心から部は合宿に行く①
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会長と映画館に行った翌日。月曜日になったので、僕は綾辻を補習に連れて行くために朝七時半に起き、ぼけーっと朝食のトーストを齧っている。うん。梅ジャム美味い。
まだあまり働いていない頭で、ゆっくりと昨日一日を振り返る。
今考えても色んなことがあった一日だったな。
会長と駅で待ち合わせをして、まさかあの会長が遅刻をしてきて、体当たりされて、映画を観て、喫茶店でお茶をして、一緒に帰って……。冷静に考えると普通のカップルみたいだ。自分がこんな経験をする日が来るなんて思ってもいなかった。
それも、昔からの幼なじみの会長と。
帰り道、会長は突然僕の手を優しく手を握った。
僕たちはぎこちなく手を繋いだまま、会長の家まで歩いた。
家の前に着くと会長は、「ま、またね!」と言い残して逃げるように家の中へと入っていった。
家に帰ってから会長に「今日はありがとうございました」とお礼のメールを送ったが、それに対する返信はまだ来ていない。
……。
これは今どういう状況なんだろうか。
わからん。自分がこの後どうするべきなのかが全くわからん。
そもそもメールは送るべきではなかったのか? いや、何も送らなかったらそれはそれで失礼だろう。じゃあもっとポップに明るく「やっほー♪ 今日は乙☆ 色々楽しすぎて激ワロリンヌ」とかそんな感じか? あああああわからん! 若者の常識がわからん! いや、そもそも若者の常識に置き換えて考える必要があるのか? 会長はそれ望んでいるのか?
そんなことを考えていると、ピンポーンと呼び鈴の鳴る音がした。
綾辻が来たみたいだ。今日は誰もいないから僕が出ないと。一旦昨日のことを考えるのは中止しよう。
僕が玄関のドアを開けると、綾辻が満面の笑みで待ちかまえていた。
「おはよっ! ハルくん」
今日も元気いっぱいの綾辻穂香さん十六歳。これから補習に行くのにこの元気。天真爛漫が服を着て歩いているようだ。
それにしても綾辻と会うの久し振りな気がするな。二日前に会ったばかりのはずなのに。
「おはよう綾辻。朝からテンション高いな」
僕は家の鍵を閉め、鍵を財布の小銭入れの中に入れた。
「へっへー♪ わかる?」
僕が歩き始めると、綾辻も隣に並んで歩き出す。
「ああ。言葉に音符が付いてる」
「今日でね、夏の補習が終わりなんだよ」
なるほど。だから朝からいつも以上にテンションが高いのか。毎日補習でおかしくなってしまったのかと思った。
「やっとか。随分長かったな」
「うん! 補習初日はもうどーしよーかと思ったよ」
「行きたく無さすぎて僕にしがみついていたもんな」
「はっはっはー! そんなのも今となってはいい思い出だね」
綾辻はまるで昔のことのように笑い飛ばした。まだ二週間しか経っていないんだけどな。
エレベーターで一階まで降り、エントランスから外に出た。
灼熱の太陽が容赦なく照りつける。あづい。もう帰りたい。
ただ僕が行かないと綾辻が補習をサボることになってしまうので、仕方がなく学校に向かって歩を進める。
「まあでも二週間よく頑張ったな」
「ほんと!? ハルくんもそう思う?」
綾辻はキラキラと目を輝かせた。
この人は純粋な心の持ち主なので、褒められると何でも素直に喜ぶ。
「ああ。嫌々ながらもサボらず毎日出てたし、ヘトヘトになるまで勉強してきてたし」
「エヘヘ。そう言われると少し照れるや」
「今日は部活に出れるんだろ?」
「うん。最終日はまとめテストだけだから一時間で終わるんだよ。その後に部室に行くね」
「わかった。皆で部室で待ってるよ」
江末と有金はどうせ将棋をやりに来るだろうし、会長も毎週月水金は生徒会がないから部室で勉強をしている。
「あ、そうだ!」
「どうした?」
「今日は部活の皆に大発表があるんだった♪」
「え」
なにそれやだこわい。
特にその何かを企んでいる得意そうな顔が余計に怖い。
「……何か良くないことを企んでいないよな」
「へへー。内緒♪」
あなたの内緒は怖いんですけど。大丈夫だよね? 補習が終わった解放感で何か変なこと始めないよね?




