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レセアールの町

町は周囲が10メートルほどの壁に覆われていた。魔物の脅威から人々を守るにはこれくらい必要なんだろうか?


そして壁の四方には出入り口があり、カノンはその一つで町に入る手続きをしていた。とはいえカノンはお金を持っていないので、グラン達が立て替えてくれることになった。


素材を持っていればそれを売却して入ることもできるらしいが、ゴブリンの角4組ではさすがに足りないらしい。グラン達はゴブリンを逃がした負い目もあるのかもしれないが、多分9割はカノンへの同情ではないだろうか。


「それにしてもグラン。お前どこで攫ってきたんだ」


「人聞きの悪いこと言うな!近くで迷惑かけたからそのお詫びに一緒に来たんだよ!」


門番のおっさんにグランがからかわれ、グランはむきになって言い返していた。いや、グランじゃなくても言い返すか……


「さてと、お嬢ちゃん。許可証を発行するんでいくつか質問させてくれ」


門番は急に真面目な顔になるとカノンに言った。どうやら仕事はまじめにやるようだ。


「はい」


カノンも少し緊張しながら返事をする。


「緊張しなくても大丈夫だよ。簡単なことだけだからな。まずは、名前と歳を教えてくれ」


「は、はい。カノンと言います。13歳です」


緊張か、嫌なことを思い出したのか少し声が上ずっている。


「カノンちゃんね。で、13歳…と」


門番のおっさんはカノンの返事を聞きながら紙にメモっていく・


「13歳だと未成年だけど、親御さんはどうしたのかな?」


門番のおっさんの問いに、カノンは顔を伏せた。


「………捨てられました」


「…………………………すまん」


流石にどう返事を返したらいいか分からなかったようだ。しかしよく正直に言ったな。グレンたちにもぼかしていたのに。


グレンたちも驚いた顔でカノンを見ていた。死んだのかと思っていたら捨てられたとは、さすがに衝撃が大きいようだった。


「……えっと…この町に来た目的は?」


なんとか復活した門番のおっさんが聞いてくる。


しかしその眼には涙が浮かんでいる。


「冒険者になろうと……」


「分かった。すぐに手続するから待っててくれ!おい!グレン!カノンちゃんのことちゃんと見ててやれよ!」


門番のおっさんはそういうと詰め所らしきところに走って行った。


そしてカノンたちだけになると、イリスがようやく口を開いた。


「あの…カノンちゃん……ごめんなさいね…」


「え?何がですか?」


「その…言いたくない事まで…」


「気にしてませんよ。ここまで来て気にしてててもしょうがないじゃないですか」


カノンはそう言って笑う。


しかしイリスたちは暗い顔のままだった。





すぐに門番のおっさんは戻ってきた。その手には何か札のようなものを持っている。


「待たせたな。これが嬢ちゃんの許可証になる。3日で無効になっちまうからそれまでにギルドに登録しなよ」


そう言ってカノンに差し出されたのは木の札だった。そこには何かの番号とカノンの名前がある。


「ありがとうございます」


「おう。もしこのままギルドに行くならグランに案内してもらうといい。おいグラン!嬢ちゃんをしっかり守ってやれよ!」


街中で何から守るというのだろうか?


しかしグランもしっかり頷いているので、ギルドまでの案内は任せることにしよう。





















町の中は日本とは全然違った。まあ当然ではあるのだが、イメージとしては西洋風の文化を退化させたような感じだ。まだ建築技術は発展途上なのか、もしくは魔法のおかげでそこまで発展させる必要がないのかは分からない。


そんな街並みを俺たちは興味深く見渡しながら歩いて、ギルドに前に付いた。


「ここが冒険者ギルドだ」


グランはそういうと目の前の両開きになっている扉を開けた。


中は、何というかイメージ通りとしか言えないだろう。ゲームとかに出てくるギルドそのままだった。


「すごい…」


『確かにな…』


俺たちが驚いたのは人の数だ。ガタイのいい男たちが酒を飲んでいたり、掲示板のようなものを眺めていたりする。確かに街中もそれなりに人は多かったが、ここはまた別の迫力があった。


