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八千草麗は作戦を変える②

***


「また明日ね。おやすみなさい」


「おやすみなさい」


 私は電話を切り、スマートフォンを机に置いて立ち上がった。


 明日の朝十時に北口に集合。ハルくんと二人きりで待ち合わせ……。


 …………。


 私は高まる気持ちと共に拳を突き上げた。


 や、やった。やったわ……! つ、遂にハルくんと二人で、二人っきりで! これって二人の初デートってことよね!? 二人で待ち合わせをして、並んで歩いて、もしかしたらその、ててて手とか繋いじゃったり……! きゃあああん♥ いくら何でも大胆すぎるわ♥ でもアリかナシかで言ったらアリよ!大アリだわ……!


***


 三十分程前。私はお風呂の湯船に浸かり、今日一日の余韻に浸っていた。


「本当に今日は最っ高だわ……。今日の私は百点よ。いや、百二十点だわ」


 自画自賛したくなるほどに素敵な一日だった。


 だって今日、私はハルくんに今までの想いを伝えることができたんだから。ずっとずっと隠してきた、ハルくんへの私の想いを。


 ハルくんは幼なじみで弟のような存在だから、この気持ちはずっとしまわなきゃいけないと思っていた。

 想いを伝えることで関係が崩れてしまうくらいなら、気持ちをしまって姉であり続けよう。それが私の選んだ道だった。

 

 でも。


 私のハルくんへの想いは日を追う毎に大きくなり、ついに今日、抑えることが出来なくなった。


 私はあなたのことが好き。


 はっきりとハルくんに伝えた。


 隠し続けるはずの気持ちを、表に出してしまった。


 でも、後悔は全くなかった。


 むしろその言葉を口にした瞬間に、自分を縛っていた鎖がすべて粉々になったかのように気持ちが軽くなった。


 そっか。好きなものは好きなんだから、隠す必要なんてなかったんだ。


 告白をした私は、前向きで爽やかな気持ちになっていた。


 だって私はこのハルくんへの大切な気持ちを、もう隠さなくていいんだから。そう思うとハルくんへの想いが止め処なく溢れてくる。


 ハルくん。早く会いたいな。また来週の月曜日に部室で会うまでの辛抱ね。


 私は湯船から上がり、脱衣場に出た。洗濯機の上に置いておいたバスタオルで体を拭く。


 …………。


 ハルくんに会いたい。声が聞きたい。


 心の中の自分がそう呟いた。


 だ、ダメよ麗! 今日も私から誘ったのに明日もだなんて破廉恥だわ……! 月曜日にまた会えるんだから、それまでは我慢しなきゃ。


 私は自分に言い聞かせながらパジャマに着替え、ドライヤーで髪を乾かした。ブォーというやる気のない音と共に、温かい風が髪の毛を揺らす。

 

 …………。


 ハルくんに会いたい。


 あ、あれ? ダメだわ。ハルくんに会いたすぎて我慢ができない。月曜日までハルくんに会えないなんて絶対に絶対に耐えられない!


 ハルくん。会いたい。


 私はドライヤーを乱暴に片付け、乾ききっていない髪のまま二階へと駆け上がった。

 自分の部屋に入り、机の上に置いてあったスマートフォンで時間を確認する。


 よ、よし。まだ十時前だわ。


 ……。


 電話、しちゃおうかしら。


 で、でも、さすがに用事もないのに急に電話したらおかしいかしら。変な女って思われるかしら。もしかして出てくれないかも……。でもハルくんの声が聞きたいし……。ぐっ……! 悩ましすぎる……!


 仕方がないわね。ここは会議よ! 麗脳内会議を開催するわ!


 えー。今回の議題はハルくんに電話をするかどうかについてです。多数決を採ります。電話した方がいいと思う人ー。はーい。よし! 全会一致! 電話決定よ! ゴーよ! ゴーだわ!


***


 そんなこんなで私は破廉恥とは思いつつもデートの約束まで取り付け、明日はハルくんとデートという最高の休日を手に入れた。


 私はベッドに体を放り投げた。そしてそのまま枕に顔を埋める。


 でーと、でーとー♪ ハルくんと初でーとー♪


 ちゃんと明日のシュミレーションをしなくちゃ♪ まず、駅には私の方がちょっとだけ早く来て、私が待っているのに気が付いたハルくんが小走りでわたしの方にやってくるの。「ごめんなさい会長。待ちましたか?」って。そしたら私が「もー。ハルくんったら。女の子を待たせちゃダメだぞ?」って怒ったフリをするの。本当は全然怒ってないんだけど、可愛くぷいってそっぽを向くの。そうするとハルくんが、「ご、ごめんなさい! 機嫌を直してください。何でも言うこと聞きますから」って言ってきて、


「本当になんでも?」


「……できる範囲でですけど」


「じゃあ会長じゃなくて、麗って呼んで?」


「え!? そんな急に……」


「なんでも言うこと聞くんでしょ?」


「わ、わかりましたよ……。う、麗……」


 きゃーきゃーきゃーっ♥ 最高だわ! 最高よ! 永久保存版だわ!


