暴走するAランク
「アイリスさん何処に行ったのかな?」
困った顔でそういうカノンは現在竜装で空を飛んでいる。
因みにリーゼは蔓で掴んでいる。
何でこうなったのかというと、一応は走る速度を加減してくれたアイリスだったのだが、それでもリーゼが遅れ始めた。
そしてカノンがリーゼにペースを合わせている間にそれに気が付かなかったアイリスはどんどん先に進んでしまったのだ。
というわけで、アイリスを見失ってしまったカノン達は最終手段を使うことにしたのだ。
まぁ、竜装で空を飛んで追いかけるだけなのだが……。
「ごめん、私のせいで……」
申し訳なさそうにリーゼが謝るが、リーゼは悪くないだろう。
『そもそもあんなスピードで走り続けるってのが無茶だろ……』
「私も魔装なしじゃ無理かな……」
カノンの魔装の使い方も可笑しいとは思わないでもないが……。
魔装って本来なら魔力の装甲を生み出す能力のはずなんだが、カノンの場合はその魔力を切り取って利用してしまうからな……。
凄いのはその発想なのか、それを可能にしてしまう魔力制御の才能なのか……。
っと、話がズレたがアイリスは何処にいるだろうか?
森を突っ切る道は木々の少ない場所を切り開いたようで多少曲がりくねっている。
なので空を直進しているカノンの方が進む距離は短いのでそう簡単に離されたりはしないとは思うのだが……。
一応気配察知と目視で探してはいるのだが、アイリスの姿は全く見えない。
『気配察知の範囲にはいないな……』
「じゃあもっと先?」
俺の言葉にカノンが首を傾げる。
「もしかして引き返してたり……」
リーゼがそんなことを言うが、その場合はアイリスも飛んでいるカノンに気が付くだろう。
「……あれ?何だろう?」
不意にカノンが前方を指さす。
遠くの方で真っ白な炎が立ち上っているのが見えた。
『あれは……聖炎か?』
「多分……」
俺とリーゼの口から思わず声が漏れる。
どう見てもアイリスの聖炎だった。
ということはアイリスはあの辺りにいるということで……。
『どれだけ先行してんだよ……』
聖炎が立ち上った場所はここからそれなりに距離があるはずだ。
最初で離されたとは言っても、空を飛んで追いかけているカノンからここまで距離を取るということは多分遠慮なしに飛ばしてたな。
「でも……何で魔法使ったんだろう?」
そう言われてみれば……。
あんな派手な魔法を態々使ったということは……。
『俺たちへの合図か?もしくは魔物を消し飛ばしたか?』
比喩ではなく文字通り消し飛ばせそうな威力はありそうだしな。
俺もあれは防ぐ自信はない。
「派手だけど……アイリスさんならあれで魔物倒しそうだよね……」
以前にもチンピラに襲われて返り討ちにする際、聖炎を使ってソルに怒られてたしな……。
『まぁ、場所が分かったんだし行ってみるか?』
「そうだね……あ、オークかな?」
聖炎の近くでオークらしき影が吹き飛んでいくのが見えた。
というかよく見ると、聖炎の周辺にはゴブリンやオーク、そしてはっきりとは目視できない物体が飛び交っている。
聖炎ってあんなことも出来るんだな。
しかし、周りの木々まで巻き上げているのはどうなのだろうか?
ゴブリンやオークの群など、アイリスにかかればダースで来ても片手間で処理できるだろうに……。
もしかすると面倒になって周りの全てを巻き込んで吹き飛ばしたのだろうか?
そうだとするとソルが黙っていないだろう。
あぁ、これはまたソルのお説教が待っているんだろうな……。
聖炎が立ち上っていた場所までは、カノンが全力で飛んでも5分ほどかかった。
そして聖炎によって木々が吹き飛ばされた跡地では、アイリスが1人で正座していた。
それを空から呆れたように見ているカノンは、様子見をするつもりなのか関わるのが面倒なのか降りる気配はない。
「ハク、どうなってるんだろう?」
『どうって……ソルの説教が続いてるんじゃないのか?』
「見た目は叱られている最中だね」
リーゼの言う通り、相手こそ見えないがお叱りを受けている最中にしか見えない。
まぁ、予想通りと言えば予想通りなのだが……。
「どうする?」
カノンにそう言われたが、どうするべきだろうか?
『正直、このまま放っておいて先に進みたい』
不可能だとは分かっていても、そう思わずにはいられない。
別にアイリスの心配はしていない。
今はこんなだがこの中でも最強だし、経験も豊富だ。
それに、放っておいた所でその内追い付かれるのが関の山だろう。
進めないのには別の理由がある。
「進むのはいいんだけど魔力は大丈夫なの?」
『大丈夫……と言いたいんだが……』
飛行スキルを使うための魔力自体は大丈夫と言えるラインは確保できているのだが、この状態で魔物の群と戦闘するとなると心もとないレベルだ。
普段の滑空ではなく、アイリスを追いかけての全速力での飛行だったので、かなりの魔力を消費してしまっている。
ゴブリンやオークの群に負けるような状態ではないが、不測の事態に備えてある程度、具体的には物理無効の発動やブレスを撃てるだけの魔力は残しておきたい。
なのでこのままここに着地して、ソルのお説教が終わるのを待つしか方法はないのだ。
「リーゼさん、一旦ここに降ります」
俺の言葉を最後まで聞かずともカノンには通じたようで、リーゼに一言断りを入れてからゆっくりと高度を下げて行った。




