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有金駆は失神する③


 その後僕は部屋に有金の着替えとタオルを取りに戻り、びしょ濡れの有金にそれらを渡した。そんでもって有金が一通り体を拭き終え、旅館に入っても問題ないであろう濡れ具合になったところでそのまま温泉に向かった。

 で、今現在は誰もいない露天風呂に二人で肩までお湯に浸かっている。


 ずぅぃいいいいーーー。


 良き。ジャパニーズ天然温泉、実に良き。


 だって入った瞬間に気持ち良すぎて濁点混じりの声が出ちゃったもの。あらやだ僕ったら野蛮人☆ バーバリアン☆ でも僕だけじゃない。隣の有金も温泉に体が浸かった瞬間に「でぃいいいいいいい」って謎の唸り声を上げていたし。温泉の魔力恐るべし。

 しかも奥さんこの温泉、効能でリウマチにも効くんですって。え! リウマチに? すごーい! ていうかよく聞くけどリウマチってなに? 未だかつて罹患者に出会ったことがないよ?


「なあ有金。リウマチってどんな病気か知ってる?」


「詳しくは知らねーけど膝とか関節の炎症じゃなかったか?」


 なるほど。言われてみるとそれっぽい。そういえば『関節リウマチ』みたいに関節とセットで使われている言葉だった気もする。


「へー。なるほど。有金ってたまに博学なところがあるよな」


「へっ。そりゃー学年トップ様ほどではないですがね」


 有金はわざとらしく嫌味っぽい口調で言う。期末テストで僕に一位を奪われたことを根に持っているらしい。


「お前が将棋ばっかりやってて勉強しないからだろ」


 事実有金は僕と会長が部室で勉学に励んでいる間もずーっと江末と将棋をしていた。むしろあんな具合で学年二位をとれるんだからそれこそ天才なのだろう。


「いやちげーよ。あれは表向きだけそういう風にしてるだけだから」


「は?」


「まあ勉強時間は鵜久森より少なかったかも知れねーけど、家ではかなり勉強してたぜ?」


 意外な発言だった。こいつはそういう見えないところでの努力とかをしないものだと思っていた。


「有金はポテンシャルが高すぎて勉強しなくても点数が取れるもんだと思ってた」


「そんな人間存在しねーわ」


「まあ、そりゃあ確かにそうか」


「俺は元々勉強は嫌いじゃないしな。それに成績が悪いと特奨から下ろされるし」


 そうか。この目の前にいるチャラチャラした男は学校に四人しかいない特別奨学生なんだっけ。こいつは高校生のくせにギャンブル依存症というインパクトの強すぎる個性のせいで、他のことが霞んでしまう。


「有金って中学は?」


 何の気なしにありきたりなことを聞いてみた。有金が部室に来るようになってから1か月以上経つが、そんなことすらまだ知らない。


反町たんまち第二」


「たんまち? たんまちって横浜の?」


「ああ。その反町」


「へー。結構遠くだな」


 僕と会長は市内の中学校出身だが、有金の出身中学校は市外の少し離れたところだった。


「そんなに遠くもねーよ。電車だと三十五分くらいだし」


 家から学校まで歩いて数分の僕としては十分遠い気がするんだけど。まあでもその辺は慣れたらそんなに苦に感じないのかもしれない。


「でも市内にも進学校はあったんじゃないのか? あんまり反町から来てるやつって聞かないけど」


「まーな。同中のやつら俺含めて二人しかいねーし」


「もう一人はさっきの竜崎?」


 竜崎一颯。僕と綾辻のクラスメートで、先ほど長い腕を大きく振り、強烈なビンタで有金を失神に追い込んだ。

 

「ああ。なんだよ。話してるところからいたのか」


「盗み見るつもりはなかったんだけど」


「チビすけとハピ子も?」


 有金は綾辻のことをハピ子と呼んでいる。いつもハッピーそうだかららしい。ネーミングセンス皆無かお前は。


「まあそうだな。自動ドア越しだったから会話の内容までは聞こえてないけど」


「そうか。情けないところを見られちまったな」


「急にビンタされるからびっくりしたわ」


「ははは。俺が一番びっくりしたっつーの」


「笑い事じゃないだろ。お前泡吹いて倒れちゃうし」


 ラブコメ漫画とかの「のび太○んのエッチ案件」でビンタを食らうシーンは見たことあるが、顔に手の形の赤い痕が残るくらいで泡を吹いて倒れるケースは聞いたことがない。


「中学の時からいつも一颯にビンタされては失神してたな」


 まさかの失神定期。どんな中学時代を過ごしたらそうなるんだお前は。SMラブコメのドM主人公か。


 ……。


 いやSMラブコメってなんだよ。無いわそんなジャンル。思わず変なの出ちゃったわ。


「いやいつもってお前」


「一日に三回失神したこともあるし。まあ慣れれば別に悪いもんでもねーしな」


 女子のビンタでパンチドランカーになるんじゃない。新種の変態かお前は。


 ていうか一日に三回ってどういう状況だよ。


 「もう! どこ触ってるのよ! エッチ!」→有金失神→「大変だわ! 人工呼吸しなきゃ」→有金覚醒→「私の人工呼吸で目を覚ましたんだから感謝しなさいよね!」→有金「じ、人工呼吸!? それってつまり」→「もう! 何いやらしいこと考えてるのよ! エッチ!」→有金失神→「大変だわ! 人工呼吸しなきゃ」→有金覚醒、みたいな感じだろうか。


「まさかの永久機関じゃないか」


 これぞ正にSMラブコメの真骨頂。エンドレスビンタ失神プレイ。

 ダメだ。圧倒的に読者を選ぶ。二秒で打ち切りだ。


「は? 永久機関?」


「いや、すまん。なんでもない」


「ていうか何で鵜久森が一颯のこと知ってんだ?」


「同じクラスだし、あいつ綾辻と仲がいいんだよ」


 綾辻と竜崎はいつも昼食を一緒にとっているし、移動教室の時や体育の時もいつも一緒にいる。


「へー。ハピ子と一颯が」


「有金と竜崎は? 同じ中学なだけなのか?」


「んー。なんていうか腐れ縁の幼なじみだな。部活も一緒だった。偶然高校も同じになったし」


「仲がいいんだな」


「まあ確かに高校入学までは仲良かったんだろうな」


 有金は苦笑いを浮かべた。露天風呂の外に向けられたその目は少し寂しそうでもあった。

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