指名依頼
その後アインを連れてギルドまで戻ってきたカノン達を待っていたのはロイドだった。
「おう、カノンちゃん。どうやら無事に見つかったようだな」
「はい、ギリギリだったみたいですけど何とか……」
帰る途中で話を聞いたのだが、リーゼ達は何かを追いかけるように移動するゴブリンの群を見つけ、それを追ってアインを見つけたらしい。
そのころには既にアインはゴブリンに囲まれていたのでリーゼが慌てて竜化してある程度蹴散らし、その後セレンも混じって向かってくるゴブリンを倒していたらしい。
因みにアインがゴブリンの追いかけられていた理由だが、どうも遠距離から魔法を当てたらしく、それによって怒ったゴブリンが向かってきていたらしい。
アインとしては魔法だけで倒すつもりだったのだろうが、元々大した威力もなく、しかも距離があるので魔法の威力も減衰した状態で当たったゴブリンは軽いやけど程度で終わったらしく、その群から逃げる最中にさらにほかの群も巻き込んであんな騒ぎに発展していたらしい。
なんとも迷惑な話である。
「じゃあすまんがこいつは預かるぞ?ギルド規則を破ったんだ。罰はないまでも説教くらいはな」
そう言ってアインの首根っこを掴んで奥に運んでいくロイド。
アインから「なんだよ!」とかいう声が聞こえているが全員がそれを無視する。
「ふぅ……これで解決…かな?」
カノンが大きく背伸びする。
『しかし……大丈夫か?明日になったらまた面倒ごとに……』
アインの性格からして、まったくあり得ないと言い切るのは早計だろう。
「大丈夫だよ。今度は蔓で捕まえちゃって」
『本当に化け物呼ばわりされるぞ?』
俺は別にいいが、カノンはよくないだろう。
「別にいいよ?あんな奴にどう言われても。それよりもセレンの方が大事だし」
「……カノンちゃん」
そう言い切ったカノンに対してセレンがキラキラした視線を向けている。
それならいいんだが……。
「そういえば……」
ふいにリーゼから声が漏れた。
「説得はいいとしてどうやって村まで連れて行くの?」
そう言われてみれば……。
元々一人で町の外に出すわけにはいかないからさっきも問題になったのだ。
それを、村に返すからと言って一人で送り出すのは不可能だろう。
「……あの、私が護衛して……」
「無理だと思うよ?」
セレンの案が本人が言い切る前にカノンに斬り捨てられたが、正直俺も同感だ。
『いくら何でも一人で護衛しながらッてのは無茶だな。普通の奴ならいいが……』
言ってもアインだ。
道中で何をするか分かった物じゃない。
不安要素が大きすぎる。
「……箱にでも詰めて持ってく?」
……カノン?お前アインを人扱いしてないだろ……。
『それも却下だ。というか、村から誰か来てないのか?』
もし来ていたならそいつに渡してしまうのが一番だろう。
「確か……ひと月に一回くらいの頻度でこっちに来ていたはずだから……あと半月?」
カノンが思い出しながら呟く。
半月か……。
それまでこっちに置いておくのも不安だな……。
そうなると……。
「カノンさんが掴んで飛んでいけばどうかな?」
リーゼがそう言ってカノンを見る。
なるほど……。
それなら数時間でアレーナ村に着くし、アイン一人くらいなら問題なく運べる。
「………………それは最終手段でお願いします」
暫しの逡巡の末、返事を保留にしたカノン。
まぁ嫌だよな……。
ずっと自分をいじめていた相手なんだし。
「カノンさーん!」
俺たちがそんな相談をしていると、受付嬢がカノンを大声で呼んだ。
「はい?私ですか?」
カノンは呼ばれるような心当たりがないので首を傾げながらも受付に向かう。
「ギルドマスターから呼び出しがありますが……」
言いにくそうに言う受付嬢。
そしてそれを聞いて嫌そうな顔になるカノン。
まぁこの状況で面倒ごとを抱え込みたくはないよな……。
「……分かりました。リーゼさん、すいません。少し行ってきます」
「うん、私たちはその間に知恵を絞っておくね」
そう言ってセレンと相談を再開したリーゼを後目にカノンはロンの部屋に向かう。
カノンが扉を開けてロンの部屋に入る。
勿論ノックはしていない。
「失礼します」
「うん、最近カノンさんノックしなくなったよね……」
何故か諦めた顔のロン。
しかし、すぐに顔を引き締めると、真剣な表情で口を開いた。
「カノンさんを呼んだのは、アイリスさんが調べていた盗賊の件だよ」
あぁ、そういえば見つけたんだっけ……。
アインの事で半分くらい忘れていたが……。
「アイリスさんの報告によると、そこは谷になってる場所らしいんだけど……確かマンイーターが出た場所とか言ってたかな?」
あぁ……、そういえばムードラに向かう道中に倒したな……。
『そういえば橋が落ちていた場所で戦ったが……』
「それについては簡単な報告は受けてるんだけど、そこに大規模な盗賊団が潜んでいる可能性が出てきた。そして、亜竜を使役できるテイマーが黒幕だとすると、魔物も何体か使役されている可能性があるんだ」
そもそもそれだけ優秀なテイマーが何故盗賊に堕ちるのかという疑問自体はあるのだが、そんなことは今は捨ておく。
そんなことは考えても分かるわけがないし、それを考えるよりもどうやって捕まえるかが大事だ。
「で、相手は盗賊と魔物、両方がいると仮定して、ここの領主軍とギルドの冒険者で合同で討伐を行うことになったんだよ。で、カノンさんに聞きたいんだけど、カノンさんはマンイーターの擬態を見破ることが出来るんだよね?」
確認する様に聞いてくるロン。
あれ?
