帰路
ロイドから話を聞いていると、アイリスが戻ってきた。
「カノンちゃ~ん、そっちも無事だった?」
そういいながらのんびり歩いてくるアイリスには傷一つないどころか服にも汚れが付いていない。
激しい戦いにはならなかったのだろう……。
カノンでさえ地面にたたきつけられた際にわずかに汚れが付いたというのに……。
『こっちは俺が戦ったから問題ない。そっちも問題なさそうだな』
俺がそういうとアイリスは苦笑した。
「まぁね、テイマーって従魔さえ突破すれば楽だしね」
あぁ、やっぱり魔物の能力に依存してしまうんだろうな。
その辺りは予想通りだが……。
「あ、そうそう、この盗賊って、ただの盗賊団じゃなかったみたいよ?」
「あ、それはさっきロイドさんから聞きました」
カノンがそういうと少し残念そうな顔をするアイリス。
『そういえば……さっきの説明で一つ引っかかっている事があるんだが……』
最初は聞き流したのだが、よくよく思い出してみると不自然な点も存在していることに気が付いたのだ。
「ん?何かあったのか?」
俺の言葉にロイドが首を傾げる。
『この間戦った盗賊って、確か時間稼ぎをしていたんだよ』
「あ!」
俺がそこまで言うとカノンも思い出したようだ。
『その時は亜竜が来るまでの時間稼ぎだと思ったんだが……、離反してたならそんなのは期待しないよな?』
むしろ口封じにやってくるんじゃないかと怯えないだろうか?
土竜を味方だと思って時間稼ぎをするとは思えない。
「ふむ…確かにな…」
話を聞いたロイドも同じことを考えたのか腕を組んで考え始めた。
『まぁ所詮は盗賊だしただ単に連携が出来てなかっただけって可能性もあるんだが……』
「あ、それはボスが喋ってたわよ?」
俺たちの話を聞いていたアイリスが思い出したように言う。
『喋ってた?』
「えぇ、自分の従魔を呼ぶ時間稼ぎのつもりだったんでしょうけど、色々聞かせてくれたわよ」
いくら何でもAランク冒険者相手にそんな時間稼ぎをする意味はないと思うが……。
どうせ従魔ごとやられてしまうのだろうし……。
アイリスの説明を聞いて、何となく全貌が見えてきた。
離反したのは間違いないのだが、離反したのは一人だけだったそうだ。
それがあの盗賊団を率いていた男だったらしい。
そして他の盗賊は、ただの別動隊だと思っていて、自分たちが離反したことさえ知らなかったそうだ。
因みにその離反した男は最初の方に戦闘不能になり、それを見た部下たちは本隊からの援軍を期待して時間稼ぎをしていたようだ。
因みになんでここまで詳しく分かったかというと、土竜が出てくるまではボスに見られていたらしい。
テイマーの中には、魔物の視界を見ることが出来るスキルを持つものもいるらしい。
そのスキルで盗賊を監視していたようだ。
つまり、俺たちが最初に感じた変な気配はそれだったわけだ。
そして盗賊団が劣勢になると土竜を使って両者を潰そうとした。
しかし、土竜の出現の際に近くにいた魔物も倒れてしまったのでそこで映像は途切れ、しばらくして土竜が負けた事を知ったらしい。
まぁ何というか……。
あそこで俺たちに出会ったのがこいつらの運の尽きだったことはよく理解できた。
全く同情する気にはなれんが……。
そんなわけで領主軍も多少の負傷者を出したが無事に任務を終え、再び冒険者の護衛のもと帰路に就いた。
今回俺たちはマンイーターの捜索には参加していない。
イリーナたちが慣れてきて二人でも充分カバーできるようになったことも理由の一つだが、カノンの疲労が大きいのが一番の原因だろう。
いくら直接戦ったのが俺とは言っても、間近でワイバーンと対峙した緊張感は相当なものだ。
そのせいか途中の休憩で眠ってしまい、現在はアイリスに背負われている状態だ。
近くの冒険者たちは、その光景を微笑ましく眺めているだけで文句は言って来ない。
ロイドがワイバーンの事を説明したうえ、どうやらこの近くにブレスが着弾していたようでその力の強大さを知っている冒険者はそれと直接対決をしたカノンを労ってくれた。
因みに着弾したのは青白い光線だったらしい。
うん。
そういえば着弾地点の事は全く考慮していなかったな。
人に当たらなくてよかった……。
その着弾地点にはクレーターが出来ており、周りに生えていた木々は炭化していたそうだ。
俺、とんでもない技覚えたかもしれんな……。
というか、これは封印決定だな。
下手に使うと無関係の人を巻き込みかねない。
それ以前に魔力の消費量から考えても使いどころは難しいだろう。
『しかし、この年でワイバーンと対峙できるとは……』
ふいにソルの声が聞こえた。
「たしかにね~、私がカノンちゃんくらいの頃ってゴブリンとかオークを相手にしてた記憶があるもの」
それに同意する様に頷くアイリス。
「ハク、カノンちゃんの成長速度、貴方からみてどうなの?」
成長速度……か……。
『……正直に言えば、少し早いと感じる。俺の能力でスキル自体は多いから単純な比較はできないが……』
「少し…ね。私からすれば異常な速度だとは思うんだけど……。ハク、成長が早い人って結構簡単に死ぬことあるわよ?自分の力がどんどん伸びて調子に乗って、ね」
そこまで言って言葉を切ったアイリスは、背中のカノンに視線を向ける。
「だから、貴方がしっかり守ってあげなさいよ!」
『勿論だ!』
俺は即答する。
そんな事は言われるまでもない。
しかし……。
アイリス、多分本当に言いたいことは言っていないんじゃないか?
アイリスの事だから、それがカノンの為だと判断しての事だろうが……。
珍しくもやもやしたものを抱えることになったまま、俺は帰路に就くのだった。




