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カノンのクラス

「嬢ちゃん!よく無事だった!」


ギルドに戻ってきたカノンを迎えてくれたのはそこにいた冒険者たちだった。昨日よりも人数が多い気がする。カノンたちは近くの冒険者たちに男を引き渡した。


「じ、嬢ちゃん…これは一体……」


カノンから男を引き取った冒険者の第一声がこれだった。まあ無理もない。男は短い距離とはいえ、カノンとイリスに物理的に引きずられてきたのだから全身がボロボロになっている。


これを見ればほとんどの人は似たような反応を返すだろう。


「途中で抵抗したから私とカノンちゃんで引きずってきたのよ。自業自得でしょ」


イリスがさも当然の事のように言い、カノンも頷く。それを見た冒険者たちは密かに心に誓った。


(((((この二人には逆らわないようにしよう)))))


そんな事をしていると、ロイドが近づいてきた。


「カノンちゃん、お手柄だったな。ギルマスがお前さんを呼んでるぜ」



ロイドの言葉にカノンは身を固くする。


そんなカノンの様子に気づいたのか、ロイドが笑った。


「はははっ!そんなに緊張しなくても大丈夫だ。別に悪いことして叱られるってわけじゃないんだからな。むしろカノンちゃんにとってはいい話もあるはずだぜ?」


その言葉を聞いてカノンは首を傾げつつ、ロイドの案内でギルドマスターの部屋に向かった。









ギルドマスターの部屋の前まで来ると、ロイドはノックもせずに扉を開けた。


「ギルマス、入るぞ」


「いや、入ってから言っても遅いからね?それとお願いだからノックはしてね?」


部屋の中からロイドに突っ込みを入れたのは、60歳ほどに見える男だった。冒険者のような感じには見えないので、多分雑務専門なのかもしれない。


「えっと…失礼します」


カノンはロイドの後ろについて恐る恐る中に入る。


「貴方がカノンさんですね?僕はここのギルドマスターをしているロンと言います」


ギルドマスター、ロンはそういうと軽く一礼した。


「Fランク冒険者のカノンです。よろしくお願いします」


続いてカノンが深々と礼をする。


「はい、よろしくお願いしますね」


ロンはそこでニコニコした表情からまじめな顔に変わる。カノンも思わず表情が硬くなる。


「この度の我がギルドの不始末によりご迷惑をお掛けしたこと、謝罪いたします。申し訳ありませんでした。そして、その元凶を捕まえてくれたこと、心より感謝いたします」


ロンはそういうと深々と頭を下げた。普通、ギルドマスターが一介の冒険者、それもFランクの新人にするような行為ではない。


「え、えっと…あの…その…」


カノンもどうしたらいいのか分からないらしく、それでも何か言わなければと頑張った結果、ただ戸惑いの声が出てきただけであった。


「おいギルマス、組織のトップがいきなり頭を下げるな。カノンちゃんが戸惑ってるだろ」


見かねたロイドがロンに声を掛ける。


「しかし…今回の事は…」


「だからやり方を考えろって言ってんだよ!いきなり新米冒険者がいきなりギルドのトップに頭を下げられたら普通混乱するだろうが!」


反論しようとしたロンをさらに押し込めるロイド、ロイドって意外と頭も回るのかもしれない。


「すまん、カノンちゃん。こいつ、ギルドマスターとしては能力は高いんだがこういったことになると周りが見えなくなるんだ」


ロイドがからかうように言う。


「い、いえ…その…」


しかしカノンは復活には時間がかかりそうだった。


「ギルマス、カノンちゃんを呼んだのはそれだけじゃないだろ?」


このままで話にならないと思ったのか、ロイドが強引に話を進めてくれた。


「あぁ、そうだった。カノンさん、君にこれを渡したいと思う」


ロンはロイドの言葉で思い出したのか、机の上に載っていたカードをカノンに差し出す。


カノンはそれを少しためらいながら受け取った。


そのカードには、カノンの名前、そしてEランクと書かれていた。


「えっと…これは?」


「君をEランクに昇格させることになったんだ」


ロンがそういうが、カノンはまだEランクになる規定を満たしてないはずだ。たしかCランクまでのランクアップには、まず自分のランクと同じか上の依頼を一定数こなし、高ランク冒険者立会いの下昇格するランクの魔物を一人で討伐する必要があるはずなのだ。


これは昨日の説明で聞いた話だが、魔物にも脅威度によるランク分けがあり、冒険者は同じランクの魔物を一人で問題なく相手できることが求められるらしい。逆に言えば、この制度があるので簡単な依頼だけでランクを上げた冒険者が、実力不足で魔物に殺されることを防いでいるらしい。


FランクからEランクに上がるにはFランク以上の依頼を30個以上達成しなければいけなかったはずだ。カノンはまだ研究所への配達と、常時依頼の盗賊の討伐しか実績がないはずなのだ。


「私…まだ依頼を…」


「それについては問題ないよ」


カノンの質問を遮ってロンが口を開いた。


「まず、盗賊の捕獲はDランクの依頼になってる。つまり君はDランク以上の実力は問題なくあるということだ。これで試験は免除となる。そして今回重要視されたのが、ギルドへの貢献度だ」



ロンの説明によると、今回カノンはギルドの不正を暴くきっかけになったそうだ。どうもあの研究所でのやり取りがロンの耳に入ったようで、男の不正を調べるきっかけになったらしい。そしてもしこれだけだったなら、カノンのランクは上がりやすくなるだけで終わる予定だったらしい。


