戦闘開始
何とかロイドの近くまで魔装の維持が出来たカノンは、ロイドの元にいきなり現れたように戻ってきた。
「お待たせしました」
「お、おう。早かったな……いや、倒したことは知ってるんだが……」
そう言って後ろにいる冒険者に視線を飛ばすロイド。
ロイドに視線を向けられた冒険者は、揃って頷いた。
「嬢ちゃんが消えて、すぐにゴブリンの反応も消えたのは分かったんだが……」
「で、どうだった?ゴブリンの鑑定は出来たか?」
半分諦めたように聞いてくる。
『一体だけだけどな。状態には従魔ってあった』
「……そうか……」
俺がそういうとロイドは一瞬だけ目を見開いたが、すぐに深刻な顔で考え込む。
「なぁハク、お前さんはどう思う?道中で出くわした魔物の中にも従魔はいたと思うか?」
中々難しい質問をしてくるな……。
『全部が全部そうだったとは思わないが……後半に出てきた魔物の中に紛れていても不思議じゃないな』
断言はできない。
しかし、最悪の可能性を考えておくことは大事だ。
この場合は、俺たちの行動や戦力が向こうに筒抜けだということだが……。
その場合はもうどうしようもない。
一旦諦めて撤退するか、力づくで押し切るしかないだろう。
『まぁ……索敵範囲に入ってきた魔物を逃していないのなら大丈夫……ではないな……』
「あぁ、こちらの人数からしてこちらの索敵範囲外から察知されていても不思議じゃない」
ロイドも同じ意見だな……。
さて、そうなると問題はこれからどうするかだが……。
その辺りは代表同士で話し合ってもらうしかないな。
その後、作戦は続行という結論になった。
もし中止したとしても、討伐隊が派遣されたという事実だけで盗賊たちはアジトを代えるだろうし、そうなったらまた見つけ出すところからスタートになり、その分だけ被害が広がる恐れもある。
そして何より、次回に今回と同じような戦力が集まる可能性は低い。
Aランク冒険者であるアイリスは指名依頼もあるだろうし、亜竜相手に勝てて、なおかつマンイーターの索敵も出来るカノン。
他にも今回はCランク以上の冒険者も多数参加しており、今回を逃すと次にこれと同じかそれ以上の戦力が集まる可能性は低いのだという。
更に今回、これだけの索敵能力をもってして見つかってしまう以上、次も見つかってしまうのは変わらないだろうとの判断だ。
というわけでそのまま進むことになり、以前カノンとアイリスが飛び越えた崖に到着した。
因みに何も知らないフィルマンはそのまま前を歩かされていた。
その間魔物が現れることはなかったが、本人は震えながら歩いていたのでいい薬になっただろう。
そんなわけで、崖に到着した冒険者たちは事前の指示通りに散開し始めた。
冒険者の仕事は領主軍が盗賊団を制圧するまで魔物から守る事。
流石に領主軍も、盗賊と魔物を同時に相手にしたくはないだろう。
そしてカノンはアイリスやリーゼと共に冒険者の近くで待機していた。
最初にマンイーターの有無は手分けして確認済みだ。
因みにイリーナとシグリッドは鑑定を使い続けて疲れたのか近くの木にもたれかかってダウンしている。
『……大丈夫か?』
疲れただけだとは思うが、一応確認しておく。
「……あ、あぁ…少し疲れただけだ」
「……同じく…しかし、あんなに大変だとは……」
鑑定による判別、最初はいいのだが途中から地獄になるからな……。
ずっと鑑定による情報の確認を続けて、しかも失敗すれば命に係わる。
しかも他の冒険者も巻き添えにして。
そのプレッシャーも相まって、精神的な疲労は相当なものになっただろう。
むしろ、ここまでよく持ったというべきだろうか?
俺?
俺は二人とは違って鑑定に集中していられるし、高速思考を使えば多少は余裕があるからな……。
そもそもカノンやアイリスが居る時点で、一体や二体見逃したって問題なく対処できただろう。
いや、だからと言って手は抜いていないが……。
『しかし……こんな崖の下によくもまあ……』
崖の近くでシグリッドたちが休んでいるおかげで、崖を降りていく領主軍の姿を確認することが出来る。
崖には何か所か下に降りられる緩い傾斜になっている場所があり、そこを降りて行っている訳なのだが、何でこんな場所にアジトなんて作ったのだろう?
崖の幅は100メートル程、高さは200メートルはあるだろう。
日本にいてはまず見ることのない景色だ。
そのせいで崖下の様子ははっきりと確認する事は出来ないのだが……。
「…あぁ、それはこの下に川が流れているからだろう。盗賊と言っても人だ。水は必要だからな」
息を整えながらシグリッドが言う。
なるほど。
確かに水をくむために崖の上と下を何往復もするよりはマシなのだろう。
俺としては、毎回上ることになるこの崖にうんざりしそうではあるが……。
いや、その方が見つかりにくいのか……。
もしかすると、カノンとアイリスが通った時もいたかもしれないし、この距離なら気配察知は森に向けていれば崖下の盗賊には気が付かなくてもおかしくない。
というか、この崖の下、川だったのか……。
はっきりと見たことはなかったが……。
「ハク、ここなら亜竜も隠せると思う?」
ふいにカノンが聞いてきた。
亜竜か……。
『正直ここでは難しいと思うぞ?確かに姿を隠すだけなら最適だろうが……』
姿を隠すことは出来たとしても、気配や魔力を隠せるとは思えない。
隠密スキルなど、そういった隠れるためのスキルを使えば可能だろうが、土竜にはそういったスキルはなかった。
外部から隠せるスキルもあるのかも知れないが、あんな巨大な生き物を隠して置けるスキルなど人が習得できるのか?
カノンは横にいるリーゼに視線を向ける。
リーゼがここに居る理由は、亜竜対策だ。
竜感知のスキルを持つ彼女は、誰よりも早く亜竜に気が付ける。
だから気配の察知しやすい崖の上で待機しているのだ。
二体も亜竜がいてたまるかと言いたいところだが、この世界はゲームではない。
ゲームのボスのように単身で向かってきてくれるとは限らないし、ボスを倒したら二度と出てこないわけもないだろう。
むしろ、偶然亜竜を従魔に出来たので無ければ、俺なら予備は用意するはずだ。
いくら強いと言っても、万が一は必ず想定する。
そうしないといざというときにどうしようもなくなるかもしれないからだ。
崖の方を見てみると、領主軍の殆どは下に降りていた。
崖の途中で止まっている者もいるが、それは陣形の範囲内なのだろう。
ボンッ!!
小さな音だが、そんな爆発音が聞こえてきた。
「……始まった?」
『みたいだな』
気配察知を崖下に向けると、領主軍の動きが慌ただしくなったのが分かる。
盗賊らしき気配も段々と確認できた。
多分、アジトの中から出てきたのだろう。
さて、あとはこのまま上手くいくことを願うだけだな。




