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鵜久森優里は許さない⑥

「え……? は?」


 お兄ちゃんの態度が予想外だったのか、モト……なんとか先輩は表情をひきつらせ、言葉に困っているようです。


「いや、は? ではなくてだね。先ずは名前くらい名乗るべきではないかね」


 ふぉー! お兄ちゃんが何故か娘の彼氏が家に来たときの父親みたいなキャラになっています! 腕を組んで、口調まで変わっています。私たちのパパよりパパっぽい!


「……優里ちゃん。この人本当にお兄さん?」


 先輩は怪訝な表情で私に聞きました。


「失礼なことを言わないでください。私の血の繋がった実の兄です」


 本当はここで、「ね、お兄ちゃん♥」と腕に抱きつきたいところですが、学校関係の人がいる前なので我慢します。


 ちなみに、私とお兄ちゃんは、ちゃーんと血が繋がっています。


 私が今まで読んできた「妹系ラノベ」の中には、実は兄妹で血が繋がっていなかったパターンがいくつか存在しました。だから私は一時期、


「あれ。私とお兄ちゃんも、実は血が繋がっていないんじゃないかなぁ」


 と、真剣に考えていたことがありました。昔の私、可愛いーっ♪


 そんな可愛いことを考えていた昔の私は、勢い余って、寝ているお兄ちゃんから血液を採取し、勝手にDNA鑑定をしちゃいました。


 その結果、DNAはぴったんこで、余裕で実の兄妹でした。現実はなかなか甘くありません。


 その後、「じゃあ私とお兄ちゃんは結婚できないんだ……」と凹んだこともありましたが、今はもう立ち直っています。


 だって、民法は乗り越えるためにあるんだもん♪ これくらいの障害は、二人にとって何のそのだよね!


 さてさて。失礼なことを言うなと私に嗜められた先輩は、


「いや、そんなつもりじゃなくてさ。ははは……ちょっと変わったお兄さんだね」


 と、ひきつった笑いを浮かべています。


 ふんっ! お兄ちゃんは変わってるから素敵なんだもん! 先輩みたいな普通人間には一生わからないだろうけど!


「私が何かおかしかったかね」


 お兄ちゃんも負けじと先輩に言い返します。


 その父親キャラが既におかしいよお兄ちゃん! 語尾に「かね」をつける高校生なんて聞いたことないよ。


「あ……すいません。その……」


「まあいい。で、君は何者なんだね」


「あ、優里さんと同じ中学の本川と言います」


 先輩はお兄ちゃんの勢いに圧されたのか、ちゃんと自己紹介をし始めました。ですが相変わらず表情はひきつっています。


「ほほう。本川くんか。君はそもそも娘とはどういう関係なのかね」


 お兄ちゃん! キャラに入り込み過ぎだよ! 私は娘じゃなくて妹だよ!


「一学年上の先輩で……」


「先輩……? どうして学年が違う君が優里と知り合いなんだね。部活も陸部ではないだろう」


 お兄ちゃんは陸上部のOBなので、もし先輩が陸上部員だったら当然知っているはずです。


「えっと、俺はサッカー部でキャプテンをやっていて……」


 あ、そう言えばそうでした。サッカー部で部長だとかなんとか誰かが部室で言ってたっけ。


「中学のサッカー部でキャプテン……? そんなチャラチャラした輩と家の娘を仲良くさせるわけにはいかんなあ」


 で、出ました! お兄ちゃん得意の超理不尽な偏見! 勝手なイメージだけで発言をしています!   


「お、俺はチャラチャラなんかしていません! 本気でサッカーをやってるんです! サッカーに全てを捧げているんです!」


 先輩も必死で食い下がります。どうやらかなりサッカーが好きみたいです。その表情からサッカーに対する熱意が伝わってきます。


 しかしお兄ちゃんは覚めた表情で、


「残念ながら優里は部活だけ頑張ればいいみたいな考えのヤツが一番嫌いだ。諦めて退散しなさい」


 ふおぉー! さすがお兄ちゃん! 優里の考えていることは何でもお見通しみたいです! 優里が一番言いたかったことを言ってくれました。


 さすがにこの言葉は致命的だったようで、先輩はしょぼーんと肩を落とし、言葉通り退散していきました。


「あ、行っちゃった……。もしかして僕、言い過ぎだったか?」


 先輩がいなくなった途端、お兄ちゃんのキャラが元に戻りました。今更相手に気を使っています。


「ううん? ぜーんぜんっ! おかげで助かったよ! お兄ちゃん♪」


 私は少し勢いをつけてお兄ちゃんの腕に抱きつきました。


「お、おい優里。あんまりくっつくな」


 エヘヘ。学校での悩み事がお兄ちゃんのおかげで解決しちゃった。それとお兄ちゃんの妹への愛を再確認できて、とっても幸せ♪


 私が幸せな気持ちに浸っていると、カランッと何かが落ちる音がしました。


 ん? 何の音? と思って地面を見ます。


 すると、私とお兄ちゃんの目の前に、『お兄ちゃんレーダーⅢ』が転がっていました。


「…………」


 お兄ちゃんと私は暫く無言でレーダーを見つめました。


 ふわああああ! やってしまいました……! ポケットに入れていたお兄ちゃんレーダーⅢが抱きついた勢いで飛び出してしまいました!


 お兄ちゃんは訝しげな表情で、


「……何だそのドラゴンレ⚫ダーみたいなやつ」


 ひいいいい! お兄ちゃんが完全に怪しんでいる! しかもレーダーなことがバレてる! デザインを国民的アニメのアレにしたことが裏目に出ました。


 私は慌ててアスファルトに落ちたレーダーを拾います。


「あは、あははははー……」


 とりあえず笑ってごまかしました。もしかしたらオモチャを落としたくらいにしか思っていないかもしれません。


「おい優里。お前今なんか怪しいの出したよなあ。ほらまだ右手に持っているだろ」


 残念ながらバレバレでした。うぅ、どうしよう……。


 よし……! ここは仕方がないので強行策です!


「こ、これは……時計だよ!」


「へ、そんなでかい時計しか作れないような科学力でよくこんな星まで……ってんな訳あるか! そんなバレバレの嘘に騙されるわけないだろ! それが僕の位置を把握する道具だな?」


 残念ながら脳筋サイヤ人を騙すようには行きませんでした。これ以上はもう誤魔化しきれそうにありません。


 あぁー。バレちゃった……。



 私はその後、家で正座をして延々とお兄ちゃんにお説教をされ、お兄ちゃんレーダーⅢも没収されてしまいました。


 うぅ。詰めが甘かったよぅ……。私のばかばか……。


 でもまあいっか♪ 凹んでいても始まりません。私たちは民法を乗り越えるんですから、これくらいの障害なんてどうってことないです!


 よーし! 今日の夜から早速、お兄ちゃんレーダーⅣの製作に取り掛かろーっと♪

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