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うっかり教師

王都の門の検問は大きく三つに分かれていた。


一つは王都に住んでいる人たち。


この場合は身分証を門番に見せて素通り出来るので列になることはない。


そして商人。


馬車満載の荷物を積んでいることも多く、その場合は別の列に誘導されるので道の脇には馬車が並んでいる。


数はそこまで多くはないが、それでも積み荷が多いので一人一人の検問に時間がかかり、列の進みは一番遅い。


そして最後はカノン達の並んでいるよそから来た旅人や冒険者の列だ。


こちらは身分証を持っていればそれを見せて簡単な質問に答えるだけなのでさほど時間がかかるわけではないのだが、人数が多いのでそれなりに時間がかかる。


カノン達はその列に並んで前後の人たちと話をしたりしながらのんびり待っていた。


「へぇ、嬢ちゃんたちDランクなのか。その年で中々頑張ってるな」


そういったのはカノンの前に並んでいた冒険者の男性で、暇つぶしにとカノン達に話しかけてきたのだった。


そしてカノン達が自分のランクを明かすと少し驚いたようにそういった。


「ありがとうございます。でも私は運がよかっただけです」


男性の言葉にそう言って苦笑するカノン。


「いやいや、きっかけは運がよかったのかも知れないがそれでも実力がないとランクは上がらないからな。俺の知り合いに10年くらいEランクだった奴がいるが、そいつは実力がなくて万年Eランクだったんだからな」


なるほど、そういう事もあるんだな。


確かにカノンの場合は運よくサクサクランクが上がったが、それでも前提条件として最低限の戦闘能力があると認められてはいたわけだしな。


「あはは……ありがとうございます」


どう返事をしたらいいのか分からないときにとりあえず笑うのはカノンの癖なのだろうか?


「その話で思い出したんだが、嬢ちゃんたちは中に入ったらギルドに行くだろ?その馬鹿に絡まれたら死なない程度に叩き潰していいからな」


「は、はい」


カノンが困ったように返事をするが、絡んでくるような馬鹿なのだろうか?


というか、ギルドの中でもめ事を起こせば自分が不利になるだけだというのに……。


「あぁ、心配はいらないぞ。今はDランクになっちゃいるが、実力はギリギリDランクってレベルだ。Dランク二人に勝てるような奴じゃないし、もし負けそうならその辺の冒険者が止めてくれるからな」


カノンの返事を自信がないと受け取ったのか、補足してくれた。


しかし、カノン達が本気で叩き潰しにかかったらカノン達が止められるのではないだろうか?


というか、絡み方次第では俺が一生モノのトラウマを植え付けてやろう。


「でも王都ってすごいですね」


話題を変えようとしたのかカノンが門の方まで続く行列を見ながら呟く。


「あ~、初めて見るとそういう感想になるよな。しかもこの門以外の3か所でも同じ状態が続くし、日が暮れても検問が終わらない場合もあるしな」


それは嫌だな。


検問待ちの列に並んだまま夜を明かしたくはない。


今は夕方になりつつある時間帯ではあるが、このペースなら日が暮れる前には入ることが出来るだろう。


確か一つだけが貴族用で、残りがその他って感じだったか?


列ができてないのは貴族用の門で、残りの門はどこも同じ状態なのだろう。


「でも……王都に住んでない冒険者は依頼で町の外に出ても毎回並ぶんですか?」


周りにいる冒険者らしき人たちを見たカノンが首を傾げた。


「あぁ、それは大丈夫だ。ギルドで王都の滞在許可書をくれるからそれを見せればそっちに並べる」


そう言って男性が指さすのは殆ど列にならない王都の住人用の列だ。


列と言っても多くても10人ほどしか並ばないし、その10人も許可書を見せながら素通りしていく。


何となく、駅の改札を定期を見せながら通っていく人たちの姿とダブって見える。


「……お?今から面白いものが見れるぞ」


男性が後ろの方を見て何かを見つけたようで、カノン達に門の方を見るように促す。


カノン達が首を傾げながら門の方を見ると、それは始まった。







門は一般的にイメージされるような巨大な門と、馬車がギリギリ通れるくらいの門、そして人が通るだけの小さな門の計三つが設置されている。


そして一番大きな門には通用口のような小さな扉が付いており、普段は一番大きな門以外の三つの出入り口を使って検問を行っている。


今一番大きな門に付いている扉を通過しているのはカノン達の並んでいる列なのだが、それが途中で止められた。


そして、ギギギィという大きな音と共に門がゆっくりと開いた。


「あ、これって開くんだ」


カノンはこの門を何だと思ってたんだ?


『普段は開けないみたいだし何かあるのか?』


確か俺たちの後ろを見て開くって分かったみたいだったな。


後ろを確認してみると、カノンと同じくらいの子供たちの集団がこちらに向かってきていた。


『あれか』


「え?」


俺の声にカノンが振り返る。


「あ~、さっきの子たちかな?」


リーゼが呟く。


その可能性が高いんだろうな。


「あれはグレゴール学校の連中さ。この時期になると町の外で魔物を倒す実習をするんだよ。で、人数が多いからあれが開くってわけだ」


男性が説明してくれた。


そんな話をしている間に、生徒たちはカノン達の横を通り過ぎていく。


「……あれ?……あ!さっきの!!」


その中の一人がカノンを見て立ち止まった。


「え?……あ!」


自分に向いた視線に驚いたカノンだったが、よく見るとそれはさっきカノン達と遭遇した少女だった。


「あ!無事に合流できたんだね」


リーゼがそう声を掛けると少女は気まずそうな顔をした。


「はい。なんとか……そのあと思いっきり叱られましたけど……」


落ち込んだ様子の少女にカノン達は苦笑する。


「あ!さっきはありがとうございました」


そういいながら近づいてきたのは同じくカノン達と遭遇した少年と、20代後半ほどに見える女性だ。


こっちの女性は教師だろうか?


「初めまして、この子たちを助けていただいたそうで」


女性はそう言ってカノン達に頭を下げる。


「え?えっと……たまたまです」


「それでもありがとうございました。本来ならば私が見ていないといけなかったのですが……私の落ち度で無関係なお二人に迷惑をかけてしまいました。申し訳ありません」


そう言って深々と頭を下げる姿を見ると、この教師?は生徒思いなのがよく分かる。


「もしグレゴール魔法学園にお越しの際はぜひ声を掛けてください」


そう言い残して教師らしき女性は行ってしまった。


「え?名前…聞いたっけ?」


「声…掛けれないよね」


カノン達はそのままどうしたものかと首を傾げるのだった。


意外とうっかりしたところのある教師のようだ。


まぁ、だからあの二人から目を離すことになったんだろうが……。



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