強襲…する側
「えっと、居た方が良いというのは……」
カノンがギリアムの言葉に首を傾げる。
「はい。現在、我々騎士団には学園への立ち入りの許可は出ていません。ですので、目標が門から出てくるまで何もできないのです。ですので我々はここで待っているというわけなのですが……」
そこまで言って、困ったように詰所の方を見るギリアム。
「この学園内に居ることは確認しているのですが、御覧のとおり詰所の方には人気がありません」
ギリアムの言葉を聞いたカノンが詰所に近づく。
「ハク、気配は?」
『少し待ってくれ……』
カノンに言われて気配察知で中を確認する。
しかし、どうにも中の様子が分からない。
人の気配がないというのではなく、気配察知自体が妨害されているような感覚だ。
『分からんな……。気配察知で探れない……』
「探れない?」
『リーゼ?お前はどうだ?』
一応リーゼにも確認してみる。
「どうって言われても……相手が人だと竜感知も使えないし……そもそもカノンの気配察知を妨害されてる時点で私にはどうしようも……」
確かにその通りだな……。
「あ、本当に駄目だね。なんか目隠しされてる感じ?」
俺の言葉にカノンが不思議そうに気配察知を発動してみるが、それでも何も分からないようで首を傾げる。
しかし目隠しか……。
中々上手い表現かもしれないな。
「あ、恐らく気配察知などの感知系のスキルでは感知は出来ないはずですよ。学園の中でも出入り口に近い建物には隠蔽系の魔法陣が使われていますから」
隠蔽系……。
つまり気配遮断とかの効果を発動させる魔法陣か……。
そんなものもあるんだな……。
というか、何でそんなものを使ってるんだよ。
「何でそんなのを使ってるんですか?」
「理由ですか?お話しするのは構いませんが、今は時間もありませんのでまたの機会という事でお願いします」
そう言って軽く会釈をするギリアム。
「そうですか……」
カノンは少し残念そうだが、今はやるべきことを優先させたいな。
『カノン、どうする?中に入ってみるか?』
「あ、うん……大丈夫かな?」
不安そうなカノン。
その大丈夫は何に対しての物だ?
「えっと、アイリスさんもまだ来てないのに大丈夫かな?って事」
あぁ、そういう事か……。
確かアイリスはリーオに報告をしに行っているはずだ。
なら、報告と同時進行で動いても問題はないように感じるが……。
しかし、万が一学園内での戦闘行為をとがめられても面倒だ。
さて、どうしたものか……。
「それは問題ないわよ?」
「え?」
そんな話をしていると、突然アイリスの声が聞こえてきた。
「アイリスさん?一体どこに……」
リーゼが驚きながら周りを見渡す。
『……上?』
何となく、声が上から聞こえているように感じだ。
「上?……あ、居た」
俺の声に反射的に上を見上げたカノンは、通用口のある塀の上に立っているアイリスを見つけた。
『アイリス……何でそんなところに……』
俺の呆れたような声にカノンとリーゼも頷く。
「それはいいじゃない。そんな事より、学長からの許可は取ったわよ?死なない程度なら自由にしていいってさ」
ほう。
自由にしていいか。
正直、何でそんな場所に立っているのかを問い詰めたいところではあるのだが、その話はあとにしようか。
『自由にしていいらしいぞ?どうする?』
「どうするって?普通に入ればいいんじゃ……あれ?」
そういいながら扉を開けようとしたカノンだが、扉には鍵がかかっているようで開かない。
「鍵、借りてこようか?」
リーゼがカノンにそんな提案をする。
「いえ、必要ない。自由にしていいってアイリスさんが言ってたしね」
わざとらしくアイリスに視線を向けるカノン。
そんなカノンの様子にアイリスは密かに冷や汗を流すのだった。
「か、カノンちゃん?自由とは言っても限度が……」
バキャ!
アイリスの言葉を遮るように、そんな音が響いた。
アイリスが頭を抱えながらカノンの方を見ると、魔銃を扉に向けているカノンと、そのカノンの背後からマンイーターの蔓が詰所に向かって岩を投げている光景があった。
うん。
魔銃の一発で鍵穴を破壊。
その状態で岩を投げつければ後は簡単だ。
ドゴン!
そんな音が響き、扉は中に向かって勢いよく開いた。
というか、扉の真ん中は割れ、扉を固定していたであろう蝶番も変形してしまっているので簡単には直せまい。
下手をすると柱から駄目になっているかもしれん。
まぁ、下らない逆恨みでカノンを襲ったんだ。
この程度の強襲は覚悟しているだろう。
していないのなら、思い知らせてやろう。
カノンに手を出すと誰を怒らせるかという事を。
ついでに、怒ったカノンの恐ろしさを。
「ハク?何か失礼な事考えてない?」
「い、いや、何も……」
ついでに、カノンの勘の良さも追加で……。




