鑑定の使い方
年上、なおかつ格上相手で完全にカノンが委縮してしまっている。
このままだと話が進まないので強引に俺が割り込むべきだろうか?
「ハク?いい?」
そんな事を考えていると、カノンから声を掛けられた。
というか、何がいいのだろうか?
『何がだ?』
「ハクの事、言ってもいい?」
あぁ、そういう事か。
その方が良いだろうな。
『あぁ、問題ない』
俺がそう返事をすると、カノンは安堵したように息を吐いた。
「えっと、イリーナさん、シグリッドさん」
カノンが声を掛けると二人がカノンを見る。
「はい、どうしました?」
「ん?何だ?」
「えっと、紹介します。私の中にいるハク……って見えないですけど……」
スライムを出してもいいが普通に話しかけた方がいいだろうな……。
『カノンの中に封印されているハクだ。よろしく頼む』
俺が二人に念話を飛ばすと、二人は目を丸くした。
「これは……念話ですか?」
「おぉ……これがカノンちゃんの中の竜の声……初めて聞いたぜ……」
驚いてくれているようで何より……でもないか……。
『いきなりすまないな、どうもカノンが委縮しちまってるんで、俺から説明しようと思うんだが……いいか?』
「はい、私は構いません。それに、竜から教えを受けるなんて滅多に出来ることじゃないですから」
「そういう問題なのか?あ、俺もいいぜ」
シグリッドの疑問はとりあえずスルーする方向でいいだろう。
面倒だし……。
その後鑑定を使った簡単な探知方法を伝えた。
とは言っても、鑑定は見たい情報だけをピンポイントで確認できるので、確認するには名前だけにしてその代わりに手当たり次第に鑑定を繰り返すだけではあるのだが……。
その事を説明したのち、念のためということで訓練場に移動した。
「なあハク?こんな所で何すんだ?」
何の説明もなしで移動したのでシグリッドが首を傾げる。
その横でイリーナも頷いている。
『あぁ、こっちに移動したのは念の為だ。こぼすと嫌だしな』
そう言ってカノンの背中からマンイーターの蔓を出し、収納から瓶を5本取り出す。
その中身は全て同じに見えるが、一応4本がポーションで、残り1本がただの水になっている。
前にカノンが使ったポーションの瓶に水を入れておいたのだ。
ポーションも色は付いていないので見た目には違いは分からない。
訓練場の端にある台に等間隔に並べたそれを蔓を使って指す。
『リーゼ、お前はこれが何か分かるか?』
「えっと…ポーション?だよね?」
リーゼは首を傾げながらもそう答える。
その間にカノンは鑑定を使ったらしく苦笑いする。
「あ~、なるほどね……、リーゼさん、違うものが混じってますよ?」
因みに一番右側にただの水入り瓶を置いてある。
カノンの言葉を聞いて俺の意図を理解したであろう二人は、少し瓶を見つめて納得したような顔になった。
「あぁ、そういう事か」
「みたいですね。こういった事は軍でもやっていますが……」
あぁ、ポーションってたまに偽物が出回ることがあるらしいな。
見た目はただの水だし、安いものではないのでためしに使うということも出来ないので実際に使ってみて、効果がなかったということもごくまれにあるらしい。
やっていることはマンイーターの索敵と同じはずなのだが、魔物に対してこういった事をやるという発想はないらしい。
これに関しては固定観念があるだろうから仕方ないのかも知れない。
『やることはこれと殆ど同じだ。範囲と対象の数は全く違うが……』
「なるほど、言われてみれば普段やっている人もいる方法ですよね」
イリーナが感心したように呟く。
「ポーションの偽物を確認する事自体は普段からやっていましたが……同じ方法で擬態を見破るとは……」
「言われてみれば効率的だな……。まぁ、鑑定を使い続けるし神経は磨り減るだろうが……」
まぁそうだよな……。
鑑定結果を確認し続けるので集中力が居るし、移動しながら行うのは大変だ。
俺の場合は移動に関しては考える必要もないし、高速思考も持っているので何とか出来るだろうが……。
『移動しながらは難しいか?』
大丈夫だとは思うが、念のために確認してみる。
「あぁ、難しいのは難しいだろうが、出来なくはないな」
「はい、難易度は高いですが問題はありません。むしろこの方法は領主軍にも広めたいくらいです」
多少は難しいが問題はないらしい。
ひとまず態々集まってもらった二人が無駄足にならなくてよかった。
しかし、シグリッドはそのまま何か考え込んでしまった。
『どうしたんだ?』
「あぁ、移動だけならそれでいいんだが、もし魔物が出た場合がな……」
「なるほど、魔物を追って私たちの索敵範囲外に出てしまうと危険があるという事ですね」
イリーナが納得したように呟く。
それは考えてなかったな……。
「それなら私も参加すればいい?」
カノンが少し考えた末口を開く。
『そうだな……普段は俺たち三人が鑑定して……魔物が出た場合に俺が鑑定していた範囲をカノンが担当。俺は触手で冒険者を追いかけて鑑定をすればいいか……』
「……スライムは禁止だよ?」
カノンが半眼で言う。
「お、おう。勿論わかってる」
いつも通りの口調なのに迫力があるのはなぜだろう?
「じゃあ後は練習あるのみか?」
そういうシグリッドに対して、俺は少しだけ考える。
確かに鑑定に関してはそうだが……。
『そうだな……町の外に移動して練習するのが一番手っ取り早いが……その前に担当だけ決めとくか?』
最初に決めてしまった方が良いだろう。
「それなら非常時に誰が指示を出すのかも決めた方が良いでしょう。非常時に指揮系統が乱れるのはよくありませんから」
流石領主軍に所属しているだけはある。
イリーナの指摘は最もだ。
「それならカノンちゃんがいいんじゃないか?」
「え?私ですか!?」
さらっと言うシグリッドに対してカノンが驚いて後ずさる。
「そうですね。カノンさんならハクさんと相談できますし……元々私たちはカノンさんを中心に集まっているのですから」
それは言い過ぎではないだろうか?
それ以前に……。
『二人はいいかもしれんが……他の冒険者や領主軍の連中がどう思うか……』
「冒険者は大丈夫だろう。カノンちゃんは有名だしな」
あぁ、そういやよくも悪くも目立ってるからな……俺たち……。
「領主軍も大丈夫でしょう。任務中に私情を挟む者はいません」
それは大丈夫とは言わんぞ?
『……カノンはどうだ?』
一応本人にも確認してみる。
「……ハク、よろしくね?」
うん。
何となく俺に丸投げされるんじゃないかとは思ってた。
カノンってこういう事は苦手そうだしな……。
『リーゼは?』
殆ど空気になっているリーゼにも確認しておこう。
「私、いらないよね?」
苦笑いでそういうリーゼ。
あぁ……。
「いえ、そんなことはないですよ?」
以外にもそれを否定したのはイリーナだった。
「軍隊でもそうですが、伝令などが必要な場合、私達三人だけでは誰も動くことが出来ません。それに、鑑定に集中してしまうと他の索敵がおろそかになってしまいますから」
それを聞いてリーゼの表情が少し明るくなった。
何はともあれこの四人で何とかやっていこう。




