いた俺たちは簡単な作戦を立てて、教師の説明が終わるのを待つのだった。
ってか、何でこっちより説明長いんだよ……。




