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初めての食べ物

「ってそんな話じゃなくて!」


まじめな顔から一転、いつも通りの表情に戻ったアイリスが言う。


『どんな話だ……』


「カノンちゃんの話よ!」


そう言われてもな……。


『まじめに答えるが、怒ると怖いのは最初からだからな?アイリスに対しては……最初はAランク冒険者だし先輩だってことで遠慮してたのが、慣れてきて遠慮がなくなっただけだろう……』


これは正直な感想だ。


アイリスの場合はそもそもソルに説教されている光景が普通なのでカノンが怒ることも普通になってきているのだろう。


俺もあんまり違和感感じないし……。


「私、ひょっとして怒らせたら駄目な人を怒らせた?」


『一応は大丈夫だろ。最近カノンも慣れてきてるから』


「嬉しいような嬉しくないような……」


複雑そうなアイリスを見ていると、さっきの話もどうでもよくなってきたな……。


本当に貴族には見えないんだよな……。


まぁ本人がそういう風にふるまっているというものあるようだし別にいいか……。


「ほう…白竜さんはアイリス君とは会話できるんだね」


「キュ?」


不意に、そんな声が後ろから聞こえてきた。


『ん?』


振り返ってみると、そこにはリーオが立っていた。


そういえばここにいたのはアイリスを含む教師陣だったな……。


その殆どがこちらを見ている。


まぁ俺の念話はアイリスにしか飛ばしていなかったしはたから見ればアイリスの独り言にも聞こえただろう。


そうすると、こちらに興味を持っても話に混ざれずに話の切れ目を待っていたのだろう。


で、リーオが話かけてきたと。


まぁそれはいい。


俺が気になるのは……。


『まぁアオ?お前何喰ってる?』


アオの手には両手で抱えられるサイズの肉がある。


ついでに言えはそれをちょびちょび齧っている。


「キュキュウ?」


食べる?みたいに差し出されても……。


『いや……いらない』


「キュー?」


いや、おいしいとかそういう問題じゃないから……。


さっきからやけに大人しいと思っていたが飯貰ってたからか……。


「おや?白竜さんは食べないのかね?」


不思議そうに聞いてくるリーオ。


「ハクは封印されてますからね。食欲はないみたいですよ」


アイリスがそう言ってくれたので俺は頷いて見せる。


「キュキューキュ?」


食べられないの?


そんなニュアンスが聞こえてきた。


『別に食べられないことはないと思うんだが……食べたいと思わないだけだな』


口ではなかったが、ゴブリンはマンイーターで食べたことがあったような気がするが……。


あれを食べたと言っていいのかは分からんが……。


そもそもこの世界に来て食べた物って言えば……果物とスライムコアくらいか……。


そう考えると異世界グルメをまったく堪能していないんだな。


アオの持っている肉に視線を移す。


「キュ?」


何か少し食べたくなってきた……。



















俺の前には焼かれた肉が置かれている。


一口食べてみたが、意外と旨い。


あの後結局俺の視線に気が付いたアオが自分の分を差し出そうとしてくれたのだが、流石に悪いので丁重にお断りした。


しかし、それを見ていた教師たちが分けてくれたのだ。


というわけでこの世界初の調理された(と言っても焼いて塩を振っただけではあるのだが……)肉を食べている。


『旨いな……』


「キュ~!」


俺が漏らした言葉に何故か嬉しそうに返事をするアオ。


何故お前が返事をするんだ……。


「ハクってもしかして久しぶりの食事じゃないの?」


アイリスがそういうので、俺は頷く。


『そうだな、多分久しぶり……そもそも普通の肉は初めてじゃないか?』


確かこの世界で食べたのは果物だけだ。


ゴブリンを溶かした記憶はあるがあんなものはノーカンだ!


「竜なのに珍しいわね。お肉は嫌いだった?」


不思議そうにアイリスが聞いてくる。


『別にそういうわけじゃない。そもそも俺はカノンと出会う少し前までスライムより弱かったんだぞ?狩りなんかできるかよ』


「あぁ……そういう事ね」


俺の言葉にアイリスは納得したように頷く。


そして少し考え込むそぶりを見せた。


「ねぇハク?カノンちゃんなんだけど、明日マルガレーテさん達を町まで護衛したらそのまま自由時間でいいわよ?」


アイリスにそう言われ、俺は少し考える。


『それは有り難いが……いいのか?』


「大丈夫よ!だってカノンちゃんの仕事終わってるし、私の班も明日中には終わりそうだしね。多分自由時間は明日と明後日の二日間くらいだろうけど、せっかくだしそっちのアオちゃんと一緒においしい物でも食べてきたら?」


そう言われ、隣にいるアオを見る。


「キュ?」


こいつ、多分アイリスの話の意味わかってないだろうな……。


まぁ、そうだな。


『学長たちがいいのならそうさせてもらうよ。カノンもマルガレーテ達と一緒に居たいだろうしな』


既に仲良くなりつつある4人だ。


カノンはいつまでもここに居るわけではないので、少しは時間を用意してやりたいとは思っていた。


丁度いい機会だし戻ったらカノンに伝えてみよう。


そんな俺を後目に、アイリスは小声でつぶやいた。


「これでカノンちゃんの怒りも収まるかしら?」


お前……。


そっちが狙いかい!!


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