新しい武器
その後カノンとリーゼは王都を観光して時間を潰し、日が暮れそうな時間に再びセシルの店を訪れていた。
「あ!二人とも待ってたよ!」
店に入ってきたのがカノン達だと分かった瞬間、セシルは笑顔で迎えてくれた。
そしてカウンターの下から箱を取り出し、それを開けた。
「じゃ~ん!どうこれ?」
そういいながら見せられたのは白を基調とした色合いの魔銃だった。
白い下地に青のラインが入っている。
見た目は最初に見た試作品とほぼ変わらないが、少し柔らかい印象を受ける。
いかにも試作品と言った先ほどの銃と違い、少し丸みを帯びたシルエットに機械的な構造を極力隠した外見。
そのカラーリングも相まって中々よさそうな逸品だ。
セシルの本気がうかがえる。
というか……。
『これを数時間で作ったのか?』
こんな物普通は何日もかけて作るものだろうに……。
「いや~、なんか漲ってきたからね」
そう言ってとてもいい笑顔を見せるセシル。
やる気の問題じゃない気がするぞ?
「で、どう?」
セシルにそう聞かれたカノンが恐る恐る魔銃を手に取る。
「……あれ?前より軽いですか?」
カノンがそう言って首を傾げた。
軽い?
試作品と違って色々な機構を搭載しているのだからもっと重くなっても可笑しくなかったのだが……。
カノンの疑問にセシルは得意げな顔をする。
「頑張ってみたよ!軽い方が良いだろうしね」
『見た目も落ち着いてるな……』
前のはなんか……、武骨過ぎた。
「うん、出来る限りの軽量化って目的もあったけど、見た目も可愛い方が良いしね」
なんでかわいい方が良いんだ?
軽量化で不要な角を落としたのは理解できるが……。
カノンはさっきより軽いと言っているが、サイズは殆ど変わっていない。
むしろ、グリップは少しだけ長くなっている。
魔法陣を刻んだ影響か魔石を埋め込む影響かは知らないが……。
「……試してみてもいいですか?」
カノンがそういうと、セシルは笑顔で頷いた。
「勿論!むしろじゃんじゃんやってってよ!」
そう言って奥に向かうセシルを、カノンとリーゼは追いかけた。
「さぁ!撃ってみて!」
部屋に入るなりカノンを急かすセシル。
「は、はい……」
カノンは少し引きながらも返事をして魔銃を構える。
そして引き金を引いた。
その瞬間、俺の中から魔力が吸われた。
数字にして大体5程度、前回の5倍だ。
そうして放たれた弾は的代わりの木の棒を半ばからへし折った。
弾は相変わらず無音だが、命中した際のバキッという音ははっきりと聞こえてきた。
「これ…実用性充分じゃ……」
リーゼが呆れたようにカノンが持つ魔銃をみる。
『使ったのは俺の魔力だから実際はどうか分からんがな』
俺の魔力でこれなので、普通の冒険者が使うとなれば消費魔力は10程度にするしかないだろう。
それ単発ならいいが、連射するとなると魔力に不安が残るのでやはりマガジンを作ってもらって正解だった。
「一応カノンちゃん用に調整してみたからこんなもんでしょ。あ、カノンちゃん、グリップの上のボタン押してみて?」
「ボタン?」
カノンが握っているグリップの、引き金の下あたりにボタンが付いている。
カノンがそれを押すと、少し押されたのち飛び出した。
ボールペンみたいだな……。
「それが魔力消費か魔石消費かの切り替えスイッチ、で、銃口と反対側にダイヤルがあるよね?それが威力調整用だよ」
確かに普通は撃鉄がある部分にはダイヤルが縦に二つ付いている。
片方は4段階になっているようだ。
「威力は魔力消費1の一番弱い奴と、さっきの魔力消費10の奴、そして魔力消費50はあるけどここの壁程度なら消し飛ばせる奴、そして最後に魔力消費設定自由って感じね。もう一つのダイヤルがその時の魔力消費を決められるわ」
なるほど、そのためにダイヤルが2つ付いているのか……。
これ、使い方次第では化けるのではないだろうか?
俺の人として……いや、男としての感性がそう叫んでいる。
「で、ここからが大事なんだけど、その魔銃は入れる魔石に属性傾向があった場合はその属性の弾を撃つわよ」
『属性傾向?』
聞きなれない単語が出てきたな。
何となく意味合いは分かるのだが……。
「属性傾向って言うのは魔石が持っている属性の事ね。ほとんどの魔石の属性は無視できる程度の物なんだけど、たまに属性が顕著に表れている魔石があるのよ。まぁ使い道なんて魔剣を作ったりするときに属性付与する程度しかないからあまり知られていないんだけどね」
その後の説明によると、どんな魔物の魔石がどの属性を持っているかは大体決まっており、ゴブリンなどの魔石には属性はないそうだ。
正確にはあることはあるのだが、外部に影響を及ぼすほどの効果はないらしい。
まぁ、属性が現れるような魔石は大きいのでこんな魔銃には使えないだろうが……。
「そんな魔石使ってるものがあるんですか?」
「勿論あるわよ。でもごめんね。これ国家機密に当たる物もあるから言えないの」
セシルが残念そうに言う。
国家機密ということは魔石を使った大規模な魔道具か……もしくは武器か……。
流石に国家機密を暴きたいとは思わないが、機会があったら見てみたいものだ……。
『しかし……ダイヤルで威力調整とかどういう仕組みになってんだ?』
何となくセシルに聞いてみた。
職人の業だろうから教えてはもらえないだろうが、ただの好奇心だ。
仕方ない。
「あぁ、それ?その辺の魔道具のスイッチと同じ仕組みだよ?魔法陣の一部を可動部に書いて、魔法陣が完成したときだけ作動するって言う。まぁそれ以外は教えられないけどね」
苦笑しながらセシルが教えてくれた。
なるほど、魔力を流す回路をあらかじめ一部だけ切断しておいて普段は起動せず、回路が完成したときだけ動く。
本当に元の世界の電子機器みたいな仕組みだな……。
もしチャンスがあれば、少し学んでみたいものだ。
……もしかしたらカノンは嫌がるかも知れないが……。
そうなったら諦めよう……。




