王都に行こう
ロンの話を断って、カノン達は宿に戻ってきていた。
この後の話し合いもしたいということで今日は仕事は休みだ。
『で、二人はどうしたい?』
テーブルには数枚の書類が置かれており、それを挟んで二人が向かい合う形で話し合いが始まった。
「私はあまり興味はないかな?」
最初にそう答えたのはリーゼだ。
リーゼも特殊クラスなので当然話は合った。
「私も…今は冒険者だし……」
カノンは少し歯切れが悪い。
『興味があるなら受けてみるのもいいとは思うぞ?』
正直言って、試験自体はどうにでも出来る自信がある。
勉強をしていないとはいえ、書類に書かれている内容からすると難しくはなさそうだ。
簡単な筆記試験と実技試験。
詳しくは書かれていないが、筆記試験は読み書きできないものを判別するためのようだし、実技試験も授業を受けるための最低限の能力があるかを試されるだけのようだ。
この世界は、元の世界のように全員が読み書き出来て当たり前というわけではない。
しかし、平民の半分ほどは読み書きができるし、貴族ともなればほぼ全員が出来るのだろうが、平民の中でも農村で暮らすものは殆どが文字が読めないことも普通にある。
因みにカノンは、基本的な最低限の読み書きは問題なくできるし、俺もなぜかこちらの世界の文字を読める。
書けるかどうかは試したことがないので分からないが……。
何故カノンが村で生まれ育ったのに読み書きができるのかについては、本人曰く、生きていくためだそうだ。
幼いころから自分には魔力が無いと自覚していたのだから、人よりも出来ることは増やしておくといった考えで覚えたそうだ。
なので試験については問題ないだろうし、実技についてもカノンの能力で落ちるとは思っていない。
しかし……実技があるのならアインは無理なんじゃないだろうか?
『二人が興味ないのなら態々行く必要はないが……どっちにしても王都には行くんだ。それまで時間の猶予はあるぞ?』
この推薦状は別にもらったからって絶対に受けなければいけないというようなものでもない。
どちらかと言えば紹介状の方が近いかもしれない。
なのでとりあえず王都までこの話を保留することも出来る。
しかし、カノンは首を横に振った。
「ううん、やっぱり受けない」
カノンはそういうとテーブルの上の書類を収納に仕舞う。
「カノンさんがいいならいいんだけど…」
リーゼもとくには反対しないようだ。
『後は出発を何時にするかだが……』
極端な話、この町での用事も終わっているのでいつでも出発は出来る。
「どうしよう?明日?」
カノンがそんなことを口走る。
やけに急な話だ。
「私はいいけど……挨拶とか大丈夫?」
「また戻ってくるしギルドだけでいいんじゃないかな?」
まぁ、カノン的には拠点はこの町みたいだしな。
『てかお前らどうやって行くつもりなんだ?』
明日に出発するのはいいとして、乗合馬車がそう都合よく出ているとは思えない。
「え?歩いて?」
王都までは馬車でも二十日ほどはかかる。
正確には途中でムードラを経由してそこから十日だ。
それだけの距離を歩くつもりか?
「あ~、私は行けるよ?」
カノンに関しては聞くまでもないだろう。
ムードラまで走って二日でたどり着けた実績もあるし……。
そう考えると意外と何とかできる距離なのだろうか?
『まぁ、それならそれでいいが……アイリスには一言言っておいた方が良いんじゃないか?』
なんだかんだカノンの師匠のような立ち位置だ。
報告くらいは必要だろう。
二人も同じことを考えたようで、同時に頷いた。
「えっと、アイリスさんに伝言をお願いしたいんですが……」
ギルドの受付で開口一番、カノンがそんなことを言う。
「アイリス様ですか?彼女でしたらギルドにいますよ?」
おや?
アイリスがギルドにいるとは珍しい。
ここ一か月は殆ど会わなかったというのに……。
どうやらこの前の盗賊団やムードラでの奴隷商の事後処理で忙しかったらしく、会うたびに愚痴を言っていたのでしばらくは忙しいのだろうと思っていたのだが……。
まぁ、そんな中でもカノンに召喚術の訓練をつけてくれていたので本当にありがたかったが……。
受付嬢にそういわれたカノンがアイリスを探す様に周りを見渡す。
「いえ、ギルドマスターの部屋です。カノンさんが来たこと伝えますので少々お待ちください」
受付嬢はそう言ってロンの部屋に向かった。
少しするとアイリスが歩いてきた。
「カノンちゃ~ん、どうしたの?」
のんびりした様子でそういうアイリス。
そして少し遅れてロンもやってきた。
「えっと、明日王都に向かうので報告に……」
態々来てくれるとは思ってなかったカノンが言いにくそうにいう。
「ということは推薦の件は考えてくれたのかな?」
何故か少し嬉しそうに言ってくるロン。
それに対してカノンは申し訳なさそうに書類を差し出す。
「えっと、すみません。やっぱり受けません」
そう言って手渡された書類を受け取ってがっくりと肩を落とした。
「でも……なんで王都?」
今の話でカノンは試験を受けないことを悟ったアイリスが首を傾げる。
「私の武器の修理のため……です」
リーゼがそういいながら腰に差している刀に手を伸ばす。
ユーリの手によって応急処置は施されているが、完全に直すか新しく鞘を作るかしないといけない。
そのために王都まで行くということを説明した。
「なるほどね……」
アイリスはそう言って少し考えるそぶりを見せた。
「じゃあ一緒に行かない?」
そのあとアイリスから聞こえたのは、少し意外な言葉だった。




