ギルドの試験 ~カノンの覚悟~
~~~の後ろは第三者視点になっています。
グランに案内された第二演習場は、ギルドの裏にある広場だった。周りは壁で覆われており、壁には魔法陣が彫られている。あの魔法陣には壁を強化する目的があるのかもしれない。
広場の入り口には皮装備を来た巨漢の冒険者が立っていた。というかでかい。身長2メートルはありそうだし、全身を覆う筋肉は威圧感が半端ない。
「よく来たな。俺はロイドだ。君の試験をさせてもらう」
「はい。お願いします」
カノンは少し緊張しながらお辞儀をした。
「うむ。まずは試験の説明をさせてもらおう。試験内容は模擬戦だ。武器はあれを使え」
ロイドの目線の先には壁際に色々な種類の武器が置かれている場所があった。
「基本的にどの武器をいくつ使おうが自由だ。ただしあそこの武器以外は禁止だ。魔法やスキルなら問題ないがな。そして試験の内容は、俺と戦う!以上だ!」
一番大事な試験の内容が速攻で終わってしまった。それでいいのか試験官!
しかしカノンは気にしていないようで、壁際に行くと武器を選び始めた。
「ねえ、ハク」
カノンが真剣な口調でいう。
『ん?どうした?』
「この試験は魔力とスキルだけ貸して。触手はいらない」
ゴブリンの時は、俺が触手でサポートをしていたが今回はなしで行きたいという事か。確かにこの能力を人に見せてもいいものか疑問があるのも事実だ。しかし問題は相手である。
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種族・人間 名称・ロイド
性別・男 職業・重戦士・Cランク冒険者 年齢・44歳
HP・1021 MP・106
スキル
戦斧術Lv5・身体強化Lv6・物理耐性Lv2・威圧Lv3・高速治癒Lv1・魔法耐性Lv1・気配察知Lv1
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鑑定結果はこの通りだ。どう見ても格上の相手になるし、武器が戦斧という事は一撃でも喰らったらもう無理だろう。察知系や耐性系のスキルが申し訳程度なのが気になるが、腕力でごり押ししていくタイプなのかもしれない。
とはいえカノンよりは遅そうなので、回避に専念して隙を見て攻撃をすることが出来れば勝機はあるか?
『分かった。けどどうしてもだめだと思ったら言えよ?目立たないようには援護できるからな?』
「うん。ありがとう」
カノンはそう言って一振りの剣を選んだ。バスタードソードと呼ばれる片手半剣だった。本来は片手でも両手でも使える両用剣だが、カノンの体格では完全に両手剣となっている。正直言えば意外だったが、カノンがやる気になっているのなら俺は見守るだけだ。
『カノン。俺の魔力の残量はあまり気にしなくていい。全力でぶつかっていけ!』
「うん。任せて!」
カノンはバスタードソードを片手で握りしめ、広場の中央に向かった。
「準備は終わったか?」
広場の中央にはロイドが待っていた。
「はい。お願いします」
カノンはそういうと剣を構えた。それを見てロイドも戦斧を構える。
「お互いの武器は刃をつぶしてあるが、大けがの可能性もある。死んでも恨まないでくれよ。では、始め!」
「はい!」
ロイドの言葉にカノンは返事をすると、ロイドに向かって駆け出した。そのスピードはゴブリンとの闘いよりも速い。
「!?」
ギンッ
ロイドはカノンの速度に驚いていたが、何とか戦斧の柄でガードした。カノンはガードされることが分かっていたのか、そのまま剣を引くとすぐに次の攻撃に移る。
ギンッギンッギンッギンッギンッギンッ!
広場に金属同士のぶつかり合う音が響く。カノンの中からそれを聞いていて、俺は疑問を抱いた。
(カノンってこんなに速かったか?それに力も増していないか?)
自分の魔力を確認するとほんのわずかではあるが減っているので身体強化は使っているものだと思われる。しかしそれでも強すぎる気がする。
もしかするとカノンは魔力の少なさがハンデになって能力を十分に発揮できていなかったのかもしれない。俺が封印されたことでそのハンデが無くなったのだとすれば、これだけの能力があるのもうなずける。
「ちっ!くそ!」
ガン!
「っ!」
ロイドがカノンの猛攻に我慢できなくなったのか、戦斧を無理やり振り回してカノンを吹き飛ばした。カノンは剣で受けたためダメージはないが、体重が軽いせいで宙に投げ出される。
「ハク!ごめんね!」
カノンがいきなり俺に謝ってきた。何がごめんなのかと思っていたら、カノンは空中で無理矢理体制を立て直すと、左手をロイドに向けた。
「ファイヤーボール!ウィンドボム!」
カノンが魔法を唱えた瞬間、俺の中の魔力が多めに消費されたのが分かった。詠唱短縮は文字通り、詠唱を短縮できるのだが、その短縮度合いで消費魔力が変動する。今回は完全に短縮、というよりも魔法名以外省略したので普通に魔法を使うよりも10倍程多く消費されてしまった。さっきカノンが謝ったのはこれの事か。
「詠唱省略だと!?」
ロイドは驚愕のせいか、一瞬足が止まった。そしてファイヤーボールとウィンドボムはロイドの少し前に着弾した。着弾と同時に破裂して、ファイヤーボールを巻き込み火の粉と土煙がロイドを襲う。
「今!」
カノンは呟くとそのまま土煙の中に飛び込んだ。
普通に考えればロイドの居場所など分からないのだが、カノンは気配察知で居場所を探り当てているようだ。しかしロイドにも気配察知があるので、向こうにもこちらの居場所はばれていると思われる。
「そこかぁ!」
案の定ロイドはカノンの居場所を見つけ、戦斧を横なぎに振ってくる。これははっきりしない気配でも確実に攻撃を当てるためだろう。その辺の判断は流石Cランク冒険者というべきだろうか。
しかしカノンはそれを屈んで躱し、そのままロイドの横腹に剣を叩きつけた。
「ぐぅ」
なにやら情けない声と共にロイドが土煙の向こうに吹き飛ばされていく。しかしまだロイドの気配は健在だ。今の攻撃しっかりと手ごたえあった気がしたのだが、さすがに丈夫だ。
「ウィンドボム!」
カノンは再び魔法名のみでウィンドボムを放った。しかし今回は自分の後ろに出していた。
『…まさか!カノン!?』
俺はカノンがやろうとしていることが何となく分かったが、その無茶苦茶さに思わず声が漏れた
。
バァン!
「ぐっ!」
カノンの後ろから諸に衝撃が襲う。しかしカノンはそれを歯をくいしばって耐え、その衝撃に乗ってロイドに突っ込んでいった。
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ロイドは吹き飛ばされるとすぐに態勢を立て直して、カノンを迎え撃つ体勢を整えていた。しかしその時、いきなり爆炎が飛び散り、ロイドがその中から自分に向かって突っ込んでくるカノンを見つけたのはカウンターが間に合うぎりぎりの時だった。
「くそそぉぉぉ!」
ロイドは戦斧をカノンの頭上めがけて振り下ろす。それはもし当たれば大けがは間違いなしの一撃だ。
それを見たグレンに焦りの表情が浮かぶ。彼の脳裏には、戦斧に押しつぶされるカノンの姿があることだろう。
「っ!」
しかしカノンは体を捻る事でそれを紙一重で回避した。
「な!?…ぐばっ!」
そのまま剣はロイドの胸あたりをとらえ、ロイドは壁めがけて吹き飛ばされた。
ロイドの眼が最後にとらえていたのは、自分を吹き飛ばす少女の眼が、瞳孔が縦に開いてまるで竜の眼のようになっていたことだった。




