有金駆は失神する⑨
よりによってテキサスクローバーホールドとは。
ビンタなら一発で終わりだが、テキサスクローバーホールドは背骨と腰を攻める関節技だ。長引けば長引くほど有金の脊椎が危険なことになる。
しかも有金の体は細くて筋肉が付いていない。直接骨にダメージが行くことになる。そんな体で長時間あの技を受けることになれば……。
これは急がなくてはダメだ。頼む。頼むから間に合ってくれ!
僕は有金を故人にしたくないし、竜崎を犯罪者にもしたくない!
陸上競技場までの一本道を全力疾走し、一分もかからない内に現地に到着した。
久しぶりに全力疾走をしたからか、体の内側が燃えるように熱い。
僕は荒い呼吸を整えながら綾辻が電話で言っていた倉庫を探した。
「あ、ハルくん! こっちだよ!」
泣きそうな顔をした綾辻がこっちに向かって手を振っているのが目に入った。そっちか! 今行くぞ有金!
「綾辻! 有金はどこに…………あ」
有金は僕の視界にすぐに入ってきた。
「あばばばばばばばば」
そしてすぐにこの奇声である。
ダメだ。残念ながら手遅れだった。
僕らのかけるんは謎の奇声を上げながら泡を吐いて白目を剥いてるよ☆ 色々フルコースだね♪
「オラァ! レフェリー! ギブアップか聞けコノヤロー!」
一方の技をかけている竜崎は、プロレスラーの霊でも乗り移ったのか、僕に向かって激しく叫んだ。
「ちょ、おい竜崎。頼むから落ち着け!」
「アスクヒム! え、おい! レフェリー!」
アスクヒム。簡単に言うとギブアップかどうか彼に尋ねろということ。
蝶野正洋かお前は。
残念ながら言葉では何を言っても無駄なようなので、僕は全力で竜崎を有金から引き剥がした。
即座に技から解放された有金の呼吸を確認する。
よし。大丈夫だ。呼吸はしっかりしている。昨日と同じ状態だ。あとは昨日と同じ方法で……。
「綾辻! 水!」
「あ、そっか! りょうかい!」
綾辻は給水のために持ってきていた二リットルのスポーツドリンクを持ってきた。
普通のお水はなかったのかしら。まあいいや。
僕はペットボトルの蓋を開け、躊躇うことなくドボドボと有金の顔面にぶっかけた。
さあ甦れ! 有金!
「……ゴホッ! ガッ……あ、あれ? 俺何でこんな水浸しなんだ?」
二秒で生き返った。クマムシかお前は。
「大丈夫か有金」
一分前まで泡を吐いて白目を剥いていたので、とりあえず心配をして声を掛ける。
「あ……ああ。そうか。俺は一颯の逆エビ固めで」
有金はすぐに現状を把握した。さすが失神定期のお兄さん。
「違うよ有金くん。一颯ちゃんは手を交差してたからテキサスクローバーホールドだよ」
と、何故か綾辻か謎の訂正を入れた。
どっちでもいいわそんなもん。
「で、体は大丈夫なのか?」
「なんとかな。背骨から変な液が出るかと思ったぜ」
それはきっと出てはいけない液だ。良かったギリギリ間に合って。
「かけるん……。無事で良かった」
隣を見ると、竜崎がウルウルした瞳で有金のことを見つめていた。きっと竜崎も有金のことが心配だったんだろう。
……。
……ん?
いや待て待て待て待て。お前だお前。お前のテキサスクローバーホールドのせいだから。日本中のお巡りさんこっちです。
「私、本当に悪気はなくて体が勝手に」
嘘をつけ。勝手に体が動いてあんな複雑な関節技が出てたまるか。生まれながらにしてテリーマンかお前は。
「別に気にしてねーよ」
おい。お前も許してないでちょっとは気にしろよ。二人揃ってサイコパスか。
「じゃ、じゃあかけるん! もう一回私と陸上部に……」
「いや、陸上はもうやらねー」
「な……!? どうしてだよ! この分からず屋!」
「昨日も言ったろ。俺は陸上よりも楽しいもん見つけたんだよ」
「ぐうっ……! そ、そんなこと言ったって認められるわけ……」
竜崎は拳を握り締め、今にも有金に飛びかかりそうな勢いだ。
頼む。もう止めてくれ。さっきの再放送になってしまう。
「い、一颯ちゃん。ダメだよ暴力は。がまんがまん!」
「うう……。穂香ぁ……」
竜崎は綾辻に力なく抱きついた。
はぁ。ループしなくて良かった。
「……とにかく朝飯の時間だから宿に戻ろう。もう僕たち以外誰もいないし」
なんだかどっと疲れた。この二人を仲直りさせる前に僕のメンタルが崩壊しそうだ。
スマホを取り出し画面を見ると、まだ八時すぎだった。
起きてから二時間半でこの疲労感。
……誰かアモールの水ちょうだい。
ここまで読んでくだりありがとうございます。
どうですかお兄さん、お姉さん。
ここは一つ爽やかな忌憚なき御意見でも。
迷える底辺作家に目の覚めるアドバイスをいただけると幸甚に存じますm(__)m




