竜対竜
「!アオちゃん!止めて!!」
カノンが肉薄してくるのを見て、体勢を整えるのが間に合わないと踏んだマルガレーテはスカイドラゴンに指示を出す。
というかスカイドラゴンの名前、アオって言うんだな……。
「キュー!」
それを聞いたスカイドラゴンはカノンに向かって飛んでくる。
ブレスとかを使わないのは対人戦で使ってしまうと相手を消し飛ばしかねないと思っているのか、もしくは使えないのか……。
俺としては後者の方がありがたいが、そううまい話でもないだろう。
「ハク!お願い!」
こっちはこっちでカノンから指示が飛ぶ。
『任せろ!』
俺は手短に返すとスカイドラゴンがカノンに体当たりをかます直前、スライムの盾を割り込ませた。
「キュ!?」
グチャ。
そんな音と共にスカイドラゴンはスライムに突っ込んだ。
このスライムの盾には物理無効を発動させているのでカノンには衝撃は伝わらない。
そして突っ込まれた瞬間に粘液で絡めとり、ついでにスライムを追加してそのまま埋めた。
……が、それも数舜だけだった。
ボォン…。
そんな音がしたと思ったらスライムがはじけ飛んでしまった。
「キュー……」
何故かこちらを恨めしそうに睨んでいるスカイドラゴンだが、まぁ気持ちは分かる。
スライムに埋められたら俺でも同じ反応をするはずだ。
とはいえ、俺の役目は充分果たした。
さっきの数舜、カノンにとってはそれで十分だ。
「はっ!」
カノンはマルガレーテに肉薄すると、そのまま魔法剣を振り切った。
「くっ!」
しかしマルガレーテもさらに体勢を崩しながらも辛うじて躱す。
これを躱された時点でさっきのスライムの壁はもう使えないだろう。
スカイドラゴンも学習する。
恐らく今度は避けられる。
しかし……。
「ハク!準備出来た!お願いね!」
『よし、こっちは任せとけ!』
これだけの相手だ。
既に数手先まで用意している。
問題は向こうに竜がいることだ。
俺抜きでもカノンの能力ならマルガレーテと充分戦える。
そうすると、俺はカノンの中から竜を妨害することになっていたわけなのだが、この状態では流石に少しの足止めが限界だった。
まぁ、魔物を封印する封印者と魔物を使役するテイマーの違いだしそれは仕方がない。
とはいえ、俺もカノンも仕方ないとはみじんも思っていないわけで、最初から策は考えてはいた。
「ハク!召喚!!」
カノンが叫ぶと同時に、カノンの目の前に魔法陣が展開する。
そして俺の意識がカノンの中から離れて行った。
魔法陣から溢れる光と共に俺は召喚された。
『さーて、俺はあいつを叩くとしようか』
「お願いね!」
俺にそういったカノンはそのまま召喚の隙に体勢を立て直したマルガレーテに向かう。
「キュ!」
それに反応したスカイドラゴンはカノンの邪魔をしようとするが、それをさせないために俺が出てきたのだ。
『カノンの邪魔はしないでもらおうか?』
俺は翼をスライムに変えてスカイドラゴンに向けて伸ばす。
「キュ!?キュー!!」
スカイドラゴンはさっきの触手が俺の物だと気が付いたようで、さっきの怒りが収まらないのかヘイトを俺に向けてくれた。
そして触手がスカイドラゴンを捕えようとした瞬間、スカイドラゴンは急上昇して触手から逃れる。
『ちぃ…流石というべきか……』
低空とはいえ空を飛んではいたのである程度の機動力は予想していたが、静止状態からあの触手を避けるだけの速度を出せるとは思わなかった。
しかも速度の出しにくいほぼ垂直の急上昇だったのに……。
俺のスライムの触手の速度は意外に早い。
正確な速度は分からないが、全力を出せば逃げようとする魔物でも捕まえられるし咄嗟の攻防にも使える速度を出せる。
なのであの目前まで迫った状態から急上昇で躱されるとは思わなかった。
「キュ!」
急上昇したスカイドラゴンは今度は急降下してきた。
体当たりか?
もしくは肉弾戦か?
どっちにしても思い通りにはさせないぞ?
尻尾をスライムに変えて地面に突き刺す。
そして周りの土を収納に入れながら掘り進み、それと同時に翼の一部もスライムに変えて砲身にする。
そして粘液の粘土を下げて、そこに収納に入れた土を混ぜ込む。
これで即製の泥団子の完成だ。
『落ちろ!』
ポポポン!
いつもの粘液爆弾の音と共に泥団子が発射される。
「キュー!」
「うお!!」
しかし、スカイドラゴンは空気の塊のブレスを撃ってきた。
それにより泥団子は弾かれ、下にいる俺に向かって落ちてくる。
俺は慌ててスライムを元に戻し、全力で回避する。
ボンッ!
俺がその場を離れた瞬間、一瞬前まで俺がいた地面が破裂した。
恐らくブレスのせいだろう。
泥団子をはじいたブレスがそのまま地面にあたり、圧縮された空気だったブレスはその衝撃で破裂したのだろう。
破裂した地面には大した変化は見えない。
恐らく威力はエアコンプレッサーで貯めた空気の圧力よりも弱いだろう。
とは言っても、下手をすると大ダメージには成り得る攻撃なので基本は避けた方よさそうだ。
空中戦の場合は近くで爆発するだけで落とされるので大きく避けた方が良いだろう。
っと、そんな事より今度はこっちの反撃と行こうか。
『フレイムアロー!』
「キュ!?」
俺の周りから放たれた炎で出来た矢がスカイドラゴンを狙い撃つ。
しかし、スカイドラゴンは再び急上昇して躱していった。
向こうは一撃離脱を繰り返すスタイルか?
そうだとすると面倒だな。
まぁ、その場合は離脱させなければいいだけだ。
俺は翼を広げて飛行スキルを発動させ、スライドラゴンを追いかけて飛び立った。




