ようこそ!冒険者ギルドへ!
模擬戦が終わると、ロイドは医務室に運ばれていった。
そしてカノンはそのままギルドの受付に戻ってきていた。
「えっと……これは何かの冗談ですか?」
受付嬢がカノンの後ろにいるグランに聞く。もちろん模擬戦の結果の事だろう。受付嬢は模擬戦の結果の書いている紙を見ながら頭を抱えていた。
「いや、俺も信じられないがそれが事実だ」
グレンは苦笑しながら答える。
「なんでCランクを倒せるんですか?確かにエルフとかにはたまにいますけどカノンさんは人間ですよね?」
やっぱりこの試験は負けること前提の物だったんだろうな。格上相手にどう戦うかとか、格上と戦うことで今の実力を測る目的があったんだろう。正直俺も、カノンが俺の援護なしで勝つとは思っていなかった。
「えっと…結果はどうなりますか?」
カノンが聞くと受付嬢はため息を吐いた。
「もちろん合格ですよ。その歳でロイドさんに勝つような人を落としたりしたら、私がギルドマスターに殺されますから」
そう言って受付嬢は何かの書類を後ろに人に渡した。
「改めて、カノンさん、合格おめでとうございます。ギルドカードの発行には少し時間がかかりますのでしばらくお待ちください」
受付嬢はそういうと後ろに戻っていった。
「カノンちゃーん!」
すると突然カノンの後ろの方から声が聞こえてきた。この声はイリスの物だ。イリスは両手で何かを抱えながらカノンに近づいてきた。
「カノンちゃん凄いじゃない!ロイドさんを倒したって聞いたわよ!」
やたら興奮気味にカノンにまくし立ててくるイリス。
「イリスの試験の時もロイドさんだったんだ。で、ぼこぼこにやられたからあの人の強さを身をもって知ってるってわけだ。ついでに恨みも少々な……」
グランがカノンの耳元でささやく。
なるほど、だからこんなににこやかなのか。
「た、偶々ですよ。作戦がうまくいっただけです」
カノンは少し照れながら答える。
「それでも凄いわよ!だってCランク相手に勝つなんてなかなかできないわ!」
そう言ってイリスが手に持ってきたものをカノンに差し出した。
「?」
カノンは困惑して首を傾げる。
「合格祝いみたいな物よ。流石にその服じゃ嫌だろうしね」
イリスに言われてカノンの今着ている服の事を思い出した。そういえばあの猪に貫かれたせいでお腹の部分が破れていて、その周りが血だらけになっていたはずだ。よく今まで誰もこのことに触れてこなかったな。
「えっと…いいんですか?」
「勿論よ。それにこれは私からだけじゃないからね」
イリスがそう言って後ろを見ると、その場にいた冒険者の殆どがカノンたちの周りに集まってきた。
「俺たちみんなで少しずつ金を出したんだ。気にするな」
「そうそう。いざとなったらギルマスに払ってもらえばいいしな」
「お前…それギルマスに聞かれたらしばかれるぞ…」
「あ、ありがとうございます」
カノンはそう言って深々とお辞儀をした。
「じゃあさっそく着替えに行きましょ!」
イリスはカノンの腕をつかむと強引に引っ張っていった。
残された冒険者たちは、それを見て笑うもの、呆れるもの、ついていこうとして女性冒険者に吹っ飛ばされるもの様々であった。とりあえず最後に吹っ飛ばされた奴の顔は覚えた。変にカノンに近づいてきたら俺が直々に吹っ飛ばす。
カノンが着替えたのは前衛の女性ハンター用の服らしい。この上から革製の防具を付けても動きにくくならないような工夫がされているらしく、殆どの前衛職の女性ハンターの愛用品らしい。
しかしいつサイズを測っていた?そんなことはされていなかったはずだが……
そしてカノンがギルドのホールに戻ると、みんなが出迎えてくれた。
「お嬢ちゃん。よく似合ってるぞ!」
「これでお嬢ちゃんも冒険者の仲間入りだな!」
「歓迎するぜ!」
皆に歓迎されて、カノンは少し困惑しながらもうれしそうだ。
「あ、カノンさん!ギルドカードが出来ましたよ~!」
受付の方から受付嬢が呼んでいる。
「あ、はい!」
カノンはその場の冒険者たちに軽く会釈をすると、受付に向かう。
「ではこれがカノンさんのギルドカードとなります。このカードは身分証になりますのでなくさないようにお願いします。もしなくされると再発行に5000ゴールド掛かりますし、ランクが上がりにくくなるペナルティもあるので注意してください」
