王都のギルド本部
カノンとアイリスは予定通りギルドにやってきた。
とは言っても、以前カノンが行った事のある支部ではなく、ここはギルド本部だ。
ギルド本部は貴族街の近くにあるので、屋敷から近いということもあるのだが、支部の情報を統括する役目も持っているのでカノン達が欲しい情報は恐らくここに集まっているはずである。
というわけでギルド本部に入って早々、アイリスがAランク冒険者の権力を振りかざしてギルドマスターへの面会を申し込み、現在カノン達はギルドマスターと面会するために待っているわけだ。
とは言っても、平和に待っているわけではない。
いや、少なくとも俺たちは平和的に待っていたいと思っていたのだが……。
「えっと、アイリスさん?」
カノンのジト目がアイリスを見据える。
「あはは……」
それを笑ってごまかすアイリス。
『笑ってもこの惨劇は誤魔化せないぞ……』
アイリスの足元の惨劇、正確には床に倒れている数人の冒険者だが……。
何故こうなったかというと、アイリスがギルドマスターへの面会を申し込んでいる間にカノンが酔っ払った冒険者たちに囲まれたのだが、アイリスがそれに気づいた瞬間、冒険者たちが崩れ落ちたのだ。
一体何したんだか……。
「ほ、ほら。カノンちゃんが絡まれてたからつい…ね?」
可愛いしぐさで首を傾けて見せるアイリスだが……。
『それで誤魔化せると思ってんのか?』
自分の歳考えろと……。
「だってカノンちゃんがやると死人が……」
「誰もそこまでやりませんよ!腕の一本程度で終わります!」
死人が出ると言われ必死にそれを否定するカノンだが、腕が駄目になれば少なくとも冒険者生命は終わりだな……。
『そもそも竜威で脅すくらい簡単だっての……。その後の処理は知らんが……』
威圧程度で気を失うわけでもあるまいし……。
その後はカノンによる殲滅戦になっていたのは間違いないな。
もう少し派手な流血沙汰で……。
『あ~、なんかありがとうな……』
何か素直に礼を言っておいた方が良いような気がしてきたな……。
「え?ど、どうしたの?何で急にお礼言われたの?」
おい……。
アイリスよ……。
お前は俺にどんなイメージを持ってんだ……。
『アイリス。少し話をしようか……。なぁ?』
「え?えっと……またの機会にね……あ!ほら!ギルマス来たから後でね!」
カウンターの方を見ると、確かにそれらしき男が立っている。
上手く逃げられたな……。
「Aランクのアイリス殿だな?俺はここのギルドマスターをしているザルツという」
そう言ってアイリスに手を伸ばしたのは筋骨隆々と言った感じの、ロイドよりも大きな男だ。
この感じからして元冒険者と言った感じか?
「えぇ、アイリスよ。よろしくね」
アイリスも軽く挨拶をして握手する。
「で、用件だけれど……」
「それについては予想は付いている。昨日の件、および昨夜の件だろ?」
そう言ってニヤリと笑うザルツ。
何か迫力あるな……。
「話が早くて何よりね。でもここで話していい内容かしら?」
「がははは!別に構わんよ……と言いたいところなのだが……」
豪快に笑って問題なしと断言しかけたザルツだが、恐る恐ると言った感じで後ろを振り向く。
そこには笑顔の受付嬢が立っている。
……仁王立ちで…。
「ダメですよギルマス。応接室を空けていますのでそちらでお願いします」
「いや…でもよ…あそこだと堅苦しくてだな……」
「嫌でしたら王都の外でお願いします。もしくは地下室でも構いませんよ?」
どんな選択肢だよ……。
そして地下室という単語が出た瞬間、ザルツは固まるし……。
「じゃあ応接室でお願いね?カノンちゃん。行こっか」
そう言って歩いていくアイリス。
場所を聞いていないのだが大丈夫なのか?
「あれ?大丈夫かな?」
カノンはカノンで横目で床を舐めている冒険者たちに視線を移す。
『放っておけばいいだろう。問題になって困るのはアイリスだしな』
「あ、その冒険者はそのままで構いませんよ。自業自得ですので」
受付嬢…割と毒舌だな……。
いや、同感だけども……。
そもそもAランク冒険者の連れに手を出そうとするとか自殺行為にしか見えん。
まぁ、カノンの実力を知らないんだし事故とも言えなくも……。
って、そもそも子供に手を出そうとした時点で問題しかないか……。
うん。
自業自得で問題ないな。
「ではご案内いたします」
先に行ってしまったアイリスを無視し、カノンにそう告げて奥に歩いていく受付嬢。
「は、はい!」
カノンも慌ててそれに続く。
その後ろには、何故か受付嬢から距離を取っているザルツが居る。
それでいいのかギルドマスター……。




