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八千草麗は諦めない⑥

「え? わ、私? どこかおかしいかしら……」


 会長は江末の言葉にオロオロと狼狽え出した。いや、本気かこの人。どこがおかしいかって、ほぼ全部だわ。会長は本当にウケ狙いでも罰ゲームでもなく、自ら進んでこの化粧をしてきたようだ。


「いや、あのですね会長……」


 僕が会長に顔面がとんでもないことになっていることを指摘しようとすると、


「……王子。ここは我に任せて」


 と、冷静な口調で江末が言った。


「任せてってお前」


 僕がそう言うと江末は僕の顔を見上げて、


「……とにかく十分くらい外で待ってて? 十分経てば、麗は元に戻っているから」


 と、僕はそのまま部室の外に押し出されてしまった。え、僕邪魔なの? 江末さーん。疎外感を感じずにはいられないんだけど。

 悲しみにくれていると江末が部室のドアから顔だけ出して、


「……王子は麗にデリカシーの欠片もないツッコミを入れそうだから一回休み」


 とだけ言い、再びバタンとドアを閉めてしまった。


 ……仕方がないか。僕のデリカシーが著しく欠如していることは、綾辻にも会長にも、妹にまで言われたことがあるしな。自覚はあまりないんだけどなあ……。まあとにかくここは江末に任せよう。デリカシー無しの助は購買で三人分の飲み物でも買ってくるかな。

 

***


「うぅっ……。江末さん。私、失敗しちゃったのかしら。鵜久森くんに変な女だって思われちゃったかしら」


 ハルくんが部室を出て行った後、徐々に冷静になってきた私は自分がやらかしたことに完全に気がついた。気合いを入れて生徒会室でしてきたメイクは大失敗だったらしい。先ほど手鏡で自分の顔を確認したところ、未開の地に住むバーバリアンみたいになっていた。

 一体どうしてこうなったのか。私はただ雑誌に書いてあった通りに実践だけなのに。やる気が空回りするのはよくあることだけど、ここまで酷いことになるなんて。


「……大丈夫。多分王子は前から麗のことを変だって思っているから」


「え!? そうなの!?」


 驚愕の事実だった。わ、私って元から変な女だったの? ハルくんにもそう思われていたの? さ、さすがにそれはないわよね。江末さんの冗談よね? 


「……麗。立ち上がると顔が拭けない」


 江末さんは私の向かい側に座り、悲しみにくれる私の顔を、メイク落としで拭いてくれている。本当にこの子はいつも優しい。


「ご、ごめんなさい」


 私が椅子に座り直すと、江末さんは顎から首にかけての辺りを丁寧に拭き始めた。なんだか少しくすぐったい。


「……だから王子はびっくりはしただろうけど、そこまで気にする必要はない。もう一度しっかり勉強に誘うべき」


「そうなのかしら……」


 そう。私の今日の目的はハルくんを勉強に誘うことだった。でも今となっては誘える自信が全くない。一度でもあの顔面でハルくんの目の前に現れてしまった時点で、今すぐここから消えてなくなりたい気分だ。こんな状態でハルくんと話すことなんてとても……。


「……終わった。悪霊は退散した。いつもの綺麗で可愛い麗に戻った」


 江末さんは手鏡を私の方へと向けた。バーバリアンはいなくなり、いつもの私が写っている。


「本当にありがとう江末さん。あなたがいなかったらと思うとゾッとするわ」


「……我は麗の味方。これくらいは当たり前。でも、麗はどうしてこんなメイクをしてきたの? 理由が知りたい」


 江末さんはいつもの無表情で私に聞いた。


「それは今日が鵜久森くんに大切なお願いをする日だったから……」


「……それは知っている。王子と勉強をするように提案をしたのは我。我が聞きたいのは麗がガングロでやって来た理由。どうして大切なお願いの日にガングロなの?」


「や、やっぱりおかしなお化粧だったわよね。でも雑誌なんてどれも同じだと思って……」


「……雑誌?」


 私は鞄の中から一冊の雑誌を取り出し、江末さんに渡した。

 そう。この雑誌こそ私がバーバリアンと化した原因。その名も「月刊ギャル無双」。今考えるとタイトルからして大分マズいこの雑誌を、何故私は買ったのか……。話は昨日に遡る。

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