 そんな感じで脳内で明日の妄想を捗らせていると、突然唇の辺りに少しひんやりとした感覚があった。何かと思って手で確認する。


「ん……? な、鼻血……!?」


 ハルくんとのデートを妄想していたら、大量の鼻血が吹き出していた。

 慌てて机の上のティッシュの箱を手繰り寄せた。そして中に手を突っ込んでティッシュをまとめて取り出し、大惨事になっている鼻にそのままあてる。


 わ、私ったらハルくんとの妄想で鼻血を出すなんて……。だ、ダメよ……! こんなの破廉恥を通り越して痴女だわ! 品行方正で清純可憐な生徒会長の八千草麗の名が廃るわ!


 こんなんじゃダメ。もっとハルくんがドキドキするような女の子にならなきゃ。明日はぜったいぜったい、最高のデートにするんだから。


 ハルくんと二人っきりで、行く場所は……。


 あ。


 私、遊びに誘うことで頭がいっぱいで、どこに行くかを決めていなかったわ。


 どうしようかしら。デートで行く場所。


 ……困ったわ。どこにいけばいいか全く分からない。


 こういう時って男女はどこに行くものなのかしら。と、とりあえず何か手掛かりを……。

 

「そうだわ! この間買った雑誌があったわ!」 


 突然の閃きに思わず声が出た。

 そうだ。あの雑誌の存在を忘れていた。江末さんに封印を命じられていたけど、何かの時に使うかもしれないと思い、引き出しの中にしまってあるあの雑誌。


 私は引き出しを漁り、もう使わないだろうと思っていた『月刊ギャル無双』を取り出した。


 相変わらず禍々しい表紙ね……。本当にこの雑誌の情報で大丈夫か心配になってきたわ。でも、今頼れるものはこれしかないし……。


 私は恐る恐るページを捲り、「相手が霊長類でも落とせる! ドキドキ必勝デートプラン☆」というデート特集コーナーのページを開こうとした。


 すると、ちょうど同じタイミングでスマートフォンの着信音が鳴り響いた。


 これはライン電話の音だわ。こんな時間に誰かしら……。


 画面を見ると、そこには江末ふみと表示されていた。彼女からこんな時間に電話なんて珍しい。


「もしもし。八千草よ」


「……麗。こんばんは」


 電話越しに江末さんの可愛らしい声が聞こえてきた。抑揚のない喋り方がいかにも江末さんらしい。


「こんばんは。江末さん。こんな時間にどうしたの?」


「……急に麗に電話しなきゃいけない気がして電話した」


「? どういうこと?」


「……単なる直感。でも我の直感は当たる」


「江末さんの直感……」


「……そう。麗、もしかして今あの禁断の書に手を出してない?」


 禁断の書とは、私が今まさに捲ろうとしている『月刊ギャル無双』のことを言っているのだろう。自分の行動をズバリ言い当てられて、思わずドキッとした。


「そ、実はそうなのよ。どうしても必要に刈られて」


 私の言葉に江末さんは溜め息をつき、


「……やっぱり。麗。その雑誌が必要になることは一生ない。燃やすか、全ページをアロンアルファで固定するかするべき」


「で、でも私、これくらいしか頼れるものがなくて……」


「……ねえ麗。麗はありのままが一番素敵だよ。それは前にも伝えたはず。そんなものを頼りにせず、麗のやりたいようにやるべき」


「江末さん……」


「……伝えるべきことは伝えた。では我は宇宙船ふねに戻らなければいけないから失礼する」


 江末さんはそう言って一方的に電話を切ってしまった。


「自分のやりたいように、か……」


 私は仰向けになり、天井を見上げた。


 私がハルくんと一番行きたい場所ってどこなのかしら。ハルくんと一緒に行く、一番楽しい場所って……。


 目を瞑って、しばらくの間考えた。ハルくんと私が一番笑顔になれる場所を。


 すると自然と一つの場所が頭に思い浮かんだ。


 よし。あそこにしよう。

 デートとして正解なのかは分からないけど、そんなの気にしてちゃダメよね。


 ありのままの私が一番ハルくんと行きたい場所。


 きっとハルくんも楽しんでくれるはずだわ。


 ハルくん。明日は素敵な一日にしようね。


 私は何だかいい夢が見れそうな気がして、少しウキウキした気持ちで部屋の電気を消した。

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