前途多難
翌日、早朝にカノンは町の南側の門にいた。
領主軍や冒険者たちがやってくるまでまだ多少の時間があるのだが、他の人たちが集まってくる前に別の用事があったからだ。
門の前にはシグリッドが待っていた。
シグリッドの横には、若い男、そしてセレンとアインもいた。
「カノンちゃん、こいつらの護衛依頼を受けるソールだ。俺の居るパーティの見習いでEランクだ」
「ソールと言います。よろしくお願いしますね」
そう言ってにこやかにお辞儀をするソール。
実は、シグリッドは少し大きいパーティに所属しているらしく、そのパーティメンバーのうち、今回の依頼を受けるには力不足である数人にアイン達の護衛依頼を出すことになったのだ。
依頼を受けてくれたのはソールをはじめとする二人らしい。
因みに、セレンも一旦村に戻ることになった。
アインが帰る以上、これ以上ここに居る理由はないからだ。
本人がどう思ったとしても、それは仕方ないことだ。
セレンが自分の意思でこっちに居たいのなら、まずは家族を説得するしかない。
「……カノンちゃん」
「セレン、ひと段落したら私も村に行くから、その時に許可が下りてれば一緒に帰ってこよ?」
カノンがそういうと、セレンは安堵した表情で頷いた。
カノンはそのままアインに目を向けるが、アインはカノンから逃げるように離れる。
仕方ないとそのままソールに視線を向けるカノン。
「ソールさん、二人の事、お願いします」
カノンはそう言って深々と礼をする。
「はい、任せてください」
その返事を聞いて満足そうにカノンは頷いた。
「大丈夫かな?」
別の門に向かう三人の後姿を見ながらカノンが呟く。
「ソールの事か?あいつなら心配しなくても大丈夫だぞ?」
隣でカノンの呟きを聞いたシグリッドがそう言って笑う。
「あ、いえ、そっちは心配してないんですが……」
そういうカノンに不思議そうな顔を向けるシグリッド。
『アインはトラブルメーカーだからな』
それも自分からトラブルを呼び込み、なおかつ呼び込んだトラブルを悪化させるたちの悪さだ。
しかも本人は自覚していないという面倒くささだ。
それを聞いたシグリッドは苦笑いをした。
「あぁ……」
「恐怖を叩き込んだので大丈夫だとは思うんですが……」
「恐怖?」
カノンの言葉にシグリッドが首を傾げる。
『あぁ、俺があいつの目の前でゴブリンの群を消したからな』
文字通り、跡形もなくな。
「そんなんで怯えてるようじゃ帰ったのは正解だったか……」
呆れたような声が返ってきた。
まぁ、あの程度の相手ならカノンやシグリッドなら片手間で片づけられる相手だしな……。
その後しばらく待っていると、他の冒険者たちが続々と集まってきた。
その中には見知った冒険者もいる。
「カノンちゃん、久しぶり!」
そう言ってカノンに向かって手を振りながら近づいてくるのはアイリスだ。
というか、まだ数日しかたっていないんだが……。
「アイリスさん、お久しぶりです?」
疑問形で返すカノン、気持ちは分かる。
『そういえばアイリスも参加するんだったな』
そもそもアジトらしき場所を見つけたのはアイリスだし。
「えぇ、まさかこんな大事になるとは思ってなかったけどね…」
苦笑しながら言うアイリス。
『確かに……冒険者ギルドと領主軍の混合部隊なんて初めて見たが……』
役割が違うとはいえ、こんなものは滅多にないだろう。
『場所が場所ですからね。それに盗賊は基本的に領主軍や衛兵の仕事ですし』
確かに、ギルドには盗賊討伐の常時依頼があるが、それもあくまで冒険者が襲われた場合のためだ。
態々探し出して捕まえるわけではない。
アイリスが居るせいか、カノン達がいる場所は他の冒険者も距離を置いていて開けている。
そのせいかカノンは少し居心地が悪そうだが……。
「カノンさーん!」
アイリスと話していると、遠くの方からリーゼの声が聞こえた。
声が聞こえた方を見ると、リーゼが小走りでこちらに向かってくる。
「リーゼさん?」
「カノンさん、各部隊の打ち合わせをするみたいだよ?」
リーゼにそう教えられ、途端にカノンの顔がゆがむ。
「……」
無言でシグリッドを見るカノンだが、シグリッドは苦笑いでカノンに手を振る。
諦めて行ってこいとでも言うように……。
「……ハク」
『諦めろ』
緊急時の指揮はカノン、正確には俺が執ることに決まった時点でこういった事も覚悟済みだ。
少なくとも俺は……。
「分かった……」
カノンは諦めたようにリーゼの案内で打ち合わせの場所に向かった。
打ち合わせは門から少し離れた場所で行わるようだ。
椅子などがあるわけでもないので本当に簡単に、連携の最終確認程度だとは思うが……。
「お?カノンちゃんも来たな」
そういったのはロイドだ。
背中に戦斧を背負っていて、今回の依頼に参加するようだ。
その横にはロンの姿もある。
そして、昨日あいさつした領主軍のカリムと、探索特化の冒険者、ブルーノもいる。
他にも何人かいるが、全員を覚える必要はないだろう……。
多分……。
「……こんな子供がいるとは聞いていませんよ?部隊長?」
カリムの隣にいる領主軍の男性がカノンを見てそういう。
「こら!彼女はこちらの作戦の要だぞ!口を慎め!」
カリムが諫めるが、それでも不満げにカノンを睨んでくる。
「カノンさんはDランクですが、戦闘力だけを見ればBランクにも手を掛けています。それは説明したはずですが?」
ロンが割って入ってくれた。
しかし、流石にBランクは言い過ぎじゃ……、あ、マンイーターもBランクだったし亜竜種もBランクだったか……。
圧勝は出来ないかもしれないが、いい勝負は出来るだろうからあながち過大評価でもないのか?
ギルドのトップに言われ、渋々ながらカノンから視線を外す男。
「すまんな、こいつはフィルマンって言うんだが、少し頭が固くてな」
そう言って軽く頭を下げるカリム。
「い、いえ、仕方ない事ですから……」
頭を下げたカリムに慌ててそういうカノンを、再びにらむフィルマン。
なんかこの依頼、面倒なことがありそうな予感がする……。
「……おや?アイリスさんはまだ来てないね?」
ふと思い出したようにロンが呟く。
……アイリスも参加予定だったか……。
動く気配もなかったから参加しないものだと思っていたが……。
「えっと、アイリスさんなら……」
そう言って自分が来た方角を指さすカノン。
それを見たロンとロイドは顔を見合わせ、揃ってため息を吐いた。
「……カノンさん、竜装スキル使ってもいいから呼んできてくれないかい?」
ため息を吐きながらそういうロンにカノンは苦笑いで頷くと、そのまま竜装を使って空に舞い上がった。
一応空を飛べるスキル持ちって希少なのだが……。
こんな使い方でいいのだろうか?




