アイリスの帰宅
結局、カノン達はギルドに向かうことになった。
どうやらソフィアたちは護衛付きでギルドに向かっていたらしく、セシリーは恐らく納品を済ませているだろうとのことだった。
ならばギルドで合流した方が早いという事で、男の身柄もギルドに任せ、カノン達もギルドで事情聴取を受けた方が良いと判断したわけだ。
そして、ギルドではカノンたち4人も個別に話を聞かれた。
とは言っても、マルガレーテ達は男に気がついてはいなかったし、カノンに関しても気が付いたのは校門の前で待っているときだったという事で、あまり有益な情報は出なかった。
とは言っても、男の素性についてはおおよその事は分かるだろうとは男の尋問を担当したギルド職員の話だ。
とは言っても、情報を聞き出し、その裏付けにも数日かかるというわけで、カノン達は解散することになった。
マルガレーテ達は学園の寮に入れば安全だし、カノンも宿にとどまっていれば問題はないだろう。
本来なら王都の観光をする予定ではあったのだが、そんなことをしている場合でもないだろう。
というわけで宿に戻ったカノンは、暇を持て余すことになってしまった。
「ただいま~!カノンちゃんいる~?」
そんな声と共にアイリスが戻ってきた。
時間は日暮れ前と言った所か?
「アイリスさん?もう終わったんですか?」
部屋でくつろいでいたカノンが立ち上がって出迎える。
「私の班は問題なくね、リーゼちゃんの方も今日中には終わりそうだったから明日の昼頃には戻ってくると思うわよ?……で、カノンちゃん?」
そこまではいつもの調子で話していたアイリスの表情が変わった。
いつもより真剣身を帯びている。
「襲われたって聞いたんだけど、ほんと?」
「えっと、はい……」
そんなアイリスの様子に、カノンも表情を引き締め、今日の出来事を説明するのだった。
「…………というわけで、私を襲った人はギルドに渡しました。私が知ってるのはそこまでです」
カノンの説明を聞き終わったアイリスは、ふぅ、っとため息を吐いた。
「確証はないんだけど、多分相手は暗殺専門ね。カノンちゃんの索敵に全くかからなかったのなら、相当なやり手と見て間違いないわね」
「でも、ハクがあっさりと倒してましたよ?」
やり手と言われてもいまいち実感がわかないのか、カノンが首を傾げる。
『そりゃそうだろ。なんせこっちは背後を見れるんだからな。向こうにとっての奇襲が俺にとっての正面突破にしかなってないだけで……』
正直、見えているのに気配がないというなんとも不気味な相手だった。
向こうが油断していたからあっさりと倒せたが、本気だった場合は苦戦したか、何もできずにやられていた可能性すらある。
そう説明しすると、カノンの表情がわずかに強張った。
「そんなに凄い相手だったの?」
『あぁ、今回は奇襲を仕掛けたつもりの相手に逆に奇襲を仕掛ける形になったから楽だっただけだ。正面から戦えば相当厄介なことには変わりないだろう』
「問題は向こうがどういう契約をしているかね、流石に闇ギルドは関わってないと思うけど……」
アイリスがそう呟く。
アイリスによれば、相手は恐らくカノン、もしくはカノンを含むマルガレーテ達の暗殺を依頼された暗殺者だという。
そして、裏の世界にはそういった仕事を専門に請け負う組織があり、通称闇ギルドと呼ばれているそうだ。
そして、こういった暗殺依頼の場合は闇ギルドを通して依頼をするか、暗殺者個人に直接依頼する二通りのパターンがあるらしい。
もし今回の一件が闇ギルドを経由した依頼だった場合は、追加の暗殺者が出てくる可能性もあり得るという。
しかし、今回に限ってはその可能性は低いそうだ。
何故なら、闇ギルドは必要悪として国から黙認されている状態なので、あまり国に対して目立つ行動はとらないらしい。
貴族の暗殺などはやっているが、それもあくまで証拠を残さずに行っており、今回のように一人だけでターゲットにばれるような行動はしないらしい。
そして、どんな依頼であっても冒険者ギルドには絶対に手を出さないらしい。
冒険者ギルドは国を跨いだ組織であり、その影響力は計り知れない。
そして、冒険者ギルドは国が黙認している以上表立って手は出さないが、もし自分たちに敵対されれば容赦なく潰しにかかるだろう。
闇ギルドもそれが分かっているので、ある程度のランク以上の冒険者と、依頼を受注している冒険者には絶対に手を出さないらしい。
しかし、今回はカノン達は依頼を受けている最中であり、さらにカノンはAランク冒険者であるアイリスの助手として依頼を受けている最中だった。
そのことは少し調べれば簡単に分かる事であり、そんなカノンに手を出せば冒険者ギルドが黙っていないことくらい把握している闇ギルドはまず標的がカノンだと判明した時点で手を引くだろうという話だった。
そして、依頼を失敗した男が単独犯だった場合は新しく暗殺者を雇われない限りはこれ以上狙われることはないだろうという事だった。
それを聞いたカノンは安心した表情をしつつ、どこか納得しきれていない様子だった。
まぁ、俺も同じような顔をしてるんだろうが……。
なんだか今回の一件は、もう少し続きそうな気配がしているのだ。
その事を考えると、しばらくは警戒しておいた方が良いかもしれんな……。




