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盗賊とギルド

カノンが不安そうに待つこと約30分。門番が戻ってきた。


「えっと、昨日冒険者登録をしたカノンちゃんであってるよね?」


「は、はい」


「やっぱりそうだったんだね。今さっきギルドに連絡が付いたよ。とりあえずこちらとしては問題が無いから依頼は達成扱いにしておくように頼んでおいたよ。でもギルドの方では色々問題になって……、いや、カノンちゃんは悪くないからね?むしろ被害者だからね!?」


門番の話を聞いているカノンの目に涙が浮かんできたのを見て、慌ててそういう門番。やっぱり今回は巻き込まれたか。


「で、ギルドの方からカノンちゃんに確認したいことがあるらしいから、できるだけ早くギルドに戻ってほしい。勿論今回の事でカノンちゃんが不利益を被ることが無いように僕たちもギルドも配慮するからね」


門番の言葉にカノンは頷くと、そのまま案内されて研究所を出た。












「でも、何だったのかな?」


身体強化を掛けながら走るカノンがつぶやく。


『多分、あの男がFランクの依頼をGランクの依頼に書き換えたんじゃないか?』


「それって意味あるの?」


『Gランクの依頼ならFランクの依頼よりもかなり安くなる。その差額を横領したんじゃないか?そもそも町の外に出る依頼だったから背伸びしたいGランクは喜んで受けるだろ?』


「確かに…でも依頼の達成報告をしたらすぐにばれない?」


カノンに言われて俺は嫌な予感がした。カノンの言うように、この依頼は達成報告をするときに他の職員が気づく可能性がある。なぜなら達成の処理をするのはあの男だと決まったわけではないのだから。


この場合、可能性として考えられるのは、ギルド全体でこの不正を行っている場合だ。しかしその線は薄いだろう。その場合は態々依頼書を燃やす必要がないし、別に料金を上げて冒険者の取り分を減らせばいいだけである。今回の様な依頼なら、ついでで受けてくれる冒険者は多いだろう。


そしてあまり考えたくない可能性として、証拠を隠滅するというものが在る。もしこの話がギルドに伝わっておらず、なおかつ依頼を出したGランク冒険者が町の外で行方不明となったなら、単に調子に乗った子供が町の外に出て、魔物に襲われたという事にできる。

なぜなら、そんな依頼を出した記録はギルドには残っていないのだから。


そして大事なのは依頼を片付けてから行方不明になることだ。もし依頼の最中だとすれば、依頼主からギルドに確認が行ってしまう。そうなればギルドが調査に動いてばれてしまうだろう。


俺は念のため気配察知を発動した。


『!?』


「どうしたの?」


カノンが俺の動揺を感じ取ったようだ。


『止まれ!前方に待ち伏せだ!』


「っ!」


カノンは俺の言葉を聞いて慌てて止まる。そして気配察知を使ったのか前方を警戒しながら腰のナイフに手を伸ばした。


「これって……人の気配?」


『あぁ、こっちに向かって近づいてくる。人数は3人だから、多分俺たちを消して証拠隠滅を図る連中の可能性が高い』


「………なるほど、あのおじさんにいいように踊らされてたって事?」


カノンの声がやけに冷たく感じる。相当怒っているようだ。


『あの研究所の男は無関係だろう。もし関係者なら、あの部屋でどうとでもできたはずだ。ギルドの方は…当たりだろうな』


「そっか…ねぇ、ハク?」


カノンが俺の名前を呼ぶが、何故だろう?名前を呼ばれただけで身震いしてしまう。地獄の底から聞こえてくるような声だった。


『な、なんだ?』


「何でだろう?今、すごくあいつら叩きのめしたい」


確かにそれは俺も同感だ。しかし今のカノンは少し怖い気がする。


『確かに俺も同感だが……』


「少し考えがあるの」


そう言ってカノンは作戦を説明してくれた。












それから少し待つと、3人の人影が見えてきた。例によって鑑定を使うと、三人とも職業の欄が盗賊になっていた。


『カノン、確認できた。盗賊で間違いない』


「ありがとう。じゃあ行くね」


カノンはそういうと歩き始めた。身体強化は止めて、普通の子供みたいに歩いていく。


盗賊たちは何というか、もし図鑑に盗賊と紹介されていたらこんな感じだろうという分かりやすい見た目だった。ぼろぼろの服を着ていて、少し離れているのに嫌なにおいがしてくる。


