強襲の翌朝
「で、結局こいつら何なの?」
縛り上げた男たちを見降ろしつつアイリスが呟く。
「なんなんでしょう?でも強かったですよ?」
カノンもアイリスの隣で同じように呟いた。
『まぁ蔓を力づくで引きちぎられるとは思わなかったし、そもそも竜装使ったカノンが押し負けた時点で化け物並みの怪力だったのは分かったが……』
「ハク?それ、私が化け物って言ってるって事分かってる?」
カノンから冷たい声が聞こえてきた。
『あ~、ま、まぁ……どっちにしろこいつら引き渡さないとな……』
「あ、話逸らした……」
カノンの声は無視の方向で……。
「引き渡しならその内来てくれる騎士団に頼めばいいわね。宿の人が詰所に行ってくれたみたいだし」
そう。
実は既に騎士団への通報は済ませている。
正確には、詰所まで宿の従業員が走ってくれているのだ。
高級な宿というだけあって、この宿自体にも警備員のような者はいるのだが、流石にこいつらを引き渡すのは怖い。
実力的に、脱走されかねない。
因みに、この宿の従業員はアイリスが貴族だと知っているので、詰所と同時にアイリスの実家へも知らせが行っているはずだ。
アイリスとしてはそれは勘弁してほしかったようだが、自分たちの宿でこんなことがあったのにも拘わらず報告しなかったとなれば宿の信用にかかわると言われ、アイリスも渋々許可したのだ。
そのせいかアイリスは若干不機嫌で、男たちを縄で縛る際に全員に一発ずつ蹴りを入れていたのはカノン共々見なかったことにした。
それから30分ほど待っていると、開け放たれた入り口から騎士団らしき集団が部屋に入ってきた。
「おぉ、アイリス殿、無事でしたか」
開口一番そう言ったのは他の人とは少し形の違う鎧を着た騎士だ。
「無事に決まってるでしょ?ていうか、女性の部屋に入るんだからノック位しなさい?」
扉が開いているのにノックって必要だっけ?
「これは失礼、非常時でしたので……」
騎士も苦笑してるし……。
「それで、こいつら引き取ってもらえるのよね?」
アイリスが顎で三人の男を指す。
すると、苦笑していた騎士だけでなく、その後ろに控えていた騎士までもが表情を引き締めた。
「勿論です。我々が責任を以って取り調べを行います」
そう言って敬礼をする騎士。
「お願いね。っと、忘れてたけどそいつ」
そう言ってアイリスが指すのはカノンとつばぜり合いをした男だ。
「やけに強いから気をつけてね?」
「ほう?こいつですか?アイリス殿がそう言われるのであれば相当なのでしょうな……」
「この子が力負けしてたし、Bランクの下位、最低でもCランクの上位くらいの実力はあると思うわよ?」
そう言ってカノンを指すアイリスに、騎士は怪訝な顔でカノンを見る。
「この娘が……力負け?失礼ですが……普通の大人相手でも力負けしそうな娘に見えますが……」
騎士の言葉にカノンは苦笑する。
確かにそう見えるとは当然だろう。
「そう見えるのはしょうがないけど、カノンちゃんは強いわよ?多分戦闘能力だけを見ればBランクにも入るんじゃないかしら?それに成長途中だからその内私と同じくらいにはなるかもね」
そう言って何故か胸を張るアイリスに、騎士たちが驚いた顔をカノンに向ける。
「アイリス殿がそう仰るのでしたら信じるしかないのですが……、失礼ながら信じがたい事ですな……」
「あはは……私も自分で信じられませんから……」
数人分の視線を受けているカノンが苦笑しつつそう答える。
『まぁ実力は間違いないんだけどな。後は経験さえ積めればランクもあがるだろう』
そもそもカノンのDランクへの昇格も異例のスピードだったし、下手をするとその内本当にAランクまで上り詰めそうなんだよな。
「っと、ごめんなさい。話を脱線させたわね。こいつら何だけど、何者か聞き出したら教えて欲しいんだけど大丈夫かしら?」
アイリスが少し強引に話を戻す。
「はい。取り調べをした後、ご報告いたします。おい、連れて行け」
騎士が指示を出すと、後ろに控えていた騎士たちが縛られた男を持ち上げて運んでいく。
それにしても……アイリスに確保された男はわずかに身じろぎしているのにカノンと俺が抑えた男は全く動かないな……。
少し麻痺針刺し過ぎたかも知れん……。
まぁ……大丈夫か。
その内効果もなくなるだろう。
「さて、これで片付いたし、さっさと寝ちゃいましょう」
そう言って大きく伸びをするアイリス。
「え?今からですか?」
カノンが割れた窓の外を見つつ聞く。
窓の外はわずかに明るくなってきているのだ。
もうすぐ日が昇るだろう。
「だって中途半端な時間に起こされたし、いいんじゃない?ソルかハクが起こしてくれるわよ」
『はぁ……今回だけですよ』
『ソルがいいなら……まぁいいか。カノンも少しでも寝ておけ』
俺がそういうと、カノンは渋々頷いた。
しかし、アイリスよ。
俺たちは目覚まし時計じゃないぞ?




