少年の暴走
翌日……。
カノンとリーゼはセレンと合流すべくギルドに来ていた。
昨日町の入り口で別れその時、朝ギルドで合流することを決めたのだ。
目的は言わずもがな、アインの事である。
セレンと同じ宿にすることも考えたのだが、セレンが泊っているのはこの町で一番安い宿で、外見もそうだが中もボロボロらしい。
カノンとリーゼはそのくらい気にしないようだが、その安さのおかげでGランク冒険者が暮らすのにちょうどいいらしく、常に満員らしい。
セレンは運よく泊ることが出来たそうだ。
なのでそこに泊まってしまうと本来泊まれるはずの人が泊れなくなってしまうから、前に泊まっていた宿に泊まることにしたのだ。
というわけで、セレンとは別の宿になりギルドで合流することにしたのだが、カノン達がギルドの中に入るとなんだかいつもより騒がしい。
「あれ?何かあったのかな?」
『このタイミングでここまでバタバタしていると何となく想像つくがな……』
走り回っている職員を眺めながら呟く。
このタイミングなら、恐らく土竜関連だろう。
「土竜の事でなにかあったなら、そのアインって子を送り返すのも難しいんじゃないの?」
リーゼが首を傾げながら言う。
しかし、その辺りはあまり心配していない。
『その辺りは大丈夫だろう。戻ってきたときに土竜と遭遇したのは南の森の向こうだ。アレーナ村はその反対だしな』
この発言がフラグにならないとも限らないが、流石にそれはあり得ないだろう。
「あれ?そういえばセレンがいない?」
そういえばギルドの中に見当たらないな……。
『まだ来てないだけじゃないのか?』
俺がそういうとカノンは少し考えるそぶりを見せた。
「……全くないとは言えないけど…セレンって待ち合わせには最初にくるタイプなんだよね……」
「もしかしてアインって子の所?」
リーゼがそう呟くと、カノンははっとしてリーゼを見た。
「そうかもしれません……どうしよう……」
あまりアインの所には行きたくないらしい。
かといってギルドの職員に声を掛けようにも走り回っていてそれどころではないだろう。
「お!来た来た」
カノン達が困っていると、遠くの方から声が聞こえた。
カノン達がそちらを見ると、奥に続く扉からロイドが出てきた。
「ロイドさん?」
「おう!昨日ぶりだな、そっちは初めてだな。俺はロイドだ」
「リーゼと言います」
軽く会釈するリーゼ。
それに対しロイドは軽く頷く。
「リーゼ…だな。ふむ…竜人とは珍しい……」
リーゼの頭に生えた二本の角を見ながらロイドが呟く。
そういえばリーゼ以外の竜人は全く見ないな……。
ロイドはすぐにリーゼから視線を逸らし、カノンの方を見た。
「カノンちゃん、二つ報告があるんだが……いい知らせと悪い知らせ、どっちから聞きたい?」
その二択が出てくる時点で嫌な予感しかない……。
「……いい報告だけでお願いします」
おぉ……。
そう返すのか……。
それを聞いたロイドは苦笑しながら口を開いた。
「まずいい知らせだが、今日の早朝にアイリスさんが戻ってきたんだ。で、土竜を使役していた黒幕がいると思われる場所を突き止めたと報告があった」
流石Aランク冒険者、仕事が速い。
というか、よく見つけることが出来たな……。
「で、ギルドではそこに大規模な盗賊団が潜んでいるも考慮して衛兵団への報告なんかがあって大忙しって訳だ」
なるほど……。
職員が走り回っているのはそれでか……。
「ついでに言うと、土竜の影響かこの辺りの魔物の分布も少し変わっているな……。こっちは放っておけばそのうち元に戻るだろうが……」
なるほど……。
いままで安全だった場所でも危険になる可能性もある。
これはいい情報を聞いたな。
「で…カノンちゃんは聞きたくないかもしれんが悪い知らせだ……。アインの奴がいなくなった」
あまり聞きたくはなかった悪い知らせの方だが、さらっと言われたが想像以上だった。
「いなくなった?ですか?」
あまり意味が分からなかったのかカノンが首を傾げる。
「あぁ、正確には、勝手に町の外に出ちまった……」
ロイドがそういうと、カノンは頭を抱えた。
「……あのバカは…」
「その理由なんだが……一時間くらい前にセレンが来て、説得してたようなんだ。けど、それを遮って医務室から飛び出していったらしい」
「!セレンは無事ですか!?」
セレンもいたと聞いてカノンの顔色が変わる。
「落ち着け…セレンなら大丈夫だ。追いかける間もなく飛び出していっただけで、怪我もしてない」
それを聞いてカノンが安堵のため息を漏らす。
「アインはそのまま町の北門から外に出て行ったらしい」
『出て行ったって、そんな簡単に出られたか?』
俺の記憶では、よほどの顔見知りでもない限り子供が外に出ようとしても止められるはずなんだが……。
カノンの場合は門番もカノンの事を知っているので最近止められた記憶はないが……。
「どうも門番を振り切ったらしい。いくら仕事でも振り切って出て行った奴までは追いかけないからな」
それもそうか……。
流石にそこまでは責任も持てないだろう。
あくまで外に出たのは自分の意思なのだから……。
「あの、セレンは?」
「セレンなら奥の部屋で休んでる。そもそも北門まで追いかけて行ったのもセレンだしな。町の外に出た時点で、一人では追いかけられないと踏んで戻ってきたみたいだが……」
『それは賢明な判断だろうな』
いくら合法的に町の外に出ることが出来るFランク冒険者と言っても、セレンがオークにでも出会ってしまったら間違いなく死ぬ。
それを考えれば、戻ってきたのは正解だ。
「どうする?よければ案内するぞ?」
「お願いします!」
ロイドの提案にカノンが即答した。
ロイドの案内された部屋に入ると、セレンが下を向いて落ち込んだように椅子に座っていた。
「セレン?」
「!カノンちゃん!アインが…ごめんなさい……」
カノンの姿を見るや否やカノンに飛びつき、そのまま泣き出してしまった。
「大丈夫。セレンは悪くないよ……」
そう言ってセレンの頭をなでるカノン。
「リーゼさん、私は馬鹿を探してきます」
セレンを抱き留めたまま後ろにいるリーゼに声を掛けるカノン。
「私も行くよ。カノンさんと同じパーティだしね」
「…でも…これは私の知り合いが……」
『カノン、お前がリーゼの立場だったらどうだ?』
リーゼの申し出を拒否しようとしたカノンだが、俺が口を挟むと少し考えるそぶりを見せた。
「…はい、お願いします」
「……え?」
カノン達の会話にセレンが顔を上げる。
「セレン、私達馬鹿を探してくるけどどうする?」
「わ……私も!」
涙をぬぐいながらカノンから離れたセレンが、拳を固める。
うん。
舌足らずではあるが、カノン達と一緒に探しに行くらしい。
『なら急いだほうがいいだろう。下手にゴブリンの群と出会ったら瞬殺されかねん……』
「そうだね、行こう!」
「うん!」
「…うん」
そのまま三人は、ギルドを飛び出した。
なんだかんだ、この三人って同じパーティを組んでも仲良くやっていけそうな気がするな……。
まぁ、今はあのバカを見つけ出して心をへし折ることが先決か……。
いや、最悪腕の一本でも折って…いや、下手すると折れてる可能性があるのか……。
全く面倒ごとを起こしてくれるが、仕方ないか……。




