間抜けな男を捕縛せよ
ロイドたちが出て行ってから、カノンは自分の体に包帯を巻き始めた。グランにはカノンが盗賊に襲われて詰所にいることを誤解を受けるようにギルドの冒険者たちに伝えるように頼んでいる。そしてロイドにはギルドマスターへの報告を頼んでいる。
流石に冒険者たちが勘違いしたままというのも後々問題になる。わざわざ勘違いを誘発させるのは、騒ぎにして男の耳に入れるのが目的だ。この作戦は、もし男が既にギルドで尋問されていたり、盗賊たちがカノンに捕まったことを知っていた場合はこの作戦は意味を為さなくなってしまう。
もちろん他にも穴の多い作戦だが、ロイドたちは問題なしと判断していた。カノンよりも男の性格を分かっているし、最悪はそこまでうまくいかなくても、騒ぎを大きくして男を動揺させられれば問題ない。カノンが生きていると伝わるだけでも上等だ。
そして上手くいって男、もしくは依頼された者がカノンの口を塞ぎにくる場合、カノンが重傷で寝込んでいて簡単に始末できると思ってもらうための行動だ。
しかしこの準備は無駄になるだろう。流石に上手くいくなんて思ってないからな。
「うーん……。頭はやっぱり巻きにくい」
カノンが包帯を頭に巻こうとして悪戦苦闘している。
『よし、すこし待ってろ』
俺は触手を出し、先端をゴブリンの手に変えるとカノンの頭に包帯を巻いていく。
そして巻き終わるとカノンはベッドに入った。
「上手くいくかな?」
『いや……正直俺たちの出番が来る確率はかなり低いと思う。』
俺たちの出番なんて、それこそ男が先走ってカノンの口を塞ごうと考えた時だけだろう。
下手をするとグランやロイドが終わったことを教えに来てくれるのが先かもしれない。
しばらくすると、俺の気配察知に反応があった。気配の主が誰なのかまでは分からないが、この建物の裏側に回っているようだ。
これはあの男かその関係者とみて間違いないだろう。
『カノン、誰か来た』
「敵?」
『その可能性が高い。多分窓から侵入してくるぞ』
「分かった」
カノンは返事をすると目を閉じた。布団などはないのでベッドに横になっているカノンの体には、服の隙から包帯が見え隠れしている。これならどう見ても重傷を負って運び込まれたように見えるだろう。
男は窓から侵入するとカノンの枕元に立った。
「悪いな。お前さんに恨みはないが……俺のために死んでくれや!」
男はそう言ってナイフを振りかぶり、カノンの喉元めがけて振り下ろした。
『カノン!今だ!』
俺がカノンにそういうのと同時に、カノンは収納からナイフを取り出し、男のナイフを受け止めた。
「なんで貴方のために死なないといけないんです?」
「な!?」
カノンの地獄の底から響いてくるような声に怯える男。しかし自分で作戦を立てていてこういうのはあれだが、まさか本当に本人が来るとは思ってなかった。
万が一来たとしてもこいつから依頼を受けた奴が来ると思っていた。それにそもそも誰かがカノンの口封じのためにわざわざ来るとも思ってなかった。カノンの口を塞がずとも、他に遣り様はあったはずだ。
もしくはほかの手段が無いところまで追いつめられていたとか……。
何はともあれ来てくれたのなら話が早い。後はこの男を締め上げて色々と吐かせればいい。
「な、なんで…………」
男が必死に声を絞り出す。なんでお前は動けるのかとでも聞きたいんだろうか?確かにカノンの見た目は全身に包帯を巻かれた重症患者だ。しかもか弱そうな少女が大の男のナイフを受け止めるのだから驚きもあるかもしれない。
「私があんな奴ら相手に怪我するわけないじゃないですか?」
カノンは呆れたように言うと、頭に巻いていた包帯を取る。
男はそれを見て驚愕の表情を浮かべる。
「ま、ま、まさか……Gランクごときが盗賊に無傷で……」
