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有金駆は失神する⑥

 先生の真剣な様子に、私の心臓の鼓動は速まった。

 

 ハルくんのことをどう思うか、って……。


 それってもしかして清沢先生もハルくんに気があるってこと!? 

 いやいやいやいや! 待って! 先生とハルくんは教師と生徒だし、そんなの絶対に許されないわよ! ダメに決まっているわ!


 ……で、でも。先生って歳よりかなり若く見えるし、ハルくんも年上に好かれそうなところがあるから意外とお似合いなのかも。

 も、もしかして本当に……?


 冷静に考えると、清沢先生は生徒からの信頼も厚い人格者で、しかも清潔感のある和風美人。よく考えたらハルくんと相思相愛でもおかしくない!?


「八千草?」


 清沢先生は返事をしない私を少し心配そうな表情で覗き込んだ。


 ぐっ……! この人は宣戦布告とも取れるようなことを私に聞いておいて、どうしてこんなに冷静でいられるの!? これが大人の余裕なのかしら。私は頭の中に色々なことが駆け巡りすぎて、訳が分からない状況になっているのに!


 まるで私なんて最初から眼中にないような余裕だわ。


 悔しい。私はもう頭が真っ白で、今の状況を冷静に考える余裕なんてないのに。


 ……でも。今の私に大切なのは、余裕とかそういう表面上のものじゃない。


 自分の内側からの、心からのハルくんへの感情。


 そう。ハルくんのことが大大だーい好きっていう気持ちだもん!!


「ど、どういうつもりか知りませんけど、絶対に渡すつもりはありませんから!」


 私は先生に向かって叫んだ。


 ま、負けない! 私なんてまだまだ子供かもしれないけど、ハルくんのことを好きな期間は私がいっちばーーーーーん長いんだから!

 先生の大人の魅力にだって、絶対に負けないんだから!


「お、おう……。そうか。渡さない、か」


 先生は私の言葉に少し怯んたのか、少し驚いた表情をした後に、苦笑いともなんともとれないような表情になり、私から視線を外した。


「はい。私はいくらお世話になった清沢先生が相手でも、これだけは絶対に譲れません!」


「そうか……。それは、えーっと鵜久森のことだよな?」


「それ以外に何があるって言うんです!!」


「な……そ、そんなに私を睨むな詰め寄るな八千草。そうか。八千草はそこまで鵜久森のことを」


「そうですよ! 悪いですか? 私は小学生のときからずーーーーーっとハルくんのことが好きなんです!」


それだけは絶対に負けない! ハルくんのことを一番好きなのは私なんだから!


「あー、いや、すまん。そうだったとは知らんかった。全く鵜久森のやつも隅に置けないな」


「なぁーにをそんな他人事みたいに言っているんですか! 先生だってハルくんのことを狙っているんでしょう!」


「いや待て八千草。どうしてそうなる」


 先生の言葉に一瞬時が止まった。


「……へ?」


「あいつは私の大切な生徒だ。恋愛感情なんて持つわけないだろう」


「……ふ、ふぁい?」


「それにしても、いつも冷静な八千草がここまで自分を失うなんてな。そこまで鵜久森のことを想っているのか」


 先生は口の辺りに手をあて、少し気まずそうな様子で言葉を進める。


 ……。


 でぃぃぃぃぃいいいいいいい!! 

 

 や、やらかしたわ! 先生が紛らわしいことを言うから、私ったらとんでもないカミングアウトを!


 ここはなんとか誤魔化さないと!


「……い、いえ。嘘ですけど。鵜久森くんのことは別に普通です」


「普通?」


「ええ。普通です」


「さっきは鵜久森とは幼なじみで、他のやつには絶対に譲らないと言っていなかったか?」


「おおおお、幼なじみではあるんですけど、別にそんなに特別な関係じゃなくて、どちらかというと姉と弟という感じなんです。ほら、鵜久森くんってああ見えて子供っぽいところがあるし。もちろんそこが可愛いところでもあるんですよ? あ! でも真剣な時はすごいんです。この間だって期末テストでぶっちぎりの一位だったし、中学生の時は陸上部ですっごい速かったんですよ。それなのに自分のことを一切自慢しない控えめなところもまたかっこよくって、自分には厳しいのに人にはすっごいすっごい優しいんです。この間なんて袖についたメチル水銀を……」


「……待て八千草」


「はい?」


「鵜久森のいいところは良く分かった。最後のはかなり気になるがもう十分だ」


 先生は頭痛でもするのか頭を押さえながら私の言葉を制した。


「そ、そうですか」


 先生は一つ咳払いをし、改めて真剣な表情で私の方をみた。


「で、私が言いたかったのは鵜久森を生徒会にどうかという話だったんだが」


「鵜久森くんを生徒会に!?」


「ああそうだ。あいつは成績が優秀なのはもちろんのこと、生活態度も品行方正で模範的だ。職員の間でも時期生徒会長にあいつを押す声は多い」


 確かに先生の言う通りではあるわ。

 ハルくんは真っ直ぐな性格と圧倒的な成績もあって生徒会にうってつけの人材。まさしくキングオブ生徒会だわ。


 どうして気が付かなかったのかしら。

 ハルくんが生徒会にとって必要な人材だということも、それを口実にしたラブラブな展開も。そ、それこそ私にとって最高の展開じゃないの!!


「き、清沢先生! 私は鵜久森くんのことを個人的にはどうとも想っていませんが、生徒会には圧倒的に有用な人材だと思います!」


 ハルくんが生徒会になったら今以上に一緒にいられる♪ しかも一緒に下校したり、社会科見学の下見に行ったり……。


 うううううー! 最高だわ! 圧倒的だわ! 人間は己一人だわ!


「なるほど。八千草もそう思うか。……ただな」


 盛り上がる私に対して、先生は含みのある言葉を残し、視線を外した。


「ただ……? 鵜久森くんに何かあるんですか?」


 私は先生に詰め寄る。


 すると先生は少し眉間に皺を寄せ、真面目な表情で、


「私個人としては今のあいつには生徒会は任せられないと思っているんだ」

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