ロンがギルドの本部と魔道具でやり取りした結果、もしもカノンがこの男を捕まえるか不正の証拠を見つけた場合、特例としてEランクに挙げることが決定されたらしい。


もしこのまま不正が続いていれば、罪のない子供たちに多大な被害が出る。それを止めたのだから当然の措置らしい。


「というわけでカノンさん。あとで魔力とスキルの測定をするんだけど、その前にギルドカードに魔力を流してくれないかい?」


「は、はい」


カノンがロンに言われた通りにギルドカードに魔力を流す。するとそこに何かの紋章が浮かび上がり、空欄だったクラスが追加された。











クラス・封印者(シーラー)












封印者(シーラー)?」


カノンが疑問の声を漏らす。


その声を聴いたロイドとロンがカノンの持っているギルドカードをのぞき込み、二人同時に固まった。


「……シ、封印者(シーラー)………だと?」


「嘘だよね?だってこの国にもまだ6人しかいない……」


二人は何度もカノンのギルドカードを見直して、そこに書かれている事を飲み込んだようだ。


「あの…これって?」


封印者(シーラー)の意味を知らない俺とカノンは戸惑うしかない。


「あぁ、封印者(シーラー)っていうのは、特殊クラスの一つだよ。多分登録したときに説明があったと思うけど、クラスっていうのはその冒険者の戦闘スタイルで決まる。でも稀に戦闘スタイルじゃなく、持っている素質で決まるクラスがあるんだ」


ロンは何とか復活し、カノンの疑問に答えてくれた。


「例えば【聖女】、このクラスは神の祝福を受けた女性だけがなるクラスだ。そして戦闘スタイルがどうだろうと変化しない。それが特殊クラスだ」


続いて復活したロイドも補足してくれる。


「あの、じゃあ封印者(シーラー)っていうのは?」


「あぁ、封印者(シーラー)とは、その名の通り封印者、魔物などを自分の中に封印している者の事だよ。まあ封印と言っても実際には協力関係みたいなものだけどね」


その後ロイドとロンの説明を纏めてみると、封印者(シーラー)とは特殊クラスの一つ、条件は魔物や魔獣、もしくは神獣などを自分の体内に封印している事らしい。しかし封印とは言っても、封印されている側との協調が必要で、それがないと封印自体が成立しないようだ。


そして、このクラスの特徴として封印している者の魔力を利用したり、その能力の一部を行使することが可能になる。


そしてこのクラスは、他の特殊クラスと比べても数がかなり少ないらしい。なぜならまず意思の疎通ができる魔物や魔獣は基本的に居ない。そして神獣ともなってくると態々人に封印されようなどと思うはずがない。


よって封印できるのは魔物や魔獣の特殊個体、その中でも知能が発達して意思の疎通ができるものに限定されるらしい。例外的に、一族を代々守護する神獣などはいるらしいが、それも世界でも数えるほどしかいないらしい。


それに魔物や魔獣の特殊個体と言っても、好き好んで人に封印されたいわけがない。特殊な事情がない限りは……


「そしてこれが一番大事なんだけど、封印する側の素質が難しい」


「素質……ですか?」


ロンの言葉にカノンが首を傾げる。


「そう。まず一つ目に魔弱であること。そして魔力の許容量だけがSランク冒険者並みに多いこと。この二つの条件がそろってないと、封印した時点で体が耐え切れずに死亡してしまうんだ」


ロンの説明に俺は背筋が凍る思いだった。もしもカノンがその資質を持っていなかったら、俺がカノンに止めを刺していたかもしれなかった。


「そうなんですね」


カノンは呟くと、両手を胸に当てる。


「私が魔弱だったから、ハクと一緒に…」


カノンは少しだけ嬉しそうにほほ笑む。


「なるほどね。君に中にいるのはハクという名前なのか。彼…か彼女かは分からないが、人の言葉は分かるのかい?」


ロンがカノンに聞くとカノンは頷く。


「ハクは…多分男の子…です」


『いやカノン?俺は間違いなく男だぞ?』


カノンが少し自信なさげなので慌てて男だと断言する。竜になって性別など関係あるのかは分からないが。


「男、らしいです」


「なるほど、君は会話ができるんだね」


ロンは納得したように言う。そして佇まいを直し、再びカノンに向かって一礼した。


「ハクさん、あなたにも謝罪と感謝を……、本当にありがとうございます」


『え?俺にか?』


ロンの思わぬ行動に、思わず声が漏れてしまう。まさか竜である俺にここまでしてくれるとは思ってなかった。


「ハクが…戸惑っています」


カノンは笑いを押し殺しながら言う。


「おいギルマスよ~、いきなりそんなことされちゃ戸惑うに決まってんだろ」


ロイドの呆れたような突っ込みがロンに入るがロンはあまり気にしていないようだ。


「まあ、ともかくだ。封印者(シーラー)だったんなら魔力測定もしとかないとまずいな」


「まずい…ですか?」


「あぁ、封印者(シーラー)ってのは、要は魔物や魔獣の力を使えるわけだが、同時に弱点なんかも抱えちまう。例えば火に弱い魔物を封印した場合、その封印者の方も火に弱くなったりする。だから封印されているのがどんな奴で、どんな特性を持っているのかチェックしないと、普通の人間が入っても大丈夫な洞窟であっさり死んじまうこともあるんだ」


「そんなわけだから、さっそく検査室に移動しようか」


ロンはそういうと部屋を出ていく。ロイドとカノンも慌ててその後を追いかけた。




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