こいつまだカノンの事をGランクだと思っているようだ。確かにGランクならあくまで見習い。普通の子供だ。運が良くて盗賊に勝つことはあるかもしれないが、無傷でというのは難しいだろう。
カノンもあきれ果てたのか、大きなため息を吐いた。
「だから私言おうとしたじゃないですか。私はFランクだって」
「ギルド職員なら新しく登録された冒険者ぐらい聞いておきなさいよ。というより、依頼を受けるにはギルドカードがいるのになんでカノンちゃんのランクを知らないのよ」
カノンの言葉に追随するように、男の後ろから声が聞こえた。
「な!?」
男が驚いて振り返ると、そこにはカノンと同じく呆れたような表情のイリスが立っていた。
「ギルドから貴方を付けさせてもらったわ。まさか本当にカノンちゃんを殺そうとするなんて思わなかったけど」
イリスはそういうと持っていたカバンからロープを取り出す。
「では、拘束させてもらいますね?」
カノンはそう言って入り口をふさぐように立つ。窓側はイリスが塞いでいるので男に逃げ場はない。
「くそ!ガキが!なめるな!」
男は少し迷うそぶりを見せたが、ナイフを片手にカノンに突っ込んできた。
『馬鹿なやつだな…俺が』
「ハク、私がやる」
カノンは俺の声を遮るように早口で言うと、男の手をつかみナイフを止めた。
「な!おぐぅ!」
ドゴッ!
カノンは空いている右腕で男の鳩尾を殴り、男を沈黙させた。
「……え?あれ?」
そんなカノンを見てイリスが何度も瞬きをしている。
「?どうしたんですか?」
カノンが不思議そうにイリスに聞く。
「カノンちゃん……その眼…」
イリスがカノンの目を見つめながら言う。カノンは首をかしげながら、机の上に置いていった小さな鏡を見てみる。この世界は鏡は少し高めだが、手に入らないほどではないようだ。
『「え?」』
俺とカノンから同時に声が漏れた。なぜならカノンの瞳は、瞳孔が縦に開いていたのだから。
「え?なにこれ?」
カノンが不思議そうに呟く。
「え?カノンちゃんの意思じゃないの?」
イリスはそういうと少し考えるそぶりを見せた。
「今って何かスキルは使ってる?」
イリスがカノンに聞く。
カノンは少し考えると、一つ心当たりがあることに気づいた。
「……身体強化は使ってます」
確かにカノンは身体強化を使っている。でないと流石に大の大人を昏倒させることなどできはしない。
それを聞いてイリスは納得したような表情を見せた。
「もしかするとカノンちゃんは、先祖に獣人が居たのかも知れないわね。獣人って、身体強化を使うと少しだけ獣化することがあるから」
イリスは納得したように言う。
「そ、そうなんですかね…あはは……」
カノンは誤魔化す様に笑う。カノンの瞳の変化は多分俺のせいだろう。カノンが身体強化に使う魔力は俺のものだ。そのせいで俺の魔力の影響を受けてしまっているのだろう。
俺がそんなことを考えている間にも、カノンとイリスは男を縛り上げていく。
すると医務室の扉が勢いよく開き、衛兵たちが入ってきた。
門番のおっさんがカノンに近づいてくる。
「おお、まさか本当に来るとは……」
おっさんを含めた衛兵たちも呆れているようだ。その証拠に衛兵たちも、何か哀れなものを見る目をしている。
「ついさっきギルドから連絡があった。もしこいつが来たら身柄を引き渡して欲しいとな。正直俺も本当に来るなんて思ってなかったから話半分で聞いてたんだが……」
「と、ともかく、まずはこいつをギルドに連れていきましょ。他の冒険者たちも探しているから」
イリスがそう言って、カノンとイリス、そして門番のおっさんとダジルが同行することになった。4人いれば万が一逃走されても捕まえられるという判断だ。
そして伝令に衛兵の一人が走ってギルドに向かい。カノンたちは男を連れてギルドに向かった。
途中で目を覚ました男が抵抗したため、カノンとイリスが文字通り引きずって運んでいく光景にダジルと門番のおっさんが戦慄したのは仕方がない。




