ルームメイト
リーオの提案はカノンにとっても学園側にとっても損はなく、立場的に反対するかも知れなかったアイリスもカノンがいいのならとすんなりと受け入れた。
というわけで、カノンは次の授業がある日から、実技の講師のサポートをする必要が無い時は見学できることになった。
そして、ある意味大事な寝泊まりする部屋なのだが、一つ問題があった。
教師用の寮は殆ど空きがない。
なので泊まれるのは二人までらしい。
生徒用はというと、こちらはそもそも空き自体がない。
正確には、部屋は空いていない。
生徒用の寮は基本的に二人一部屋。
その中でも、特殊な理由で二人部屋を一人で使っている部屋以外は満室らしい。
そして、こっちはカノンの場合は割り込んでも問題なさそうな部屋があり、そちらの生徒にも許可は取ったらしい。
寧ろ、その許可を取るために時間がかかっていたらしい。
なので、アイリスとリーゼは教師用の寮に泊まり、カノンは生徒用の寮に泊まることになったのだ。
そんなわけでアイリス達と分かれて生徒用の寮の寮母さんに案内してもらい、カノンが泊る部屋へとやってきたのだが……。
「ここ……ですか?」
「はい、ここがカノンさんの部屋にですよ。何か気になる事でも?」
丁寧な物腰の寮母さんが聞いてくる。
見た目は30台半ばと言った感じのふくよかな女性だ。
いや、そっちは置いておくとして……。
「いえ、大丈夫です」
そういいながら本当にここであっているのかと首を傾げるカノン。
うん。
まぁ気持ちは分かる。
生徒用の寮は、部屋によって数種類のランクがあった。
これは身分の違いによるランク分けではなく、成績によるランク分けで、昨年度、もしくは入学試験の結果順に割り振られているようなのだが、目の前の部屋は明らかに一番ランクの高い部屋に見える。
「緊張しなくても大丈夫よ。カノンさんの知ってる子らしいから」
そういいながら扉をノックした。
「あ」
扉が開いた瞬間、思わず声を漏らすカノン。
「は~い。あら、カノンさん。昨日ぶりですね」
少しの間をおいて中から出てきたのは、マルガレーテだった。
「まさかマルガレーテさんの部屋だったなんて」
寮母さんが戻っていったあと、部屋の中に入ったカノンが開口一番そんなことを呟いた。
「私も、学長先生から話を聞いた時には驚きましたよ。まさか宿なしになってるなんて」
「キュー」
マルガレーテに同調する様にアオが鳴く。
『まぁ……安全を考えなければ宿なんてどうにでもなるんだけどな』
「キュ~?」
「白竜さん、それは最も大事なことだと思いますよ?特にカノンさんは年頃の女の子ですし」
確かにそうなんだが……。
元々身の危険を感じることのない日本で暮らしていて、命を狙われる事態に遭遇したことはなかったからいまいち危機感が薄いのかも知れないな。
これでも最初の頃に比べればそういった事に対する感覚も鋭くなったと自負していたんだが……。
「ですが無事で何よりです。あの後は結局会えませんでしたしね」
そういいながら大きく息を吐くマルガレーテ。
「あ…ごめんなさい」
そんなマルガレーテの様子を見てカノンが申し訳なさそうに謝った。
「い、いえ、別にカノンさんが謝ることでは……」
まぁ、マルガレーテ達に会えなかったのは彼女たちの身の安全を考えた結果だ。
それもあって、彼女たちはあの後学園の外には出ていない。
ここが一番安全なのは間違いないのだから、ここに居た方が良いに決まっているしな。
『しかし、何でお前は一人なんだ?別にルームメイトがいても問題はないだろ?』
このままだと謝罪合戦になってしまいそうだったので話を変えようか。
「あ、そのことですか?アオちゃんが居るので……」
「キュ?キュキュ?」
何?呼んだ?みたいにマルガレーテに歩み寄ってくるアオ。
あぁ……まぁ……いくらこのサイズでも竜は竜だし、一緒に暮らしたい生徒はいないよな……。
「可愛いんですけどね」
残念そうにアオの頭をなでるマルガレーテ。
そうやって大人しく頭をなでられていたアオだが、突然その手を避けるようにしてカノンに近づいてきて、何かをアピールしだした。
「ん?どうしたの?」
必死な身振り手振りで何かを訴えるアオ。
対してカノンは意味が理解できずに首を傾げる。
「キュキュ!」
「……あ!もしかしてハク?」
「キュ~!」
当たりだったようで嬉しそうに頷くアオ……って、まさか……。
「分かった。ちょっと待っててね。…………」
そう言って詠唱を始めるカノン。
あぁ、昨日は流石に召喚されなかったから忘れていた。
そういや、何でか知らないがアオに気に入られてるんだよな……。
そんな事を考えているうちにカノンの詠唱が終わり、俺はカノンの目の前に召喚された。