そう言って受付嬢が渡してくれたのはよくわからない素材のカードだった。金属でもないし紙でもない。この世界にプラスチックがあるとは思えないので何の素材なのかが全く分からない。とにかくこれでカノンも冒険者の仲間入りという訳だ。
「ありがとうございます」
カノンがそう言っギルドカードを受け取りそれを見ると、そこにはFランクと書かれていた。そのほかにはクラスなどの項目があるが、これはFランクでは関係ないらしい。
受付嬢の説明によると、クラスとは本人の戦闘スタイルを現したものであるらしい。例えば、グランの様に剣を使うなら剣士、ロイドの様に戦斧を使うなら重戦士といった具合だ。そのほかにも魔法を使う、魔導士や、剣と魔法の両方を使いこなす魔剣士などもあるらしい。また、魔法は使うものの回復などをメインとする治癒術士などの職業もあり、それには該当しない特殊なクラスも存在するらしい。
因みにこのクラスとは、本人のスタイルを参考に勝手に決められるらしく、例えば魔法を使えないのに魔剣士は名乗れないようになっているようだ。
ただし本人のスタイルが変化すれば勝手に書き換わるようになっており、クラスはパーティを組んだり依頼をするのに参考にされているようだ。Fランクはなぜ関係ないのかというと、まだFランクでは戦闘スタイルが定まっていないものも多いらしく、昔表示をしていた時は依頼が終わるたびにクラスが変化するといったことがあったので、Eランクに上がるまではクラスは表示されないようになったらしい。
そして魔力の測定やスキルの確認もその時に行うらしい。これはギルドが魔弱や魔盲を一切差別しないという意味も持っているらしい。
そんな説明を受けていると、外が暗くなってきたことに気が付いた。
そういえばカノンと出会ったのが昼前で、そこから歩いてゴブリンと戦って、ギルドで模擬戦。考えてみるとかなりのハードスケジュールだったんだな。
そんなわけで説明が終わり、ホールの方へ戻っていくと、なぜか先ほどいた冒険者のほぼ全員がカノンの方を見ていた。どうやらずっと待っていたらしい。
「お嬢ちゃん。無事に登録できたみたいだな」
近くにいた冒険者がカノンに言う。
「はい。何とかなりました」
カノンがそういうと、グランとロイドが近づいてきた。
「お嬢ちゃん。さっきはすごかったな。久しぶりに負けたぜ」
ロイドが笑いながらカノンの方を叩く。
「そういやお嬢ちゃんはロイドに勝ったんだってな。いつかお嬢ちゃんの実力を見てみたいもんだぜ」
「この歳でロイドに勝つなんて将来有望だよな」
少し離れたところにいた冒険者がいうと、ほぼ全員が頷いた。
「それはそうとカノンちゃんがロイドさんに勝って冒険者になった記念だ!飲もうぜ!」
「「「「「「おぉぉぉぉぉ!」」」」」」
誰かがそういうと、大きな歓声が上がった。
「ほらほら嬢ちゃん。嬢ちゃんもこっち来て食べなよ」
一人の冒険者がカノンを案内してくれようとしている。
「あの、すいません。今お金がなくて……」
「気にすんなって。ここはロイドさんのおごりだからな」
カノンが申し訳なさそうに言うと、そんな返事が返ってきた。
「おい!お前ら全員分は絶対出さないぞ!まぁ…カノンちゃんの分くらいは俺がおごろう。さっきの戦いは俺も楽しかったしな」
ロイドがそういうと、一部から「え~」とか「そんな~」とかの声が上がったが、ロイドの一睨みでおとなしくなった。
楽しそうな人たちだが、冒険者が一人入るたびにそんなことやってるのか?
「大丈夫よ。この人たちは飲む理由を必死で探してるだけだから」
カノンも俺と同じ事を思っていたようで、それが顔に出ていたらしい。近くに来たイリスが補足してくれた。なるほど、もし世帯持ち 妻帯者がいるならこんなことでも無いと後で色々言われるのかもしれない。いや、どっちにしても言われる未来は変わらない気がするが……。
そんな訳でカノンも席に座らされ、たくさんの料理を詰め込まれていた。しかしカノンは楽しそうだからいいか。
「ねぇ、ハク」
『ん?どうした?』
「ありがとう」
『おう』
そう返したものの、なんだか照れ臭くなってしまった。実は俺も楽しい。これからもたまにはこういうのもいいかもしれないな。




