リーオの考え
いつの間にやらカノン達の後ろに居たのはリーオだった。
「えっと、学長さん?」
カノンが不思議そうに声の方に振り向くと、そこにはにこやかな笑みを浮かべたリーオがいた。
「短期の依頼でも学べるところからしっかり学ぼうとする姿勢、立派だね。入学してくれないのが残念だよ」
「あ、えっと……私は冒険者をしたいので……」
リーオの言い方に入学を促されていると感じたのか、言いにくそうに答えるカノン。
「いやいや、別に責めてるわけじゃないよ?カノンさんの実力なら同世代の子達と学んでも学べることは少ないだろうし、そもそも学園に通うだけがすべてじゃないからね」
そう言いつつアイリスの方に視線を移すリーオ。
視線を向けられたアイリスが気まずそうに視線を逸らす。
一体何があったのだろうか……。
「アイリスさん?」
リーゼが首を傾げながらアイリスを見る。
カノンも同じくアイリスを見るが、アイリスは視線を逸らせたままだ。
「ははは、アイリス君にとっては可愛い後輩に知られたくないことかな?」
内容を知っているだろうリーオはアイリスに微笑ましい視線を送っている。
気になる。
気になるが本人が言いたくないようだし聞かないようにしようか……。
まぁ、アイリスの事だし本気で隠そうとしなければ何かの拍子に知れるだろうしな。
「ではアイリス君の事は一時置いておくとして……カノンさん、提案があるんだけど……」
そう言いつつカノンに向き直るリーオ。
その真剣な表情に、カノンも緊張した顔になった。
リーオの提案とは、簡単に言ってしまえば体験入学のようなものだった。
カノンがアイリスの助手として依頼を受けている期間は一か月、この話は今知ったばかりではあるが、それはこの際置いておく。
で、この一か月間は別に一日中講師をするわけではなく、どこかのクラスの実技の授業があるときだけ、しかもカノンの場合は助手なのでもっと手は空くはずだ。
リーオの提案は、その時間に特殊クラスの座学の授業を見学してみたらどうかという誘いだった。
本来、学生は授業料を払って授業を受けており、よほどの理由でもないと見学などできないのだが、今回は先の件の賠償の代わりとしての提案らしい。
学園の関係者が学園の中での出来事を発端に進めた一件だったため、何もしないと学園にも何らかの影響が出てくる可能性も捨てきれない。
しかも、Aランク冒険者の助手に対して、もっと言えばAランク冒険者も巻き込んだ出来事だったわけだ。
Aランクの影響力はそれなりに高く、しかもアイリスは貴族。
いくら学園とはいえ、おとがめなしにはならない可能性が高かったのだ。
なので、普通は公開されない授業を見学できるように取り計らう代わりに、この一件に関しては学園側に責任を追及しないようにして欲しいという交換条件のようなものだったりする。
まぁ、俺としては全く損はしてない。
そもそもカノンも学園にまで責任を負わせる気はないだろうし、黒幕を自分の手で捕まえたことでとりあえず怒りも収まっただろうしな。
というわけで、カノンにとっても問題はないだろう。
問題があるとすれば……。
「…………」
リーオの話を聞きながら難しい顔をしているアイリスか……。
アイリスは貴族だし、それで手打ちは容認できないかも知れんしな……。
「カノンちゃんはそれでいいの?」
少し考え込んでいた様子のアイリスだが、やがてカノンを気に掛けるような視線でそんな事を聞いてきた。
「えっと、はい。私は、少し興味があります」
カノンが即答する。
するとアイリスの表情がにこやかになった。
「私はいいと思うわよ。こっちは私達で何とかなるし、カノンちゃんは自分のしたいことをしてきなさい」
そんな事を言うアイリスを見ていると……。
『なんだかお姉さんみたいだな』
素直に思った事を口にしてみる。
「お姉さん?お姉さんか……いいわね」
俺の言葉がツボにはまったのか、アイリスはそんな事を呟き続けているのだった。




