薬屋
「ひっひっひ、いらっしゃい」
薬屋に居たのは、小柄なお婆さんだった。
どことなく特徴的な笑い声といい、いかにもな雰囲気だ。
「えっと、薬を買いたいんですけど……」
そういいながらリーゼは欲しい薬の種類を伝えていく。
「ひっひ、傷薬に消毒薬……冒険者かい?少し待ってな」
そう言って店の奥に入っていく店主の婆さん。
この店は店頭には殆ど商品が並んでいない。
店主に欲しい品物を伝えて用意してもらう方式らしい。
薬は高価なものも多いし、使い方を誤ると危険なものもあるので、この方式は一般的なようだ。
しばらくして戻ってきた婆さんは、カウンターの上に数種類の薬の入った瓶を並べていく。
「これが傷薬だね、で、こっちが一番安い奴でこっちが高い奴さね」
そう言って右端と左端を指す。
右から順に値段別に並べられているようだ。
『値段によって違うものなのか?』
「えっと、これってどう違うんですか?」
俺の呟きをカノンが質問にしてくれた。
「ひっひ、お前さん、薬を使った事はないかね?」
「えっと、はい……」
カノンが返事をするが、若干引き気味な気がする。
「ひっひ、冒険者なのに薬を使わないってのかい?治癒魔法でも持ってるのかい?」
不気味な笑みをこぼしつつ、婆さんは一番安いと言っていた薬を手に取った。
「これは薬草をすり潰しただけの薬さ。勿論、薬効が落ちないように混ぜ物はしているけど、殆ど薬草と変わらんさね」
そう言って蓋を開けて中身を見せてくれた。
中には茶色い塗り薬が入っている。
確かに草をすり潰しただけにも見えるな。
「効果は薬草と同程度だけど、ある程度は保存がきくから重宝されるさね」
そういいながら瓶に蓋をして、今度はその二つとなりの瓶を手に取った。
「こっちはいくつかの薬草を油で伸ばした軟膏さね。さっきのよりも薬効も安定してるし効果も高い。ついでに塗りやすいしね。一番人気はこされね。ひっひ」
いちいち不気味な笑いは如何にかならんのか……。
とはいえ……、やっぱり値段や薬効を考えるとこの辺りが一番バランスがいいのかも知れないな。
「じゃあ……、こっちって……」
カノンがそういいながら一番高いという瓶を指さす。
「これかい?ひっひ、これは高いよ?でも効果も高いさね。半分ポーションみたいなもんだからね」
「ポーション?ですか?」
カノンが首を傾げると、隣のリーゼが説明してくれた。
「カノン、ポーションと薬の違いって知ってる?」
「えっと、ポーションの方がよく効く?」
「あ~、そういう印象なんだ。ポーションは作るときに魔力を混ぜてる、でも薬は薬草の成分だけ。そんな違いがあるんだけど、薬草の中には魔力を持ったのもあるんだよ」
あぁ、つまりそういった素材を使えばポーションもどきが出来るって訳か。
「ひっひ、全部言われちまったね。そういう事さ。ポーションまでは行かないけど、普通の薬よりも早く効くよ」
そういいながら瓶の中身を見せてくれた。
中身はさっきの薬と殆ど変わらない。
「見た目は変わらないけどね。効果の違いは保証するよ?さて、どれにするさね?」
「えっと……」
少し考えるそぶりを見せながらリーゼが手に取ったのは二番目に紹介された薬だ。
「これでお願いします。他の薬も同じくらいのものでお願いします」
「ひっひ、まいど、少し待ってな」
そういいながら残りの薬を仕舞って奥に引っ込む婆さん。
「えっと、リーゼさん?あれでよかったんですか?」
「うん、ここだけの話、あれが一番使いやすいんだよね。少し高いけど……」
なるほどな。
確かに使いやすさも大事だな。
しかし……。
『表の薬草は一体何だったんだ?』
別に態々店先に並べる必要があるとも思えなかったのだが……。
「そういえばそうだね……。聞いてみる?」
カノンが提案してくるが……。
『いや、別にいい。少し気になっただけだしな』
もしかしたら目玉商品とか、客寄せ程度の物かもしれないし。
「ひっひ、お待たせ」
俺とカノンがそんなやり取りをしていると、婆さんが戻ってきた。
そしてカウンターにいくつかの薬を並べていく。
「これが注文の品さね。全部で金貨1枚だけど、払えるかい?」
「えっと、はい。大丈夫です」
カノンが返事を返すと、収納から金貨を取り出してカウンターに置く。
「ひっひ、収納スキルかい。羨ましいね~、確かに受け取ったよ」
そういいながら金貨を手に取る。
しかし金貨一枚……。
日本円換算で10万円分。
薬の種類も多いし量も多いが、流石にいい値段がするな。
というかこれ、庶民には買えないのでは……。
「カノン、お願いしてもいい?」
「うん」
俺が値段について考えているのをよそに、リーゼに頼まれたカノンは薬を収納に入れる。
しかし……少しいい薬ではあったのだろうがこの値段。
普通はどうやって治療してるんだろうか?
少し、この世界での怪我の扱いが気になってきたな。




