裏ギルドのけじめ
応接室に通されたカノン達は、受付嬢が取り出した資料を見ていた。
「今回の内容の殆どはそこに書かれているな。とはいっても、レセアール家に提出したものと殆ど同じだな。その後に判明した事実が少し加わっている程度か……」
そう言いつつ用意されたお茶を飲んでいるザルツ。
「確かに殆ど一緒ね。最後の方に本人の供述が増えた程度かしら?」
「あぁ、昨日の奴は問題なかったんだが、昨夜の連中は何故か麻痺状態にあったみたいでな。ついさっき、ようやく話せるようになったんだよ。まるでキラービーの大群に襲われたみたいな状態だったぞ」
そういいながらカノンの方を見るザルツ。
「あ、あはは……」
カノンは苦笑しながら目を逸らす。
「冒険者の詮索はマナー違反よ?ギルドマスターがルールを破っていいのかしら?」
そんなカノンの様子にアイリスが助け舟を出してくれた。
「ふむ…悪かった。つい気になってな。で、その麻痺のせいでしばらく話が聞けなかったんだが、ようやく麻痺が解けたんでそいつらの聴取も済んだらしい。まぁそいつらは騎士団の管轄になるからここにも全ての情報が回ってきているとは限らんが……」
「でも……かなり詳しい情報もありますよね?」
カノンが報告書を見ながら呟く。
「あぁ、殆どは闇ギルドから直接流れてきた情報だからな。今回の経緯なんかもそっちのルートだ。向こうのお偉いさんが朝一で交渉に来たんだけどな」
「交渉……ですか?」
ザルツの言葉にカノンが首を傾げる。
「要するに、俺たちに敵対する行動をとってしまった事に対する謝罪と、それに関する賠償の話を持ってきたんだ。この情報はその賠償の一環というわけだ」
「でもそれだけで冒険者ギルドが引き下がるとは思えないんだけど?それ以外には何もなかったの?」
アイリスが悪戯っぽく言うと、ザルツの顔がにやける。
「そんな訳ないだろ。他にもしっかりと話は通してある。その中の一つだが、今回の闇ギルドが受けた依頼の情報。それこそ依頼者の個人情報から何まで全部吐き出させたさ。その情報を騎士団にも流したから、そろそろ捕縛にも向かってくれるだろうさ」
なるほどな。
あの依頼者の情報、やたら詳しく調べたと思ったら闇ギルドからの情報提供だったみたいだな。
流石にその手の専門家だけあって情報も早い。
「後、この件に関しては闇ギルドは完全に手を引くことを約束させた。というか向こうから言い出した。だからその元凶さえ押さえちまえばもう襲撃に関しては心配いらなくなるって訳だ」
そう言って笑うザルツ。
ということは、次にやるべきはそいつを捕まえるってことでいいかな?
そうすればあんな面倒はしばらくはなくなるだろう。
永遠になくなるとは思えないのが腹立たしいが……。
「でもその元凶の男ってギルドでは手出しできないでしょ?」
アイリスがそういうと、ザルツは頷く。
「あぁ、ギルドにはそんな権限はないからな。冒険者相手なら何とでも出来るが、調べてみたが冒険者登録はしていなかったしな。だから後は騎士団の仕事って訳だ」
そう言って肩をすくめて見せるザルツ。
なるほど、ギルドとしてはやれることはやった感じだな。
「じゃあ私たちはこれで失礼するわね」
話は聞き終えたと判断したアイリスが立ち上がる。
「っと、その前に…そっちの嬢ちゃん」
「え?私…ですか?」
立ち上がったアイリスを手で制し、ザルツがカノンに声を掛けた。
「あぁ、嬢ちゃんに話があるんだ。実は闇ギルドのお偉いさんが嬢ちゃんの事を褒めていてな。なんでも嬢ちゃんたちを襲ったのは腕利きの連中だったらしいんだ。仕事内容が全く違うから単純な比較は出来んが、冒険者ならBランク相当の手練れも混じっていたらしい」
そういいながらカノンの頭に手を置いた。
「ほんと、よく無事に済んだもんだよ。いくらアイリス殿がいたとしてもそこいらのDランクじゃ殺されても不思議じゃないからな」
確かに……。
強かったとは思ったが……。
面倒な奴を出してきていたらしいな……。
「で、ここからが本題なんだが、嬢ちゃんのランクをCランクにあげることになったんだ」
「え?」
ランクが上がると聞いてカノンが驚きの声を上げる。
「で、でも私…少し前にDランクに成ったばかりですけど……」
遠慮気味にカノンがそういうと、ザルツは苦笑した。
「嬢ちゃんの事も少し調べさせてもらったんだ。アイリス殿の推薦でDランクになり、その後ムードラで違法奴隷の開放に尽力し、奴隷の刻印の解除も行った。その後亜竜二体を退け、さらにはマンイーターの索敵方法を見つけ出した。最後に王都での学園の依頼。正直言って、Cランクに上がれるだけの実績は充分にあるんだ」
そう言われると……。
色々やったな……。
「そういえばそんな事やったような……」
カノンが遠い目をしつつ呟く。
「で、これだけの実績がある以上Dランクのままにしておくわけにも行かんというわけだ。というより、Bランクにだってなれる実力だろうしな。まぁ、流石にBランクはもう少し上位の依頼の経験を積んだ方が良いだろうと思ってCランクで止めたわけだが、実績的にはいつでもBランクに上がれるから、その内Bランク、将来的にはアイリス殿と並ぶ冒険者になれるだろうな」
ザルツがどこか楽しそうに言う。
「しばらくは並ばれるつもりはないけど、本当にその内私と互角……抜かれるかもね」
アイリスもカノンを見ながら楽しそうにしている。
「というわけで、帰る前に受付に寄って行ってくれ。新しいギルドカードを発行するからな」
「は、はい……」
ザルツの言葉に返事をしたカノンの声は、心なしかいつもより嬉しそうだった。




