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レセアール家の執事

翌朝、カノンとアイリスは朝食を食べたあと、部屋に戻って荷物を片付けていた。


というか、カノンの荷物は殆どが収納の中だし、リーゼもあまり私物を持っていないうえ必要ない物はカノンが預かっているので実質アイリスの荷物だけだが……。


そもそもアイリスもそこまで荷物は多くないので、そんなに時間はかからない。


何で片づけをしているのかというと、別の宿に移るためだ。


昨夜の事件はこの宿には責任はないし、その後の対応は迅速だったのだが、流石に暗殺者に狙われていると分かっていて襲撃のあった宿に泊まり続ける気はなかった。


とは言っても、代わりの宿が見つかっているわけではないので、アイリスの記憶を頼りにするしかないのだが……。


「アイリスさん?どうやって次の宿探すんですか?」


「どうしよっか?」


カノンの問いにそんな答えが返ってくる。


まぁ、急な引っ越しだし仕方ないと言えば仕方ないのだが……。


『前にも王都に来たことあるんだろ?何処かよさそうなところってないのか?』


俺がそう聞くと、アイリスは難しそうな顔をする。


「一応他の宿も知ってはいるんだけど……冒険者としての活動中はここしか使ってなかったし、他の宿は本当の貴族用だから私は兎も角カノンちゃんだと門前払いになりそうで……」


あぁ、確かに貴族御用達の宿だと、平民のカノンはいくらアイリスが居ても泊まれないかもしれんな。


「だったら私は普通の宿でも……」


「でもそれだと私が泊まれないのよ……。多分後でばれると文句言われるし……」


「じゃあ別々で……」


「それだけは絶対ダメ!」


頭を抱えていたアイリスが、カノンの提案を聞いた途端強い口調で止めてきた。


「狙われてるのはカノンちゃんかもしれないのに絶対ダメよ?今日みたいな奴らが大勢で来たとして、どうにか出来る?」


「それは……」


アイリスにそう言われ、カノンは押し黙った。


確かに今日の三人すら、カノン一人ではどうにもできないだろう。


今日戦った感触からして、どうにかできるのは二人まで、もし俺を召喚する余裕があればもう一人は如何にか出来るかも知れんが、流石に一度失敗した相手に同じ戦力は送らないだろう。


そうすると、もっと厄介な敵が来る可能性もあり、アイリスが居ない状態で襲われることを考えるとアイリスと離れるべきではないかも知れない。


「というわけで宿を探しに行くわよ。ギルドに話を通せば探してくれるでしょ」


そう言って残りの荷物をカノンに手渡すと立ち上がった。


「最初からそうすればよかったんじゃ……」


カノンも呆れつつ手渡された荷物を収納に仕舞いこみ立ち上がる。


そして二人は宿の受付で従業員に礼を言って、そのまま宿を後にした。




















「失礼します」


宿を出たアイリスとカノンは、突然宿の前にいた男性に声を掛けられた。


「クラウス?何であなたがここに?」


アイリスが怪訝そうな顔でそう聞く。


アイリスの知り合いらしい。


クラウスと呼ばれた男性は、きっちりとした燕尾服を着ている初老の男性だ。


「はい。お嬢様が襲われたと聞きましたので」


そう言って一礼をするクラウス。


「それは聞いてないわよ。だから何でここに居るのかって聞いてるの」


いつものアイリスより若干不機嫌な声が響く。


しかしクラウスは特に気にした様子もなく口を開く。


「はい。このようなことがあった以上、こちらも動かないわけには参りません。お嬢様にはご帰宅いただきたく」


最後の言葉を聞いたアイリスの目が険しくなった。


「そういうと思っていたけど、心配しなくて結構よ。暗殺者程度に如何にかされるほど弱くないから。それに」


そこで言葉を切ってアイリスはカノンの頭に手を置く。


「この子を一人にはできない。仕事の助っ人を依頼した冒険者としても、私個人としてもね」


「仰りたいことは理解できます。なので、お嬢様だけでなくそちらの方も含めてレセアール家にいらしてください。この事態が解決するまでは部屋を用意いたしますので」


「……カノンちゃん。どうする?」


アイリスがカノンに聞くが、カノンは事態を把握しきれていないようで困惑している。


「えっと、その前に……こちらの方は……」


申し訳なさそうにクラウスを見るカノン。


「あ、そういえば紹介してなかったわね。彼はクラウス。レセアール家の執事で、王都の屋敷の管理をして貰ってるの」


「これは失礼しました。レセアール家に仕えております、クラウスと申します。以後お見知りおきを」


そう言ってカノンに向かって一礼をするクラウス。


「えっと、カノンです。こちらこそ……」


カノンも慌てて自己紹介をする。


「で、どうする?」


「えっと、アイリスさんの自由にしてください……」


そんな話を振られて困ったのかカノンはそのままアイリスに投げ返した。


「まぁそういう反応になるわよね……」


アイリスも何となく予想はしていたらしいが、屋敷には行きたくないようで困った顔をしている。


「お嬢様、どちらになされるにしても、一度屋敷にお戻りください。こちらで調べた情報もお伝えいたしますので」


クラウスの言葉に、アイリスの目が鋭くなる。


「調べたって、ずいぶんと早くない?一日も経ってないわよ?」


アイリスの視線を向けられたクラウスは、動じることなく口を開く。


「そのことにつきましてもご説明いたします。どうか一度お戻りください」


クラウスの言葉にアイリスはクラウスとカノンを交互に見つつ考え込み、やがて口を開いた。


「分かったわ。ただし、そのあとどうするかはまだ決めてないからね」


「承知いたしました」


屋敷に行くことは了承したが、泊まることは了承していない。


そんな態度のアイリスに、クラウスは微笑みつつ一礼した。


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