初仕事 ~不穏な依頼~
翌日、夜はギルドの仮眠室に泊めてもらったカノンは、朝早くギルドのホールに来ていた。今のカノンは一文無しなのでさっさとお金を稼がないといけないのだ。今回は、模擬戦で負った怪我の療養の名目で泊めてもらったのだが、さすがに一晩しか無理らしい。
なので今日中に宿代を稼がないと野宿するはめになってしまう。
この世界のギルドは、ゲームみたいな掲示板に依頼が張ってある方式らしく、受けたい依頼があればそれを持って受付に行けばいいらしい。
そして受けられる依頼には2種類あって、通常依頼と常時依頼があるらしい。通常依頼は基本的に早い者勝ちとなってるが、常時依頼はギルドや国が出しているもので、いつでもその素材や討伐した証拠などを持ち込めば依頼達成扱いになるようである。
つまり消費の激しい薬草とか、魔物の肉、弱い魔物の間引きなどが当てはまるらしい。ほとんどの冒険者は通常依頼を受けていき、もし常時依頼がこなせそうならついでにやるといった感じらしい。これらの事は昨日受付嬢が説明してくれた。
そして気を付けなければいけないのは、常時依頼にはランクの制限が無い代わり、通常依頼は原則として自分のランクとその一つ上か下までしか受けられないという事だ。例外となるのは、高ランクの冒険者が新人の育成のために同伴する場合だったり、高ランクのパーティに加入してパーティとしてのランクが自分のランクより高い場合などがあるらしい。
カノンの場合はこのどちらでもないので、基本的にFランクかEランクの依頼を受けることになるだろう。
因みにGランクは完全に別枠扱いになるようで、Gランク以外がGランクの依頼を受けることはできないようだ。
という訳でカノンはFランクとEランクの依頼が張ってある掲示板を眺めていた。
まだ時間が早いせいか、カノン以外の冒険者の姿はない。カノンが一番乗りで間違いなさそうだ。
「ハク、どうしよう?」
『そうだな…カノンの実力的にはどの依頼でも大丈夫だとは思うが……この中ならFランクの採取依頼を受けてから常時依頼の物をついでに探すのが効率はよさそうだな』
俺がそういうとカノンは少し悩んで一枚の依頼書を指さした。
「これは?」
『ん?スライムコアの納品?』
カノンが指さしたのはFランクのスライムコアの納品依頼だった。
内容はスライムコアを5個らしい。これなら受付でスライムの出やすい場所を確認すれば何とかなるだろう。
『いいんじゃないか?初めての仕事だしここから段々と難易度を上げて行けばいいだろう』
「そうだね。じゃあこれにするね」
カノンはそういうとその依頼書を剥がした。これを受付に持って行けばいいはずだ。
「すいません。この依頼をお願いします」
「あ、はい!少々お待ちくださーい!」
カノンが受付の向こうに声を掛けると奥の方から恰幅のいい男性が出てきた。昨日の受付嬢は居ないようだ。
男性はカノンが出した依頼書を見ると、なぜかため息を吐いた。
「君ねぇ、この依頼はFランクの物だよ?Gランクはあっちの掲示板から選びなさい!」
そう言って男性が指さすのはGランク用の掲示板だ。
「えっと…わたしF……」
「ああ!もう!俺は忙しいの!ガキのいたずらにかまってる暇ないんだよ!!」
男性は怒鳴るとカノンを置いて戻ってしまった。どうもカノンをGランクと勘違いしたらしい。カノンの訂正にも耳を貸さなかったな。
「どうしよう?」
『どうしようって言っても…仕方ないから常時依頼の薬草を探すかゴブリンとかを間引くしかないか…』
俺たちが困っていると、先ほどの男性がなぜか近づいてきた。
「まだいたのか!でも丁度いいからこれ行ってきて!」
乱暴にカノンの前に置かれたのは一通の封筒と、その依頼書の様だ。内容は町の外の魔物研究所にこの手紙を届けることの様だ。しかしこの依頼はなんかおかしい。まず町の外に出るとなると最低でもFランクの依頼のはずだ。しかし依頼書にはGランクと書かれている。何か可笑しい。
「えっと…」
「早くここに名前を書いて!」
「は、はい!」
男性の迫力に負けてカノンは依頼書に名前を書いた。
「じゃあさっさと行く!」