そしてグレンたちが中に入り、カノンがその後に続くと周囲の視線が一斉にカノンに注がれた。


「っ!?」


カノンはその視線に固まってしまう。


『カノン、大丈夫か?』


「な、なんとか…」


俺の声にカノンは小声で返事をするとグレンたちの後について行った。


多分誰が入ってきたのかを確認しているんだろうが、普通はすぐに視線は元に戻っていくはずだ。見慣れない少女が入ってきたので視線が釘付けになってしまっていたんだろう。


グラン達が向かったのは受付の一つだった。


「あらグランさん、お疲れ様です。依頼の完了報告でよろしいですか?」


10代後半くらいの受付嬢が営業スマイルでグランに聞く。しかしグラン達は少し困った顔をした。


「その依頼についてなんだがな、まずは彼女の冒険者登録をしてやってほしい」


グランはそう言ってカノンを指さした。


「え?このお嬢さんのですか?……Gランクの冒険者見習いでよろしいですか?」


受付嬢は少し困惑しながらもカノンに聞いてきた。漫画とか見たいに動揺しない点では、さすがプロといった所だろう。


「え、ええっと…」


いきなり話を振られたカノンがオロオロしている。するとイリスが助け舟を出してくれた。


「この子の実力なら普通の冒険者として登録しても問題ないと思うわ。まあGランクの方が安全だからその辺の判断はカノンちゃん次第ね」


「えっと…、どう違うんですか……?」


カノンが何とか疑問の声を引っ張り出した。


「Gランクは冒険者見習いとなっています。普通の冒険者との違いは安全であることです。主に街中での仕事になるので魔物との戦闘はまずありません。しかし登録者が多く、仕事が全く無いという事もあり得ます。そしてこれは重要なのですが、GランクではFランク以上の依頼を受けることが出来ません。しかしギルドの開催する講習に参加することが出来ますので、比較的安全に強くなることが出来ます」


受付嬢の説明を聞いて、カノンはゆっくり頷くと、口を開いた。


「Fランクでお願いします」


カノンの返事を聞いて、受付嬢は少し複雑そうな顔をした。確かに子供を危険な仕事に就かせたくないのは当然だろう。


「かしこまりました。ではこちらの書類に必要事項を記入してください。もし字が読めなければ代筆しますが大丈夫ですか?」


受付嬢はそう言って一枚の書類と羽ペンのようなものを差し出す。


「大丈夫です」


カノンは書類を軽く見てから返事をすると、書類の必要事項を埋め始めた。


とはいっても必須項目は名前と年齢、それから性別くらいであった。後は事情があって書けない人の為か、任意となっている。しかしなんで俺はこの書類を読めるのだろう?日本語とは全く違うどころか、見たことのない文字だというのに……


結局カノンが埋めた項目はこうなった。


氏名・カノン

年齢・13歳

性別・女

出身地・アレーナ村

特技・剣が少しだけ



カノンの住んでいた村ってアレーナ村っていうんだな、初めて知った。そういえばスキルに剣術Lv1があったし、村で何かやっていたのかもしれない。


とはいえ本来はまだまだ空欄だらけなのだが、中には魔力量とかもあったので分からなければ測ったりするのだろう。


「お願いします」


カノンは受付嬢に書類を渡した。


「お預かりいたします、少々お待ちください」


受付嬢はそう言って書類を後ろにいた人に渡した。


「ではこの後なのですが、簡単な試験を行います。その試験で合格となりましたら正式に冒険者となります。試験内容は模擬戦となりますが、すぐに行っても大丈夫ですか?」


「ハク、どう?」


カノンが小声で聞いてきた。俺のステータスを確認すると、魔力も体力も回復しているので大丈夫だろう。


『魔力は全快しているから問題ない。カノンさえ大丈夫ならいけるぞ』


俺がそう答えると、カノンは頷いた。


「大丈夫です。お願いします」


「かしこまりました。では試験会場は第二演習場となります。案内をお付けしますか?」


「いや、俺たちが案内しよう」


受付嬢に返事をしたのはグランだった。イリスも頷いている。多分保護者的な目線が半分と、この歳でゴブリン4体を倒す実力を見てみたいのが半分ってとこかな?


「ありがとうございます。カノンさんもそれでよろしいですか?」


「はい、大丈夫です」


「よし、じゃあ行くか。こっちだ」


グランはそういって歩いていく。カノンも慌ててグランについて行った。


後ろが何やら騒がしいので見てみると、何人かの冒険者が付いてこようとして、イリスとギルドの職員たちに阻止されていた。そして数少ない女性冒険者が、イリスに何かを耳打ちされると慌ててギルドから出て行くのが見えた。そこで角を曲がってしまったので何があったのかはよく分からないが、ここはイリスを信じることにしよう。




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