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野営の夜

その後、結論から言ってアイリスは戻ってきてすぐにいなくなってしまった。


日暮れに戻ってきたリーゼ曰く、途中でリーゼと会った時に今日は野営することになると言い忘れたと気が付いたようだ。


そして、カノンが野営地で待ち構えていると察して生徒をここに戻した後はカノンですら追えない俊足で逃げたのだ。


とは言ってもその辺でこの辺りの警戒はしているのだろうが……。


というわけでアイリスを問い詰めることのできなかったカノンは、マルガレーテ達とテントの前で料理をしていた。


本来は教師や護衛の冒険者たちと一緒に食事をとるのだが、マルガレーテ達は課題をクリアしているし、カノンにとって同年代の子達との出会いはあまりなかったということもあってリーオをはじめとする大人たちが配慮してくれたのだ。


なので他の生徒たちが質素な保存食やオークを倒して辛うじて取れた部位を何とかはぎ取って持ち帰った物を調理している中、カノン達はオーク肉の焼き肉をしていた。


収納の中には保存の利く野菜類が多少入っていたし、マルガレーテ達が倒して耳をはぎ取ったオークはカノンがすべて収納に入れて持ってきていたのだ。


マルガレーテ達の魔法の集中砲火を受けたオークは損傷が激しく食べられそうな部位は少なかったが、それでも4人分には充分な程の肉が採れた。


そして、カノンは解体が出来ないのでマルガレーテ達に教えて貰いつつ解体し、それを焼いているのである。


因みにマルガレーテ達が解体を出来る理由だが、こういった課外授業で必要なので必死に覚えたらしい。


逆に、マルガレーテ達にしてみたら解体の出来なかったカノンは少し歪に映ったかもしれない。


「カノン~、そっちのお肉取って~」


「はい、これでいいですか?ソフィアさん」


まぁそのおかげでこの三人とも大分仲良くなり、ソフィアに至ってはため口になっているが……。


因みにマルガレーテは今までの口調がデフォルトらしく、口調は変わっていないが……。


セシリー?


彼女はよく分からん……。


口調は敬語のままだが、本人曰く学園用の口調とのことで、休みの日には口調が変わるらしい。


ソフィアはその口調を知っているらしいのだが、マルガレーテは聞いたことがないという。


「それにしてもカノンさんの意外な欠点が知れてよかったですね」


そんな事を笑顔で言うセシリー。


それにカノンが少し恥ずかしそうに口をとがらせる。


「だって今までそのまま持ち込んでたんです。その方が楽だし……」


「楽って……普通は運ぶのにとんでもない労力がいりますからね?」


そんなカノンに呆れたように言うセシリー。


「カノンさんの場合は収納があるからその方が効率がいいんでしょうね」


その横のマルガレーテは納得したように頷いている。


確かにマルガレーテの言う通り、効率はいいのだ。


俺たちの場合、獲物を倒すのに時間はいらない。


そして気配察知も高レベルになってきたので簡単に探せる。


そうすると、多少の料金を取られたとしてもギルドで解体までしてもらった方が楽だし早い。


解体をする時間でその倍は獲物を狩れるのだから。


とは言っても、同じことが出来る冒険者はそれなりにいるだろう。


彼らとカノンの違いは収納スキルだ。


収納スキルは人でも使えるスキルではあるがかなりレアだし、そのスキルがあるだけで商会などでは無条件で雇ってもらえるようなスキルなのでそんなスキル持ちが冒険者をやっていること自体が珍しい。


カノンの場合は特殊だが、そんなわけでカノンと同じことが出来る冒険者はほとんどいないのだ。


普通はオークを一体倒したらそれを解体して可食部位だけを持ち帰ることになり、それも一体分を持ち帰るだけで一苦労となる。


しかもオークの肉は庶民向けの品物であり、値段も高くない。


まぁそれでも量が採れるのである程度の儲けにはなるらしいのだが……。


というわけで、カノンのように獲物をそのまま持ち込む冒険者など殆どおらず、レセアールのギルドの解体場では過去最高レベルで忙しい日々になっていたという噂もちらっと聞いたことがあった。


カノンが来る前までも高ランクの冒険者の中には同じように大量の魔物をそのまま持ち込む者もいたらしいので、カノンにしかできない芸当というわけでもない。


しかし一般的な方法からは外れているというのは間違いないだろう。


今までカノンがしたことのある解体は、ゴブリンの角などの証明部位の解体程度だ。


申し訳程度の解体スキルでどうにかやってきた感は否めない。


この機会に解体をマスターしておくのもカノンの為にはなるだろう。


カノンも覚える気はないわけじゃないようだし。


実際、さっきまで教えて貰っていたんだしな。




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