アイリスを探そう
「あー、学園の依頼中か~。確かにそれだと使う機会ないよね」
俺の説明を聞いたセシルが納得したように頷く。
『そもそも練習もなしに使っていい武器じゃないしな』
使う機会は確かにあった。
しかし、その段階ではどれだけ扱えるかは未知数で、守るべき対象もいる状態で使っていい武器ではなかったのだ。
「練習できる場所か……。そうだね。ギルドの訓練場とか……、あ、一応うちの奥使ってくれてもいいよ?」
あぁ、そういえば武器の試し切りをする部屋があったな。
しかしカノンは難しい顔をする。
「えっと、狙った場所を撃つのは大丈夫なんです。後は動いてる相手に当てられるかどうかで……」
そういえばカノンは動かない的への射撃は中々上手い。
後は動いている相手に当てられるかどうかだが、それが一番難しい問題でもあると思うが……。
『結局そういうのは慣れていくしかないからな。動く的でもあれば簡単なんだが……』
出来れば直線的な動きから始めて、最終的には変則的な動きの相手にも命中させられるようになってほしい。
とはいえ、その難易度以前に訓練方法が問題になってくるわけだが……。
そういった事をセシルに話すと、セシルは少し考えを巡らせた後口を開いた。
「そうだね……直線的なのなら、誰かに魔法を打ってもらってそれを狙撃してみたらいいんじゃないかな?不規則って言うのは……ごめん。ちょっと思いつかないかな」
魔法か……。
「ハク、一つ思いついたんだけど……」
セシルの言葉を聞いていたカノンが不意に口を開いた。
『なるほどな……向こうにも話を通してみないと分からないが……いいと思うぞ?』
カノンの説明を聞いた俺はそう返す。
問題となりそうなこともあるにはあるが、何とかなりそうな気がしている。
「じゃあ今日は話を通しに行って、出来るとしても明日以降かな?」
リーゼがそういうと、カノンは頷いた。
「うん、そうなると思う」
『どっちにしろ話をするなら今日がいいだろうな。で、無理そうならここかギルドで何とか訓練するしかない』
「そうだね、じゃあ早速行ってみよ」
カノンがそういうとリーゼも頷いた。
『そういうわけだ。上手くいけば魔銃のお披露目も近いかもな』
「うん、楽しみにしてるからよろしくね」
セシルの笑顔に見送られ、俺たちは武器屋を後にするのだった。
というわけでやってきたのは学園だ。
正確には、通用口の詰所だ。
現在、カノン達が学園に入るための手続きの最中だ。
手続きと言っても、アイリスと最初にここに来た時にアイリスの助手としての入場許可は取っているので、どの時間にどの門を通って入ったかを登録するだけだが。
その手続きを5分ほどで終わらせ、カノン達は学園の中を歩いている。
『さて、まずはアイリスを探さないといけないんだが……』
「見つかるかな?」
「ハク、気配察知は?」
カノンから無茶ぶりが飛んできた。
『森の中なら余裕なんだがな……流石にこの中で探すのは……』
学園の中だけあって、気配の数も半端なく多い。
いくらアイリスの気配でも、この中から探し出すのは不可能に近い。
「じゃあどうやって探す?」
「大声で呼んでみたら?」
リーゼがさらっとそんなことを言う。
「リーゼさん?」
カノンのジト目がリーゼに向くが、よく考えてみると意外といけるんじゃないのか?
『……やってみたら意外と如何にかなりそうな気がするんだが……』
「ハク?」
カノンから冷たい声が聞こえてきたが、一応弁解しよう。
『カノン、アイリスの性格と規格外性を考えてみろ』
俺がそういうとカノンは無言で暫し考え込む。
「……あれ?普通に返事をしてくれる姿しか想像できない」
うん。
そうなんだよな……。
アイリスって呼べば普通に返事してくれそうなんだよな……。
「じゃあ……」
カノンがそう言いつつ息を大きく吸い、そのまま止まった。
「カノン?」
『どうした?』
俺とリーゼが不思議そうに声を掛ける。
「ぷはー!なんか恥ずかしいんだけど……」
あぁ……。
気持ちは分からんでもない。
「代わってあげてもいいんだけど私じゃ返事返ってこない気がして……」
『カノンは少し特別感あるしな……』
俺とリーゼがそういうと、カノンは諦めたようにため息を吐いてそのまま息を大きく吸った。
「アイリスさーん!!!」
始めて聞いた気のするカノンの大声。
その声が学園中に響く。
その直後……。
「はーい!どうしたの!?」
そんな声が返ってきて、奥の方からアイリスが走ってくるのが見えた。
てか、本当に来やがった……。




