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不審者

side ??? 


男は依頼を受けてある少女を見張っていた。


青い髪で、服を隠す様にマントを羽織っている少女は、探すのにさほど苦労はなかった。


依頼の内容は少女の誘拐、出来なければ抹殺だ。


しかも、速やかにとの条件付きだ。


真っ当な依頼ではないが、それはそうだろう。


男が所属しているのは言わば裏社会。


その中でも暗殺や人さらいなどを専門に行っている集団だ。


裏社会とは言っても、貴族の中にはそういった者達とつながっている者もいる。


今回の依頼もある貴族の息子……とは言ってもいい大人だが……から受けたものだ。


曰く、自分に恥をかかせた小娘に復讐したいというものだった。


男がこれまでに受けた依頼の中でも、動機のくだらなさではトップ3に入るだろう。


そもそも本当にやばい動機がある場合は、万が一を考え実行部隊には知らされないのが普通だ。


とはいえ、今回は依頼主が自分から愚痴をこぼす様に話してくれたので聞きたくなくても聞いてしまったわけだが……。


いくら金払いがいいとは言え、そんなくだらない理由で動いている自分自身に嫌気がさしながらも、男はターゲットの少女を監視するのだった。


男が少女を見つけたのはこの町で最大規模の魔法学園の校門前。


誰かを待っているような様子の少女に、男はどうしたものかと考える。


この学園には、貴族の子供も多く通っている。


そして、その少女の待ち人が貴族だった場合はかなり面倒なことになってしまう。


これが平民だったのならその待ち人がいなくなるまで待って、少女が1人になった時に襲えばいいだけの話だ。


平民など、依頼主の貴族の後ろ盾でどうにでも出来るのだから。


自分と分かれた後いなくなったと言った証言が出た場合でも、平民の証言なら問題ない。


そもそもターゲットは冒険者だ。


居なくなったとしても、依頼の最中に死んだと思われるのが関の山だ。


しかし、これが貴族だった場合は面倒なことになる。


貴族の証言を潰すのは簡単なことではない。


下手をすれば町の治安を守る衛兵だけでなく騎士団まで動きかねない。


そうなった場合、証拠を残さず完全犯罪にしなければならないのだが、それをするには準備や根回しに時間がかかる。


しかし、今回の依頼主の意向は速やかにだ。


そんな事をしている時間はない。


これは一旦戻り、応援を呼んでくるべきだろうか?


男がそう考え始めていた時、少女と門番が何やら言葉を交わし、そのまま門の中に入っていってしまった。


そんな様子に男は焦り始める。


学園の門の中に入れるのは基本的に学園の関係者だけ。


もしくは、学園に何かを納入している業者か?


普通、冒険者の少女が中に入ることなどありえない。


本当にどうするべきか?


そう悩んでいた男だが、目的の少女はすぐに出てきて、何やら地図らしきものを手に持って門番に頭を下げている。


(なんだ、道を聞いてただけか……)


そう安堵のため息を漏らす男。


それまでの流れから、そんなわけがないと誰でも分かることだが、依頼の動機が動機だけに半分やる気をなくしている男は気が付かない。


そして、門から離れていく少女を尾行し始めたのだった。


少女を襲うチャンスを待って。











少女を襲うチャンスは、案外早く訪れるかも知れない。


男はそう思った。


何故なら、少女は人通りの少ない裏道の方へ歩いていくからだ。


本来なら、罠かも知れないと警戒していただろう。


しかし、相手がまだ成人していない少女であることや、この依頼のくだらなさなどからどこか油断していた男はそんな考えを完全に捨て去っていた。


男は少女から付かず離れずの距離を保ちつつ、尾行する。


時折少女が振り返るが、振り返る兆候が見えたら即座に物陰に隠れる。


男は隠密系のスキルを多数持っていた。


だからこそ、よほど高位の冒険者でもない限り見つかることはないと油断していた。


普通なら、これほど頻繁に振り向かれては尾行に気づかれていると思うのが普通なのにだ。


とはいえ、少女が振り返るのは店の前を通り過ぎた時や分かれ道など、目的地を探している少女が足を止めても可笑しくはない場所ではある。


やがて少女は一つの角を曲がった。


(この先は……確か行き止まりだったよな?)


男は頭の中で地図を確認し、少女が曲がった先が誰も通ることのない袋小路であることを思い出す。


暗殺にしろ誘拐にしろ、最適な場所だろう。


(よし、今だな!)


男はそう判断すると、音もなく駆け出す。


そして袋小路の前で地図を広げて首を傾げている少女の背中に、ナイフを突き刺した。


ナイフがマントを貫通し、少女の体がわずかに跳ねる。





























「ハク?お願いね?」







男がマント越しに深々と刺さったであろうナイフを確認し、少女がどうなったか確認しようとした瞬間、少女からそんな声が聞こえてきた。


「!?」


確かにナイフは刺さっているはずだ。


しかし、そんなものを全く意に介した様子のない少女の声に、男は得体の知れない恐怖を感じる。


そして慌てて飛びのこうとした瞬間、男の目の前が青一色に染まったのだった。







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