男の声に驚いたのかカノンは逃げるようにギルドを飛び出してしまった。そして俺は見てしまった。俺の視界はカノンの頭部を起点として真後ろも見られるのだが、カノンがギルドから飛び出す寸前に、男が依頼書燃やしている所を……。
そして少し移動して落ち着いてきたのか、カノンの足がようやく止まった。
「さっきの依頼、変じゃなかった?」
『あぁ、あの依頼は最低でもFランク以上。つまり俺たちと同じ正規の冒険者が受けるべきものだ。町の外に出ないGランク用じゃあない。それに、あの依頼書は燃やされてたな』
「ほんと?」
『本当だ。本来依頼書はその依頼が完了するまで保管される。それがなぜか燃やされていた。嫌な予感がするが……。一度戻ってグラン達に相談するか?』
グラン達なら何か教えてくれるかもしれない。俺はそう考えたが、カノンは首を横に振った。
「依頼は依頼でちゃんとやらないと」
カノンはそういうが、果たしてこの依頼はきちんと依頼の体を成しているのかどうか。
カノンは門を向けて町の外に出た。門番は昨日と違う人だったが、出る分には手続きなどはいらないらしい。戻ってくるときも、ギルドカードを提示すればすぐに入れるようになっているので昨日みたいに色々と手続きを踏んだりする必要はないようだ。
目的地の魔物研究所は町の外壁沿いにあり、魔物の研究をするという性質上、門からは少し離れた場所にあるようだ。
しばらく歩くとそれらしき建物が見えてきた。石造りの建物で、周りには堀がある。簡易的な防壁の代わりなのだろうか?
入り口には橋が架かっており、門番が一人立っていたのでカノンはそこに向かう。
「あの、すいません」
「おや?お客さんとは珍しい。どうしたのかな?」
門番は笑顔でカノンに返してくれた。
「ギルドの依頼で……これを届けに来ました」
カノンはそう言って封筒を渡す。
すると門番は少し驚いたような顔をした。
「ありがとうね。一応ギルドカードを見せてもらってもいいかな?」
「あ、はい」
カノンがギルドカードを見せると、門番はギルドカードとカノンを交互に見て目を丸くした。
「これは…Fランク何だね。てっきり背伸びしたGランクの子かと思ったよ」
門番は笑いながらカードを返してくれた。
「じゃあ依頼の達成報告をしたいから書類をお願いね」
門番がそういうと、カノンは首を傾げた。
「書類…ですか?」
「え?ギルドで依頼を受けたんだよね?」
門番も首を傾げている。
「受けたというか…押し付けられまして…」
そう言ってカノンはギルドでのことを説明した。すると門番の顔が見る見るうちに険しくなっていく。それを見てカノンはおろおろし始めた。
カノンのそんな様子に気づいたのは、門番は慌てて笑顔を作った。
「ごめんごめん。それで、その時窓口にいた男ってどんな人だったか覚えているかい?」
「えっと……ちょっとふっくらした……話を聞かない人…です」
確かにふっくらはしていた。そして話を聞かないってのも事実ではある。しかし特徴を聞かれてそれでいいのだろうか?いや、確かにそれ以外の情報は…あった。
『カノン。依頼書を燃やしていたぞ』
「あ」
カノンはそう言われて思い出したようだ。
「何か思い出したのかい?」
「えっと、私がギルドを出るときに、依頼書を燃やしてました」
「なに!?」
「ひっ」
門番の顔が一気に怖くなり、その剣幕にカノンから短い悲鳴が上がる。
「依頼書を燃やしていた…、確かに見たんだね?」
「は、はい」
「分かった。もしかしてお嬢ちゃんはギルドに入ったばかりかな?」
門番は優しくいってくれたが、カノンはこくこくと頷くのが精いっぱいの様だった。
「そうか……」
門番はそういうと入り口を開けた。
「すまないがこの中で少し待っていてくれないかな?別にお嬢ちゃんが悪いわけじゃないんだが、この話は少し面倒なことになりそうなんでギルドに連絡を入れるから」
「えっと…はい」
カノンは頷くと研究所の中に入った。入り口近くには応接室があり、そこで待つように言われて門番はそのまま出て行ってしまった。
「私…何かやっちゃった?」
『いや…やっちゃったというより巻き込まれたって方が正しいだろうな。カノンが悪いわけではないんだから気にするな』
「…うん」
カノンはそう返事をしたが、顔は暗いままだった。