「お~、いたいた。調子に乗ったガキがよ」


そんな声と共に下品な笑い声が聞こえてくる。やっぱりカノンの事を背伸びしたGランクだと思っているらしい。鑑定してみた結果を言えば、三人相手でもそんなに強くはないだろう。むしろこの前戦った猪の方が強そうに見える。


「おじさん達、誰?」


カノンがそんな風に聞くと、盗賊たちの顔に笑みが浮かんだ。


「お嬢ちゃん、ギルドで教わらなかったのかい?町の外には……人さらいが出るって!」


そういうと同時に盗賊の一人がカノンの後ろに回り羽交い絞めにする。


「!?」


カノンの慌てる気配を察知したのか残りの二人も近づいてくる。


「安心しな、抵抗しなければ悪いようにはしねぇ。ちょっと別の町に働きに行ってもらうだけだからな」


「ただし……一生な」


二人がそう言いながら持っていたリュックらしきものからロープを出した。これでカノンを縛るつもりのようだ。


「私の事狙ってたの?」


カノンが声を震わせながら聞く。声が震えているのは半分以上怒りのせいだが、盗賊たちはおびえていると思ったようだ。嫌な笑みを浮かべている。


「ギルドで背伸びしようとするから罰が当たったんだよ?お嬢ちゃん」


「今度はちゃんと街中の依頼にしような?次があればだが」


今の言葉でわかった。やっぱり朝の男はこいつらの関係者で間違いないようだ。


『よし、カノン。もういいか?』


「いいよ。でも一人は残してね?」


カノンは俺の言葉に返事をしてくれたが、傍から見ると独り言を言っているようにしか見えないだろう。


「何言ってんだ?」


「恐怖で可笑しくなったか?」


やっぱりそういう風に見えるようだ。


俺はカノンの足からスライムの触手を伸ばし、カノンを羽交い絞めにしている男の首筋に麻痺針を打ち込んだ。


「クピッ!」


間抜けな声と共に崩れ落ちる盗賊。カノンは盗賊の腕を振りほどくと残りの二人から距離をとった。


「な、なんだ!?」


「い、いったい何しやがった!?」


カノンを捕まえていたはずの盗賊が動かなくなり、残りの二人が慌て始める。


普通に考えればここは逃げた方がいいに決まっているのに、カノンをただの幼い少女だと思っているのか、警戒しながらも逃げる様子はない。


「盗賊なら持って帰れば依頼達成だね」


カノンはそういうと不敵な笑みを浮かべる。ギルドの常時依頼には盗賊の捕縛、もしくは討伐というものが在る。依頼を出しているのは商業ギルドが主で、盗賊を捕まえるか始末すれば依頼達成となる。また、この世界では奴隷制度が存在するらしく、盗賊などの犯罪者は、犯罪奴隷として鉱山などの過酷な環境での労働力となる。


そして盗賊を捕縛できた場合は、ギルドや町の衛兵の詰め所に連れて行くとそのまま事実確認が行われ、盗賊であり犯罪奴隷に落とす判断がされた場合、通常の依頼の報酬にプラスして奴隷として売られた分の一部をもらうことが出来るようになっているのだ。


なので俺たちは相手が盗賊だと確定した瞬間に生け捕りを選んでいた。


「くそ!このガキ!」


残った盗賊の片割れがカノンに向かって突っ込んできた。


ズボ


「え?」


しかしそんな音と共に盗賊の足が地面にめり込んだ。そしてそのまま地面が抜け、盗賊は間抜けな声と共に落ちて行った。


これは俺が作った落とし穴だ。カノンの足から触手を出して地面の中にもぐり、収納で土を取り込んで穴を掘る。そして最後に地面の下すれすれまで穴を広げれば完成だ。そして穴に落ちた盗賊には触手から麻痺針をプレゼント。


これで残りはカノンの取り分の一人だけだ。


「くそ!よくも…ぎゃび!」


最後の盗賊はカノンを警戒して動かなかったのだが、カノンは身体強化を掛けるとそのまま盗賊を殴り飛ばしていた。






















その後、盗賊の持っていた縄で盗賊たちを縛り上げると、カノンは盗賊を引きずりながら町に戻るのだった。

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