魔法学校の守衛
翌日、カノン達はアイリスと共にある場所に向かっていた。
目的地はギルドから少し離れた場所で、外壁沿いにあるらしい。
何処に向かっているのかアイリスは教えてくれないが、カノンとリーゼは何となくわかっていた。
因みに、カノン達が王都に来て立ち寄ったギルドは王都のギルドの支部に当たる。
王都の門は貴族用の物を入れて五つあり、貴族用以外の4か所の近くには同じような支部があって、張り出されている依頼は支部ごとに違うものの、他の支部で受けた依頼を報告したりは出来る。
そして、王都の中心にある王城から広がる貴族街との境目辺りにギルドの本部があり、そこが王都のギルドを取りまとめているらしい。
そして、町には当然ながら区分もあり、管轄もはっきりと決まっているようだ。
そして、今回アイリスが受けているのはギルド本部の依頼である。
場所を考えるのならカノン達が立ち寄った支部なのだろうが、国が主体の組織からの依頼だからだろうか?
「さぁ、着いたわよ」
俺がそんなことを考えている間にも目的地に到着したらしい。
カノンの目の前には巨大な塀が続いており、その一角に通用口のようなものが見える。
そして敷地の奥には、巨大な建物がいくつか見える。
「ここが……」
「気が付いていたと思うけど、グレゴール魔法学園、通称グレゴール学校ね。カノンちゃんの幼馴染の子が受けようとしてた学校で、臨時講師の依頼主ね。ついでに言うと、この国でも一番大きい学校なんじゃないかしら?」
ここ、一番大きいのか……。
そもそもこの国……というかこの世界って、学校が普通に普及しているのか?
『なぁ?この国ってどれくらいの子供が学校に行くもんなんだ?』
「え?そうね~、町に住んでる子たちは学校とまでは行かないけど簡単な勉強会みたいなものには参加する子が多いわね。でも逆に村だと殆ど行かないって聞いたけど……」
そういいながらカノンに視線を向けるアイリス。
「はい、私の村でもそんなのはなかったです」
『でもアインはここを受けるんだよな?』
「それは魔力が多かったからでしょうね?一般的に、何の訓練もしていない、血統もない子供で魔力が100を超えれば凄いし、もし150なんて行っちゃえば才能の塊だもの。あの子がどれくらいだったかは知らないけどね」
「確か……160くらいだった気が……」
カノンが思い出す様に呟く。
言われてみれば、アインを鑑定したときに魔力が多いとは思ったが……。
『しかし……それくらいの魔力を持ってる奴なんて結構いないか?』
『冒険者や騎士など戦いを生業とするものはそれくらいはありますね。しかし、それは鍛錬によってたどり着いたもので、その値がスタートラインということが既に才能なのですよ』
ソルの説明に納得する。
確かに、スタートラインは有利だろうし、その場合の伸びしろも大きい可能性が高い。
「ここに通えるのは貴族と王族、そして各地で行われる子供の魔力測定で魔力が一定以上あった子だけね。それでも試験があるから平民だと落ちる子もいる。貴族だと家庭教師がついて最低限の教育をされるんだけど、平民の子供はそれがないからハードルは高いわよ?」
話を聞いて、アインには無理なんじゃないかと思い始めたんだが……。
ん?
『ロンは簡単だって言ってなかったか?』
「あぁ、カノンちゃんの場合は簡単よ、なんせ封印者で魔力制御も持ってるし、そのためのギルマスの推薦だしね」
なるほど、確かに推薦されて同じ難易度になるはずはないか……。
「あれ?アイリスさんも通ってたんですか?」
「………」
カノンがふと思い出したようにアイリスに聞く。
するとアイリスは固まってしまった。
『アイリス?』
「……さ、さぁ!中に入るわよ!」
強引に話題を逸らせたアイリスは、そのまま通用口らしき扉を開けて中に入っていく。
カノンとリーゼは顔を見合わせてそれに続いた。
「おはようございますアイリスさん!」
通用口をくぐってすぐの場所には守衛の詰所があり、アイリスの姿を見た途端中にいた守衛らしき男が飛び出してきた。
「おはよう、昨日話したと思うけど、この子たちが私の助手だから入場手続をお願いね」
守衛の男はアイリスに言われ、カノン達に視線を向けて訝し気な顔をする。
「この子達…ですか?失礼ですが、竜人の方は成人しているでしょうが……そちらの青い髪の子はここに通う年齢ですよね?」
青髪の子とはカノンの事だろう。
それを聞いたアイリスの表情が険しくなっていく。
「何?私の人選に不満でもあるの?」
「い、いえ!そんな事はございません!しかし……」
アイリスの気迫に怯えながらもまだ何か言いたそうな守衛の男とそれを睨むアイリスに、カノンが渋々と言った様子で声を掛ける。
「あの……別に私は宿で待っていても……」
「カノンちゃんは気にしなくていいわよ。私だってカノンちゃんがいた方が良いと思ったから依頼を手伝ってもらってるんだから」
何故か手伝ってという部分を強調するアイリス。
『しかし……ここまで渋られるとな……』
カノンは一見しただけでは普通の子供にしか見えないので、この男の反応は仕方ないとは思う。
「まぁそうなんだけど……私としても伝えておいたんだけどね……助手を連れてくるって……」
助手とは言ったがどんな奴を連れてくるのかは説明してなかったのだろうか?
「では……竜人の方はアイリスさんと一緒に入ってもらって構いません。しかしもう一人は……」
因みに竜人と呼ばれている張本人のリーゼは苦笑しているだけだが、その横でカノンの顔が段々と険しくなっていく。
「ハク?やってもいい?」
『何する気だ!?ていうか駄目だ!』
自分の事は全く気にした様子はないのに、リーゼに対する呼び方だけで何でそんなに怒る?
まぁ少し馬鹿にしたような言い方だし気持ちは分かるが……。
ついでに言うと、ここが学園じゃなく依頼の最中でもなければ竜圧スキル全開で威圧していただろうが……。
「あー!もう!話にならない!カノンちゃんリーゼちゃん、少し待ってて!!」
我慢の限界に達した様子のアイリスは、そのまま守衛の男を掴んだ。
「え?アイリ…ぎゃぁぁぁぁぁー…………」
そして男を掴んだままどこかへ走って行ってしまった……。
「……どうする?」
「どうしよう?」
リーゼとカノンは唖然としながら見送ったのち、困ったように顔を見合わせた。




