カノンの思い
side カノン
リーゼさんから呆れたような声が聞こえたが、そんな呆れるようなことだろうか?
『で、どうしたの?何か悩んでる感じ?』
『えっと……悩んでるっていうか……』
どう説明したらいいんだろう?
ハクとソルさんが話していてその内容が気になったって正直に言っていいのかな?
『えっと……ハクの事考えてました』
よし、これなら嘘はついてない。
私は確かにハクの事を考えていたのだから。
『ハクさんの事?』
リーゼさんは私たちをさん付けで呼ぶ。
ハクはどうか分からないけど、私は呼び捨てで呼んでもらった方が気が楽なんだけどな……。
『はい、ハクが何考えてるのかなって……』
『それは私にも分からないけど……少なくともカノンさんが不利になることは考えてないと思うよ?』
リーゼさんがそう言ってくれたが、それは私も分かってる。
これってハクを信頼してるってことでいいのかな?
『はい、それは分かってるんですけど……』
でも、さっきから心の中でもやもやしたものがある。
……ってあれ?
そんな事考えるために念話使いたいって思ったんだっけ?
違うよ!
リーゼさんが何でこっち見てたか気になったからだよ!
『あの、リーゼさんは何でこっち見てたんですか?』
ってなんでこんな直球的な聞き方してるの私!?
リーゼさん苦笑いしてるよ!
『あぁ…カノンちゃんなんか寝ようとして寝れないみたいだったから気になって』
あ……私のせいだったんだ……。
『ごめんなさい』
『いやいや、私が勝手に気になっただけだから』
そう言ってほほ笑んでくれた。
『はい……』
『あ。せっかくだし聞いてみたいことあったんだよ』
少ししょんぼりしてるとリーゼさんが思い出したように言ってきた。
『はい?なんでしょう?』
なんだろう?
『カノンさんにとってハクさんってどういう人……ってのも可笑しいか…竜なの?』
リーゼさんは言いなおしてくれたが、もう人でもいい気がしてきた。
『どんな……ですか?私の命の恩人です』
質問の意図に合っているのかは分からないが、即答できる答えを持っていた。
『恩人?』
『はい、死にそうな私を助けてくれました。その時に封印されちゃってこんな感じですけど』
あの時、私の体はサーベルボアに貫かれていた。
ハクがいなかったら間違いなく死んでしまっていただろう。
私がそんなことを考えていると、リーゼさんは首を傾げた。
『あれ?でも二人は助け合ったって聞いたよ?』
前に話したことを覚えていてくれたらしい。
『私は……どうなんでしょう?』
ハクは確かに助け合ったって言ってくれてるし、最近まで私もそうだと思っていた。
でも、よくよく考えてみるとハクが危なくなったのは私を助けようとしたからだし、その時にハクをかばったのは元を正せば私がまいた種のような……。
……私、助けたつもりだったのかも知れない。
実際はハクに助けてもらってばっかりだし……。
魔力だって少ないし、戦いもハクのサポートで何とかやってきたものも多かった。
第一、ハクの魔力が無いとまともに戦えないんだし……。
『カノンさん?』
自己嫌悪に陥っていると、リーゼさんが声を掛けてくれた。
『カノンさんは自分が思ってるよりもハクさんを助けてると思うよ?』
『そう……でしょうか?』
前なら頷けただろうが、今はハクを助けているって言いきれない。
『もちろん。そんなに気になるなら本人に聞いてみたらいいと思うよ?』
……確かにそうなんだけど……。
うん。
ここで悩んでてもしょうがないし後で聞いてみよ……。
『そうそうその顔だよ』
顔に出ていたらしくリーゼさんにそう言われてしまった。
『はい、後で聞いてみます』
『でもそんな心配してたんだね。私の竜感知ってハクさんにも有効だけど、カノンさんの事を気にかけてるのはよく分かってたし、カノンさんを信頼してるのも伝わってきたから大丈夫だよ』
あ……。
リーゼさんには何となくで分かってたんだ……。
『はい。ありがとうございます』
『お礼を言われるようなことしてないよ。むしろこっちがありがとうだよ』
ん?
リーゼさんにお礼を言われるようなことってあったっけ?
『その顔は心当たりないって顔だね?』
リーゼさんにジト目で言われた。
だって本当に思いつかないんだもん……。
『まぁそれは後でいいや……。で、カノンさんは結局ハクさんにそれを確認してどうしたいの?ハクさんの役に立ちたい?』
どうしたい…って聞かれると答えに困ってしまう。
『私は……ハクがいいのならこのままハクと一緒に居たいです』
勿論ハクの役に立ちたい。
でも、それ以上にハクと離れ離れになることを考えられないから……。
私の答えを聞いたリーゼさんは満足そうに微笑んでくれていた。
『うん、それでいいと思うよ』
『はい』
『で、さっきの話だけど……』
しかしそこでリーゼさんは少しすねたような顔になった。
あ、お礼を言われる心当たりだよね?
『私はカノンさんに奴隷から解放してもらったんだよ?それに一緒にパーティも組んでもらったし』
あ、そのことだったんだ。
『それは……私がやりたいと思ったから……』
『でもそれで私は救われた。改めて、ありがとう』
リーゼさんにお礼を言われ、なんだか照れ臭くなった。
『私は……はい』
もうそれしか返す言葉が思いつかない。
『あ、せっかくだし聞きたいんだけど……カノンさんって私に敬語使ってるよね?何で?』
え?
それを聞いてくるの?
今更過ぎない?
『え?今更ですか?』
『あはは…なんだか聞くタイミングがなくって……』
確かに惰性でここまで来たんだけど……。
リーゼさんは大人だからって言ったら怒るかな?
いや、それならこっちも同じような事は思っていたし聞いてみよう。
質問に質問で返そう。
『それを言うなら、何でリーゼさんは私達をさん付けするんですか?』
『え?恩人だからだけど?』
きょとんとした顔でそう言われた。
って言うかあっさりと答えてくれた。
これは……私も本心で答えるしかないよね?
『リーゼさんが年上だからです。そのまま流れでここまで来ました……』
『あ~、そういう事ね』
それを聞いてリーゼさんは納得してくれたようだ。
『せっかくの機会だし、カノンさんもため口でよくない?』
え?
今から口調変えるの?
『……リーゼさんがさん付けをやめてくれたら考えます』
こうなったら交換条件でなんとか……。
『え?………えっと……か、カノン?』
少し言いにくそうしながらも呼び捨てで名前を呼んでくれた。
あれ?
いや、距離が縮まったみたいで嬉しいんだけど……。
これは私も頑張らないといけない奴だよね!?
ほら!リーゼさんもワクワクしながらこっち見てるし……。
『えっと…これでいいかな?……リーゼ…さん』
『さん付けはそのままなの!?』
少しショックを受けた様子のリーゼさんだったが、今はこれで許してください。
出来るだけ早く慣れるようにしますから……。