擬態を見破ったという情報は入っているようだが、その方法までは聞いていないのか?
『あぁ…あれは俺の鑑定だな、近くの木に対して手当たり次第鑑定したんだ』
やったのは俺だしそれくらいは俺が報告するとしよう。
「なるほどね……鑑定なら魔物なら分かるか……」
ロンは何やら考え込んでいる。
「カノンさん、一つ指名依頼を出したいんだけど……いいかな?」
いいかなと聞いてはいるが、これって半分以上強制ではないのだろうか?
『それは拒否できる物じゃないんじゃないのか?』
一応確認してみると、ロンは苦笑を返してきた。
「あはは…、まぁ……そうだね。作戦の難易度に大きくかかわるから正直言って参加してほしいけど……」
「……内容はなんですか?」
カノンは諦めたのか内容を聞く。
「うん。道中の索敵、もっと言うとマンイーターがいないかどうか警戒してほしいんだ」
なるほど、確かにそれは実績のある奴に依頼するのが一番確実で安定するだろう。
「ハク、出来るの?」
カノンに聞かれて少し考えてみる。
敵の規模が大規模だとして100人もないだろう。
で、敵の拠点に攻め込むのに同じ人数では分が悪いから多めに150人程度か……。
それだけの人間が通る道全てを俺一人で確認しきれるのか?
時間を掛ければ不可能ではないだろうが……。
『正直一人では厳しいだろうな……移動速度を遅くすれば出来るだろうが……』
要は目に入るすべての木々に鑑定を掛けている訳なので、流石に時間がかかるだろう。
「そうなるよね……よし、他にも鑑定を使える冒険者を探してみるよ。でもカノンさんたちにも協力してもらいたいな」
「ハクがいいなら私は……あ!」
了承の返事をしようとしたカノンが何かを思い出したように声を上げる。
「ん?どうしたんだい?」
ロンも首を傾げている。
「あの、アインを村に……」
その短い言葉だけでロンは理解したようだ。
「なるほどね……。じゃあそっちは他の冒険者に依頼を出したらどうだい?依頼料は指名依頼から引かせてもらうことになるけど……」
流石にギルドが持ってくれるわけもないか……。
しかし、その方がカノンの精神衛生的にはいいかもしれない。
「そうします。依頼料もお任せしていいですか?」
「うん、アレーナ村との往復だけなら安く受けてくれる冒険者もいるはずだよ。その辺りは任せてね。で、指名依頼に関しては、今、アイリスさんの情報を元に索敵専門の冒険者が確認しに行っているから、明日の朝には詳しく分かると思う。悪いんだけど、明日もう一回ギルドに来てくれるかな?」
「はい」
短い返事をしてカノンは部屋を出た。
「ハク、ごめんね?」
部屋を出た途端カノンに謝られた。
『ん?何がだ?』
「ハクにばっかり負担掛けて……」
あぁ、確かに鑑定は俺の方がしやすいしな……。
動くことがないからな……。
鑑定だけに集中できるから俺が適任ではあるのでまったく気にしていないのだが……。
『たまには俺にも頼ってくれよ?じゃないと中にいるだけになっちまう』
気にしないと正直に言ってもカノンにはあまり意味がないだろう。
「うん、ありがとう」
少しカノンの表情が明るくなったような気がする。
流石にこんなことでカノンに気にしてほしくはないのでよかった。




