シーラーVSテイマー
リーオに手招きされたカノンはリーオの元にやってきた。
「皆さん、彼女はアイリスさんの助手をしてくれるカノンさんです。歳は皆さんよりも下ですが実力はアイリスさんの折り紙つきです。とはいっても、そう言われた程度では納得できはしないですよね?」
生徒たちに話しているからか丁寧な口調になっている。
アイリスの事もアイリス君と呼んでいたのがアイリスさんになってるし。
因みにそう説明された生徒たちは殆どが頷いている。
まぁ、見た目では強いとは思えないのはしょうがない。
「本来なら相手を見ただけで相手の力量を測れないといけないのですが、皆さんにはまだ早いですしそれは仕方ないでしょう。なので、さっき説明した通り皆さんの中から代表者を一人選んでカノンさんと戦ってもらいます。誰か戦いたい人はいますか?」
リーオの問いに数人の男子が手を上げる。
他の生徒はカノンと戦う事を面倒に思っているか強そうには見えないがアイリスの助手として来ている時点で化け物も知れないと思っているのか手を上げなかった。
というか、子供だけあって顔に出る。
大体どんなことを考えているのは分かりやすい。
因みに手を上げた男子たちはカノンの事をなめている様子である。
カノンはどう思っているか分からないが、俺としてはその方がやりやすいので助かる。
「ふむ……では……」
「私がやります!」
リーオの声を遮ってそういったのは後ろの方にいた女子生徒だ。
その女性とが立ち上がると、その手の中に何かが抱かれているのが見えた。
「マルガレーテさん?貴女が立候補するとは珍しいですね」
リーオが意外そうに言う。
「はい、この子が戦ってみたいそうなので」
「キュー」
女生徒、マルガレーテがそういうと手の中の何かが鳴いた。
というか、あれって……。
「ドラゴン?」
カノンがマルガレーテの手の中の生き物を見てそう呟く。
中にいたのは空色の竜だ。
あれがスカイドラゴンなのだろう。
サイズ的には俺と同じくらいか……。
というか、そのスカイドラゴンがじっとこっちを見ている気がする。
視線はカノンに向いているのだが、カノンを見ていない。
多分中の俺を見ているのだろう。
「カノンさんと言いましたね?よろしければ私と戦って下さい」
「キュー!」
二人…一人と一匹に直接言われた。
「ハク?」
カノンから少し困った声が聞こえてくる。
『俺は別にいいぞ?というか、もしあのドラゴンが出てくるようなら俺を召喚してくれ』
どうやらあのスカイドラゴンの方は俺と戦いたいみたいだしな。
なら相手をしよう。
亜竜ではなく本当の竜。
それも空では最強のスカイドラゴンだ。
最強の竜に最弱の竜が挑むというのは無茶かもしれんが、カノンの尊厳の為にも負けられんし全力を以って相手をしてやろう。
「私はえっと…マルガレーテさん?が相手でも大丈夫です」
少し長い名前にうろ覚えになってしまったカノンがそう返事をする。
他の生徒は納得できないかもしれんが、本人同士が合意しているのにそんな事は問題にすらならんだろう。
カノンとマルガレーテはそれぞれグラウンドの中ほどで向かい合っている。
他の生徒とリーオは結界の範囲外に退避しているし、審判らしき人もいない。
ついでに言うとリーオの隣にはアイリスとリーゼもいる。
「ではカノンさん、よろしくお願いしますね?」
マルガレーテの口調は丁寧だが、言葉の端々に凛としたものを感じる。
柔らかな口調ではなくしっかりとした芯の通ったような、そんな感覚だ。
「はい。こちらこそ」
カノンがそういうのと同時にカノンの右手に虚空から剣が現れる……というか収納から直接呼び出しただけだが……。
それと同時にマルガレーテも手に持っていた短杖を構えた。
杖を使う相手は久しぶりな気がするな。
マルガレーテの隣ではスカイドラゴンが待機しているし、魔法と竜の合わせ技とか卑怯……俺たちも同じか……。
「ではこれよりマルガレーテとカノンによる模擬戦を始める。なお勝敗は私の判断か、どちらかが負けを認めた時点で決着とする。始め!」
リーオの合図とともにマルガレーテは一気に距離を詰めて短杖で殴りかかってくる。
あぁ…その杖鈍器として使うのね……。
ガキン!
カノンが魔法剣で受け止めると同時に金属同士がぶつかったことにより火花が散る。
「お、重……」
カノンからは驚きにも似た声が漏れた。
カノンが重いと感じる一撃とは……。
しかし、少し地面を抉って後ろに下がった物のカノンは問題なく持ちこたえている。
「ハク!」
『よし!』
次はこっちの番だ。
俺はマンイーターの蔓を4本ほど伸ばし、マルガレーテに向ける。
「っ!!」
カノンの背後から自分の周りを取り囲むように襲い掛かる得体の知れない攻撃に、マルガレーテはそのままバックステップで避ける。
しかし、当然蔓も追いかける。
「アオちゃん!」
「キュ!」
しかし、マルガレーテの合図とともにスカイドラゴンが蔓を噛み切ってしまった。
一応蔓にも痛覚はあるわけで……。
『痛っ……』
久しぶりに感じた痛みに思わず声が漏れる。
「ハク、大丈夫?」
『あぁ、問題ない。つうかやっぱり竜だな、あんな簡単に噛み千切られるとは思わなかった』
正直もう少し耐えられると思っていた。
噛みつかれた時にそのまま簀巻きにしてやろうと思っていたのだが……。
「ハク!竜はお願い!」
マルガレーテは下がった直後で後ろに体重がかかっている。
それをチャンスと見たカノンが短く言うと竜装を発動して特攻した。
模擬戦とはいえスカイドラゴンに守られている相手によく突っ込むな……。
恐らくあの隙の大きさでもスカイドラゴンがいるから問題にならないのだろうが……。
まぁ、カノンにしても多少無茶をしても俺が何とかすると思っているのだろうが……。
ならその期待には応えよう。
最弱の竜の意地を見せてやる。




