置いてけぼり
地上に降りていくとカノンがこっちを見ていることに気が付いた。
その横にはマルガレーテの首……首!?
ってよく見ると地面に埋められてるだけか……。
一瞬生首に見えたぞ……。
というかカノンも結構えげつない事するな……。
「ハク?何したの?これ」
開口一番カノンが近くに落ちてる石の塊を指さす。
『ん?石の壁に閉じ込めた』
「それで落としたの?ハクって結構えげつない事するよね……」
カノンから呆れたような声が聞こえてくるが、俺のお前に対する感想も同じだからな?
『人のこと言えるか?あれはなんだ……』
「え?埋めただけだよ?」
うん。
お前も大概だからな?
面倒だから言わないけど。
「そんな事よりも……ハク!」
カノンがそう言って右手を上げる。
何となくカノンの意思を察して、俺は飛んだまま自分の前足……手をカノンの手に合わせる。
ハイタッチだ。
「お疲れ!」
『おう!カノンもな!』
ついでに見栄えもよさそうなのでハイタッチをしたまま召喚を解除する。
光に包まれた俺の意識は、いつものカノンの中に戻った。
「あれ?戻っちゃうんだ」
『大技使ってないから魔力は余裕があるんだけどな。なんか落ち着かない』
っと、カノンとの会話に花を咲かせる前に、こいつら助けないとな。
俺は触手を伸ばしてマルガレーテとスカイドラゴンの魔法を解除する。
とは言ってもスカイドラゴンの方は周りの石と中の粘液を収納に仕舞っただけ。
マルガレーテは周りの土を収納に入れて隙間を開け、触手で掴んで引き上げただけだが……。
「あ、ありがとうございます」
泥だらけのマルガレーテがカノンに礼を言う。
「キュ~……」
その横ではスカイドラゴンがひどい目に遭ったと言わんばかりの声を出している。
粘液は全部収納に仕舞ったので問題はないだろう。
見た感じ落下によるダメージもなさそうだしな。
「えっと……ごめんね?」
「キュキュ!」
カノンが首を傾げながら謝るとスカイドラゴンは気にしないと言わんばかりにカノンの周りを飛び回る。
「え?えっと……」
その様子にカノンは困ったようにマルガレーテを見る。
「あぁ、ごめんなさい、アオちゃん?」
「キュ!」
マルガレーテが呼ぶとそのままマルガレーテの元に戻るスカイドラゴン。
「キュキュキュ~」
「え?そうなの?うん。伝えるね?」
意思の疎通ができているのはテイマーのスキルなのか?
「アオちゃんがカノンさんの中の竜さんに言いたいそうです。次は負けないって」
本家の竜にそう言ってもらえるとありがたいな。
『俺も負けんぞ?』
「ハクも、負けないって言ってます」
カノンにしか念話は繋いでないが、カノンが代弁してくれたので向こうにも伝わっただろう。
「うん、中々面白い勝負でしたね。カノンさん、お疲れ様です。マルガレーテさん、戦ってみてどうでしたか?」
「はい、アオちゃんを無力化されるとは思いませんでしたが、それを抜きにしてもカノンさんには勝てないと思います」
はっきりと言い切ったマルガレーテに他の生徒たちは首を傾げる。
カノンはどんな戦い方をしたんだ?
「ほう?何故でしょうか?」
「カノンさんは最後に魔装を使いましたが、最初から使われていたら私ではどうすることも出来ませんでした。さっきの模擬戦は私に合わせて貰っていたのだと思っています」
『カノン?そうなのか?』
「え?……一応手加減はした……よ?」
つまり手加減こそしたもののそこまでは考えてなかったか……。
「皆さん、カノンさんは特殊クラスの冒険者とは言え皆さんより年下です。しかし、皆さんよりはるかに強いです。もしまだカノンさんと戦ってみたい人がいれば申し出てください」
さらっと追加を募集してるし……。
そして誰も名乗り出ないな……。
さっきまで戦いたそうにしてたのも沈黙してるし……。
それを見たリーオは何か言いたそうではあったが、もうあきらめたようだ。
「ではこれで授業を終わりとしましょう。この後授業がある生徒は移動してくださいね」
あれ?
リーオはこの授業の担当じゃないよな?
リーオの後ろで教師らしき男が落ち込んでるぞ?
リーオの指示に従い移動していく生徒を後目にアイリスたちがカノンに近づいてきた。
「カノンちゃんも中々やるわね~、召喚術でテイマーと張り合うなんて」
笑いながらそういうアイリス。
『面白かったぞ?』
「はい、私もハク抜きで戦う練習になりました」
確かに俺のサポートなしって言うのはあまりないからな……。
「で、カノン?本気出すとどうなってた?」
リーゼが言うのはさっきの模擬戦の事だろうか?
「どう?……多分空から魔法撃ってた?」
何で疑問形なのかは置いておいて……、発想が俺と同じになってきたな……。
『まぁそれが手っ取り早いだろうな……。スカイドラゴンがネックになるが……』
「それも問題なさそうだったわね。むしろいい経験になったんじゃない?」
確かにその通りだろう。
カノンにとっても俺にとってもな。
それに……。
「あ!私次の授業行かないと!!カノンちゃん達は適当にぶらぶらしててね!!」
ふと思い出したようにアイリスがそう言い残して走り去っていく。
ぶらぶらしててって……。
「どうしよう?」
人がほとんどいなくなったグラウンドにカノンの声が響いた。




