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心から部は合宿に行く②


 僕が綾辻の予告にビビり続けること一時間半。綾辻の補習が終わり、心から部のメンバーが久しぶりに全員部室に集結している。

 何故か滅多に顔を出さない顧問の清沢先生までいるし。


 そんな部室で、補習から解放されてテンションマックスの綾辻穂香さんが笑顔で一言。


「心から部は合宿をします!」


「……え? 何。もう一回言ってくれ」


 僕は綾辻の言葉を聞き返した。無論、本当に聞こえなかったわけではない。綾辻の口から出た言葉を信じたくなかっただけだ。


「だから合宿! 夏の部活といえばやっぱり合宿でしょ♪」


 綾辻は得意気に胸を張った。


 他人を助けるための部活が夏合宿とは一体。綾辻め。やっぱりろくでもないことを計画していた。


 加えて気になるのが綾辻と一緒に現れた清沢先生だ。この人がいるということは何かしらの面倒事を押し付けられるんじゃないだろうか。


「合宿ということは、校外で何泊かするのかしら」


 部室で勉強をしていた会長も綾辻の話に手を止めている。


「もっちろん♪」


「三浦海岸で体育会系の部活の合同合宿があってな」


 綾辻の後に先生が説明を付け加えた。


 へー体育会系の部活の合同合宿か。うちの学校はそんなことをしていたのか。まあでもこの部活は体育会じゃないからなあ。


「じゃあ僕たちは関係ないですね。クーラーの利いたこの部室でカルピスを飲みながらみんなでジェンガでもしていましょう」


「いいや。君たちも行くんだ。人手が足りなくてな」


 なるほど。そう来たか。

 僕たちは大して仲良くもない体育会の部活の奴らのために、雑用をしに行かなければならないってことか。


「とても行きたくないので行きません」


 だって行く意味が一つも見つからないもの。

 そもそも人手は自分たちで賄うべきだろう。何故スポーツをやっている連中は他人の奉仕を計算に入れているんだ。


「もう、ハルくん! 心から部はみんなの役に立つための部活なんだよ? 合宿の人手が足りないなら私たちでお手伝いしなきゃ!」


 と、僕の言葉に少しご立腹な様子の綾辻。毎度綾辻のマザーテレサのような奉仕の精神には頭が下がる。だがしかし。


「え? 嫌だけど。だって外暑いじゃん」


 僕は別に体育会の大して困っていない連中のために奉仕はしたくない。自分たちでなんとかせい。


「手伝い以外の時間は全部自由時間だぞ? 泊まる場所は温泉旅館だし、海が近いから遊びに行ってきてもいい」


 と、清沢先生も綾辻に続く。


「え? 嫌ですけど。だって海危ないですし」


 僕泳げないし、クラゲがいるし、場合によってはジョーズとかダイオウイカとかもいるかもしれないし。


「ハルくんが全然聞く耳を持たない!」


 綾辻は嘆くように言った。そして「むーっ」と頬を膨らませ、不満げな表情で僕の方を見ている。


「ちょっといいかしら」


 会長が不毛なやり取りに割って入る。


「なーに? 八千草先輩」


「それって私も行くのかしら」


「うん。今ここにいる人は全員参加して欲しいんだけど……。皆暇でしょ?」

 

 おい。勝手なことを言うな。人によっては習い事とか家族旅行とか色々あるだろう。会長に至っては一応生徒会長なんだぞ? 暇なわけないだろうが。


「泊まりで合宿……」


 会長は顎の当たりに手を当てたまま呟き、何かを考えるような仕草をした。


「八千草。お前は生徒会の方も忙しいだろう。厳しければキャンセルも出来るぞ」


 しかし先生の呼び掛けにも会長は無反応のまま、


「温泉、海、上半身裸……はだ、はだか!?」


 聞いているのかいないのか。何かをぶつぶつ呟きながら赤面した。大丈夫かしらこの人。


「……麗。鼻血が出てる」


「え!? きゃ、そん……」


 江末の指摘に慌ててティッシュを取り出す会長。


 また鼻血か。鼻の粘膜はどうなっているんだ一体。一度耳鼻科に行った方がいいよ。


 会長は鼻血を拭き終えると、キリッと表情を引き締め、


「私も行くわ」


 行くんかい。


「わーい♪ さすが八千草先輩!」


「生徒会としても各部活の夏の活動は見ておきたいしね」


 会長が腕を組んでそう言うと、有金と将棋の途中だった江末も続いた。


「……我も行く。皆でお泊まりなんて楽しそう」


 泊まりという言葉に少し鼻息粗めの江末。地球外生命体にしてはえらくかわいい理由だった。


「ふみちゃんありがとう♪ 皆で行けば絶対楽しくなるよ!」


 あらあら。みんな仲がよろしくて素敵。微笑ましくてこっちまで笑顔になっちゃう。でも僕は全然行きたくないからここら辺で失礼しようかしら。

 今なら誰も見ていないから、この隙にこっそり部室から脱け出せるよね。うん。そうしよう。

 あ。有金もここから逃げ出したいみたい。僕の後ろについて来るもの。

 よし。じゃあ二人で一緒に逃げよう。せーの、それー☆


「おい鵜久森と有金。逃げようとするな」


 僕と有金は姿勢を低くして部室から出ようとしたが、それに気付いた清沢先生に咎められた。畜生。惜しい。


「王子。駆。ずるはダメ」


 江末も非難の言葉を並べる。


「でも行きたくないんですもん」


 逃げ出す正当な理由が見つからないので、とりあえず子供みたいな言い訳をしてみた。


「観念しろ鵜久森。もう遅い。お前に関しては穂香から承認のサインを貰っている」


「な、おい! 綾辻!」


「だってわたしが部長だもん。わたしに部長やれって言ったのハルくんでしょ?」


 ぐっ。そう言われると確かにそうだ。


 なんだよ。結局僕も行かなきゃいけないのかよ。あーあ。適度に勉強しつつも夕方は家でダラダラしたかったのに。


「江末。海でサメかダイオウイカが出たときはよろしく頼む」


「……がってんしょうちのすけ」


 あら頼もしい。

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