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鵜久森優里は許さない⑦


 疲れた。


 僕は体をベットに投げ出し、天井を見上げた。


 今日はあまりにも一日のうちに色々なことが起こりすぎた。


 会長の家に勉強をしに行き、会長のご両親と食事をして、会長に婚約者なんて存在しないことが発覚した。そしてその後、会長に婚約者は僕のことだと言われ、何故か急に優里が登場し、今度は優里の先輩のちゃらんぽらんが現れて、優里が持っていた僕を追跡する道具を取り上げて今に至る。


 何なんだこの怒涛の一日は。いくらなんでも滅茶苦茶だ。


 これだけ色々なことが起きたら、普通は頭の中がごちゃごちゃになって、思考停止状態でもおかしくない。


 でも、僕の頭の中は一つのことで埋め尽くされていた。


 会長が絞り出すように言ったあの言葉が何度も脳内で繰り返されている。


 会長の顔は真剣だった。何年も想い続けていたと言ってくれた。


 嬉しかった。


 僕も会長のことがずっと好きだったから。


 しっかりしているように見えるけど、意地っ張りで子供っぽいところがあるのが可愛らしくて、でも何かに真剣に取り組んでいる時はすごくカッコよくて、そんな会長に憧れていた。

 一緒にいると落ち着くのに、たまに見せる女の子らしい仕草や言葉には毎日ドキドキしていた。


 じゃあ今の僕はどうだろうかと改めて考える。


 会長に婚約者はいない。だから僕は今までずっと抑えてきた気持ちを我慢する必要はない。もう僕の気持ちを縛るものは何一つ存在しないんだ。


 でも。


 何一つ存在しないはずなのに、僕は昔の気持ちには戻れないでいた。


 自分の本心がわからない。


 僕はどうしたいのだろう。


 会長が差し出してくれた手を握ればいいのに、その決心がつかない。


 クソ。男らしくない。会長はあんなに勇気を振り絞って想いを伝えてくれたのに。何なんだ僕は。


 考えれば考えるほど頭の中はこんがらがった。


 ぐああああああ自分自信が本当にわからん。でもこんな中途半端な状況なのにどういうわけか会長に会いたい。理由は全くわからんが声が聞きたい。でも何かそれは誠実さに欠ける気がするしだああああああああ!


「こんこんこん」


 ブリッジをしながら悶えていると、ドアの外から声が聞こえた。

 ……優里か。さっきあれほどお灸を据えてやったのにタフなやつだ。


「……開いてるぞ」


 妹に構っている場合でもないのだが、無視するわけにもいかないので部屋に通す。


「えへへ。おじゃましまーす」


 優里はドアを開け、パジャマ姿で僕の部屋へと入ってきた。

 謎の機械を没収して不機嫌になっているかと思っていたが、意外にも機嫌が良さそうだ。 


「どうした。何か用か?」


「えっとね。ゆーね、ちょっとお兄ちゃんに聞きたいことがあるの」


 優里は少し遠慮がちに両手の指を交差させた。


「ああ。勉強の質問か。何でも聞いていいぞ」


「ううん。勉強じゃないの」


「違うのか。じゃあ何だ?」


 僕が聞くと、優里は少し真剣な顔になり、


「お兄ちゃんって麗お姉ちゃんと綾辻さん、どっちと付き合っているの?」


「は」


 妹からまさかの質問が飛んできた。こいつは急に部屋に来たと思ったらどうしてこんなタイムリーな質問を。


「今日お家に遊びに行ってたってことは、やっぱり付き合っているのは麗お姉ちゃん?」


「ま、待て。僕と会長はそういう間柄じゃない。今日も勉強会のために行っただけで……」


 僕の言葉に優里は不満そうな顔をして、


「ふーん。じゃあ綾辻さん?」


「な……! 綾辻って。どうして綾辻が出てくるんだよ」


「毎日一緒に学校に行ってるし、ラブラブじゃん」


 優里は少し口を尖らせた。


「べ、別にそんな関係じゃない。あれはあいつが極度の方向音痴だから一緒に行っているだけだ」


「ほんとにほんと?」


 優里は不安そうな顔で再確認した。


「本当だ」


 僕がそう答えるとみるみる表情を明るくし、


「そっか♪ じゃあゆーの取り越し苦労だったよ」


 優里は座っていたクッションから立ち上がり、ルンルンの様子で部屋を後にしようとした。


「お前は兄に恋人の一人も出来ない状況をもっと心配しろよ。このままだと優里の方が先に結婚式を挙げることになりそうな気がする」


 優里の背中に声をかける。


 ……自分で言ってみた後に気がついたが、優里の結婚式とか何それ悲しすぎる。私、式の最中に目を開けていられるかしら。


 そんな僕の軽口に優里はくるっと振り返り、


「大丈夫だよ。 ゆーとお兄ちゃんが結婚式をする日は同じ日だから♪」


「同じ日? わざわざ合わせるのか? そんなタイミング良くはいかないだろ」


 まあ親戚は集まるのが一度で済んで楽でいいだろうが。


「ゆーが大丈夫って言ったら大丈夫なの! お兄ちゃん、一緒に民法を越えようね♪」


 最後にそう言い残し、優里はドアを閉めた。


 みんぽーをこえよう? 何の話だ。女子中学生の言語は相変わらずわからん。ていうかそもそもあいつは何をしに……。


 ピリリリリリリリリリリリリリ。


 考えようとしたところで突如携帯の着信音が部屋に響いた。


 一体誰だこんな時間に。

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