魔法学校の試練?
「……ぅ…」
アイリスがうなだれていると、アイリスに掴まれて気を失っていたらしい守衛の男が意識を取り戻した。
「お?気が付いたかね?」
「……が、学長?何で……俺は…」
まだ混乱しているのかリーオを見て少し驚いたそぶりを見せる守衛の男だが、カノンがいることに気が付くと段々と顔が険しくなっていく。
「お、お前のせいで!」
そういいながらカノンにつかみかかろうとする男を、カノンは面倒そうに躱す。
「何が私のせいか説明してくれますか?私は何もした記憶はないのですが?」
カノンよ……。
それは挑発しに行ってるんだよな?
まさか普通に質問しただけではないよな?
カノンの言葉を聞いた男は顔を真っ赤にして何かの詠唱を始めた。
「!お、おい!」
流石にリーオが止めようと声を掛けようとするが、カノンがそれを手で制す。
「ハク、食べちゃって」
『え?…あ、あぁ……』
捕獲しろってことだよな?
まさか本気で消化までしろなんて言ってないよな?
流石に消化するとまずいのでマンイーターの触手を出し、そのまま男を捕まえる。
「……!?なんだこれ?は、離せ……ぎゃあぁぁぁぁ……た、助け……」
そしてそのままマンイーターの本体を作って、中に男を閉じ込めた。
流石に消化液は出さないようにしているが、それでは迫力に欠けるので粘液で中身を満たしている。
可燃性でもないし、単純にべたべたするだけだが、少しの間消化される恐怖を味わえばいいだろう。
男は脱出しようと何かしているようだが、マンイーターの胴体をわずかに変形させるだけでダメージは全くない。
伊達にBランクの魔物ではない。
ついでに言うと、魔法を使う気配が全くない。
火属性の魔法でも使えば簡単に脱出出来るだろうに。
「……カノンちゃん…最近容赦がなくなってきたわね……」
「昔のアイリス君を思い出すね」
「えっと……助けなくていいんでしょうか?」
少し怯えるアイリスとそれを見て笑うリーオ、一人だけ男の心配をしているリーゼが何故か浮いてしまっている。
本来はリーゼが正しいはずなのに……。
守衛の男には約5分ほど胃の中を味わってもらい、そのまま解放した。
開放された途端、べとべとのままでリーオに縋ろうとして逃げられていた。
「守衛さん?」
「ひっ……」
それでもリーオに近づこうとする守衛にカノンが声を掛けると、怯えたような声で後ずさる。
「何が私のせいなのか説明してくれますよね?じゃないと今度は消化します……あれ?」
消化と言いかけた辺りで守衛の男は脱兎のごとく逃げだした。
よくあの状態で走れるものだと感心はしてやろう……。
「ハク、追いかける?」
『そこまでしなくてもいいだろう……。既にやりすぎな気はするし……』
いきなり襲い掛かってきたのだから反撃は兎も角捕食はやりすぎだった気がする。
「やりすぎ……かな?」
そう言いつつアイリスの方に視線を向けるカノン。
「ん?いいんじゃない?最初に手出ししたのは向こうだし、別に怪我をさせたわけじゃないしね」
涼しい顔でそういうアイリスに、隣のリーオは苦笑している。
「トラウマにはなりそうだけどね……。あぁ、彼についてはこちらに任せてくれ。最初の対応は兎も角、いきなり手を出すなど到底見過ごせないのでね」
あぁ、まぁそうだよな。
最初の入場拒否自体は仕方ない。
末端の人間の一存で判断できる範疇じゃないと言われればそれまでだ。
しかし、いきなり襲い掛かってきたことに関しては間違いなく問題になるだろう。
幸か不幸かここは学園の敷地内。
学長殿にしっかりと対応してもらえば問題はないだろう。
「よろしくお願いしますね?先生?」
「任せてくれ、アイリス君の頼みだ。しっかりと対応させてもらうよ。それで、彼女たちが君の助手をすると聞いたが……」
そういいながらリーオはこちらに視線を向ける。
「二人はまだこの学園に在籍していても可笑しくない年齢だ。生徒たちが余計な事をする可能性も考えているのかね?」
「大丈夫よ。もし何かされても反撃くらい出来るから」
『いや反撃したら駄目だろ!』
思わず突っ込んでしまった。
「ダメなの?」
カノンが首を傾げる。
逆に何でいいと思うんだ?
『やるとしても威圧程度までにしておけ』
「……分かった」
一応は了承は得られたな。
「あ!今日の午後から模擬戦の授業ありますよね?そこでカノンちゃんに戦ってもらえば解決です」
突然アイリスがいいアイディアだと言わんばかりの笑顔で言った。
それを聞いたリーオも考えるそぶりを見せる。
「ふむ……、確かに同じ封印者だし、アイリス君ほど圧倒的な実力というわけではない。それに歳が近ければ向こうも勝算ありきで向かってくるだろう……」
どうやらアイリスと生徒で模擬戦をする予定らしいのだが、この模擬戦、生徒は負け前提で戦うので訓練にならないらしい。
しかし、カノンなら相手も勝つつもりで向かってくるだろうから生徒にとっても訓練になるだろう。
しかも、そこで勝てばカノンの実力を見せつけることが出来るので余計なちょっかいはないだろう。
「カノンちゃん、どう?やってみない?」
アイリスがカノンに聞いてくる。
「はい!全力でやります!」
そしてなぜかやる気のカノンに、アイリスはカノンに聞こえない声で「ほどほどにね……」と言っていた。




